注意
挨拶を受けた子供達は私をチラリと見ると一言も発する事なくまた食事に戻ったり、掲示物を見たりと各々がしていた事を続けた。
他の子供達と仲良くしたいと考えていた私は傍目にも分かるほどガックリと肩を落とした。
「まあ、皆ライバルだもの。仲良くする気はないでしょうね。」
とアリアが小さく呟いたその声は、私の耳には届かなかった。
落ち込む私だったが、そこに一人の少女が駆け寄ってきた。歳は私よりも3つ程下だろうか。私の元まで来た少女は背伸びをし、両手を口元にあてて内緒話をするような素振りを見せた為、それに合わせて少ししゃがむと、
「あたし、リリー。お姉ちゃんより少し早くここに入ったんだけど、皆あんまり仲良くしてくれないの。お姉ちゃんは仲良くしてくれる?」
と耳元で囁いた。
私の肩程の身長の、クリクリとカールした赤毛の印象的な少女は、不安げな表情で返事を待っていた。
思ってもみない提案と、¨お姉ちゃん¨という言葉に途端に嬉しくなった私は、リリーの両手をガバっと取ると
「もちろん!よろしくね!」
と力強く返事をした。
するとリリーは嬉しさを滲ませた、花がほころんだ様な笑みを見せた。それにつられて私も笑みがこぼれた。
返事に満足した様子のリリーは
「ご飯食べなきゃ、またね!」
と元の席に戻っていった。そんな姿を名残惜しそうに見つめ、一緒に昼食を食べたくて声を掛けようかと思案していると、
「なあ。」
と後ろから声がした。
驚いたエマが振り返るとそこには、エマとほとんど背丈が変わらないくらいの少年が立っていた。頬のそばかすが目立っている。
「さっき中級の授業ででかい声出したのあんただろ。俺ら生きる為に勉強してんだよ。あんたはお遊びのつもりか何だか知らないけど、貴重な授業の邪魔しないでくれ。」
少年は鋭い目つきで言いたい事だけを言うと、足早に去っていった。
突然の事に私が呆けていると
「まあジョシュアの言う通りね。」
とアリアが呟いた。
「ここはあなたが今まで生きてきたように、自分一人で好き勝手生きてはいけないわ。言うなれば新しい家族との共同生活ってところね。皆と上手くやれるようになりなさい。」
私の頭には少年の言葉がぐるぐると回っていた。確かにあの時、自分の事しか考えていなかった。魔術の事で頭が一杯だった。私にとってもここでの勉強はこれからの生活の為の、言わば命がけのものだ。迷惑をかけたという事実を実感すると、後悔と罪悪感が私を締め付けた。
そしてアリアの新しい家族という言葉。私は今まで孤児として覚悟を持って生きながらも、多少なりとも家族に憧れがあった。街ですれ違う家族を羨んだりもした。もう記憶にもない家族の事を想像したりもした。そんな夢でもあった家族のような存在が出来たのに、迷惑をかけてしまった。
いつまでもうだうだと悩みこむ私はアリアに食事を促されたが、昼食を食べながらも悶々とその事を考え続け、楽しみだったパンも、魚も、野菜も、あまり味を感じなかった。