仕事
午後になると仕事の見学になった。午前の授業とは違い、仕事は全員参加となる為、沢山の子供達が仕事部屋に座っていた。3階のこの仕事部屋だけでは入りきらない程の人数がいるため、4階のもう一つの仕事部屋も解放しているという。
アリアの説明によると、仕事内容は魔術具の部品の組み立てになり、納品目標と言って完成させる個数が一定の期間によって決まっていることがほとんどであるため、その期限が迫ると、仕事時間が増える事もあるという。
アリア曰く、
「組み立ては簡単だから、誰でも出来るわ。」
という話だった。その為説明と見学が終わると組み立ての練習は行わず、文字の勉強の為に自室へ移動した。
戻った二人は、部屋にある二つの机を突き合わせ、向かい合う形で勉強を始めた。予想以上にアリアの教え方が上手く、私は自分の中に驚くほど早くしみ込んでいく知識に勉強の楽しさを感じていた。それと同時に、先程のジョシュアというそばかすの印象的な少年に食堂で言われた言葉が、ずっと心に引っかかっていた。
「はい、今日はここで終わりになるわ。今から夕食の時間になるし丁度良いでしょう。割と良く出来ていた方だと思うわ。でもこれ、何度も間違えてたから気を付け……何?」
アリアは暗い表情をし俯く私を、一旦無視しようと思ったものの、自分の話すらも聞いていないような様子だった為、渋々ながらも声を掛けた。
「さっきの事が気になってて。」
「さっきって…ああ、もしかして食堂でのジョシュアに言われた事?そんな事気にしてたの?」
小さな声で話す私に多少の苛立ちを覚えながらも、ため息交じりでアリアは答えた。
「私、あの授業を受けてた子達に謝りたい。」
顔を上げた私はアリアを見つめた。
「謝りたいからあの中級の授業を受けていた子達を教えてほしい。」
「謝りたいってあなた、あの場にいた全員に謝るつもり?ジョシュアだけじゃなくて?」
「うん、もちろんジョシュアには一番に謝りたいんだけど、他の子達にもきちんと謝りたい。アリアにも迷惑かけてるね、ごめんなさい。でもアリアが言ってくれた、家族のような存在って言葉。私ずっと家族に憧れてたの。そんな憧れの存在がやっと出来たのに、迷惑を掛けちゃった。それがずっと気になって。やっぱり、しっかり皆に謝りたい。」
言い終わった私は、言葉にしたことで更に後悔の念が強くなり、またしても俯いた。
「はあ…明日は一日文字の勉強にしようと思ってたんだけど…。」
アリアは机に頬杖をつき、呆れ顔で続けた。
「まあいいわ、明日の中級の授業にまた行きましょう。そこになら今日と同じ全員が揃ってるから。但し、文字の勉強は遅れるだろうから、その分は自分で取り戻すこと。」
「分かった!ありがとうアリア!」
途端に明るさを取り戻した私は、ぐぅ~と部屋に鳴り響いた腹の虫を抑えると赤い顔で、
「はは、さっきお昼食べた気がしなかったからお腹すいちゃって。」
と誤魔化した。
「まったく、食堂に行くわよ。」
そそくさと歩いていくアリアを見ながら私は、出会ってから微笑みもしなかったアリアの顔に、心なしか笑みが浮かんでいたような気がして、気付かれないようにクスりと笑った。