エディ・ランチェスターは白衣の女神様を振り向かせたい
ご無沙汰しております。
エディの恋の行方が気になると感想をいただきましたので、エディが主人公の番外編を投稿します!
お楽しみいただけますと嬉しいです!
エルネス連邦共和国の国軍本部の門の前で、その場に似つかわしくない華やかな装いをした一人の男が、膝から崩れ落ちた。
彼の手から深紅の薔薇を集めた大きなの花束が落ちてしまい、風が吹いてその花弁を攫っていく。
「ミラー医務官が……出征について行った?!」
「はい。つい先ほど、水害発生地域への緊急支援要請を受けて出て行きました。約束を守れず申し訳ございませんと、言付けを預かっております」
「くっ……運命の悪戯が過ぎる。俺はいつになったら逢引できるんだ……!」
「これで通算二十回目ですね。五十回目になる前にはきっとできますよ! 頑張ってください!」
「頼むから逢引に失敗した数を数えないでくれ……」
外食に観劇にパーティー。
あれこれと計画してミラー医務官との逢引を画策しているのだが、緊急出動のせいで一度も成功した試しがない。
そのような経緯もあり、これまでに何度も顔を合わせてきた門番の警備兵は、心底同情してエディの肩に手を置くのだった。
***
仕事のせいとはいえ、約束をすっぽかされてしまったエディは、予約した店にジーンを呼びつけてヤケ酒を始めた。
「いっそのこと、共和国軍の医療部隊と業務提携したらミラー医務官に会える確率が上がるだろうか?」
「会える回数が増えるだけで、進展はしないんじゃないか? むしろ取引先として認識されてしまいそうだ」
「恐ろしい予言は止めてくれ。本当にそうなりそうで怖い」
「わかっているなら職権乱用は止めろ。仕事に恋愛を持ち込むな」
「ううっ……冷たい。落ち込んでいる親友を励ましてくれよ」
「暴走しそうな社長を止めて社員を守るのが社長秘書の仕事だからな」
白ワインが入った華奢なワイングラスをくるりと回したジーンは、目の前で頭を抱えて嘆いている腐れ縁の色男を見て、小さく溜息をつく。
この男の恋が上手くいった試しがないのは同情するが、やることなすことが極端だから失敗してしまうのだとわかってほしい。
そろそろ勉強してほしいところだが、恋は人を盲目にするようで、今回も間違った方向に全力疾走しそうで心配だ。
「会うのが難しいのなら、会わないで気持ちを伝えるのはどうだ?」
「おいおい、ジーン君。俺はスタイナー少将とは違って魔法が使えないんだ。普通の人間でもできる方法を教えてくれないか?」
「手紙を送ればいい。贈り物を添えて送るの得意だろ?」
「手紙ねぇ……返事が来なかったらどうしよう」
「少なくとも今より気持ちを伝えられる機会ができるんだから、文句を言うな」
「そうだけど、どうしても返事を期待してしまうだろ?」
「……驚いた。よっぽどミラー医務官には本気なんだな。今までは相手にされなかったらそこまでだと割り切っていたのに、今回は随分と違うな」
「まあね。本気の失恋を経験して変わったんだよ」
ジーンは何も言わずにワインを口に含んだ。
恋多き友人が街中で出会った少女の才能にも人柄にも惚れたのは数カ月前。
相手には長年恋い慕う幼馴染がいて、この友人が入る余地はなく――その恋はあっけなく幕を閉じてしまった。
それでもエディは少女の恋を叶えるために、健気にも彼女に協力していた。
お人好しのこの友人の恋が、次こそ成就してくれたらと切に願う。
「ミラー医務官の何に惚れているんだ?」
「う~ん、一番は仕事をしている時の真剣な眼差しかな。あの目を見てぞくっとしちゃった。あと、突き放すような言い方をするのに、なんやかんやで世話焼きなところとか、思ったことを率直に言ってしまうところとか――とにかく、全部好き」
「……そうか。重症だな」
ジーンは上着の胸ポケットから一枚の紙を取り出し、エディの目の前に置いた。
「ミラー医務官は菓子と可愛らしいものが好きらしい。彼女が好みそうな店を見繕ってきたから店に行ってみろ」
「ええっ?! いつの間に調べていたの?」
「お前の溜息を聞くのに飽きてきたからリーゼさんに聞いてきたんだよ。あの二人は仲が良いから」
「そっか~。リーゼちゃんは今、共和国軍本部で働いているから毎日会えるもんね。羨ましいな~」
なお、リーゼは共和国軍本部では<冷血のスタイナー少将>の妻として軍人たちから恐れられているらしい。
迂闊に話しかけては<冷血のスタイナー少将>の不興を買うと囁かれ、遠巻きに見られているそうだ。
そんなリーゼと唯一心置きなく交流できるのがミラー医務官のようで。
リーゼからその事情を聞いたジーンは、過保護な魔法使いに囚われている亡国の姫君に、心底同情したのだった。
***
災害派遣から戻ってきたミラー医務官は、医務室の机の上に置いてある可愛らしい包みと華やかなカードを見て茫然と立ち尽くした。
男所帯の軍ではなかなかお目にかけないパステルカラーの花が描かれた包装紙には、真っ白で艶やかなサテンリボンがかけられている。
幻覚でも見たのだろうかと、一度目を擦った。
「これはいったい……?」
間違いでここに送られてきたのだろうかと思ってカードを読んでみると、そこには流麗な文字でミラー医務官を労う言葉が書かれている。
差出人の名前は――。
「ああ、ランチェスターさんからの差し入れですか」
箔押しされている洒落たカードには、『女神様の熱心な信奉者、エディ・ランチェスターより』と書かれている。
包みを開けてみると、中には紙でできた箱が入っており、こちらもまた可愛らしい淡い水色で、白色の線でレースのような柄が描かれている。
箱の蓋を開けると、中には可愛らしい色合いのマカロンが入っており、ミラー医務官は思わず頬を緩ませた。
「こんなにも可愛い贈り物、生れて初めてだわ」
冷たい印象を与えてしまう容姿のせいか、可愛らしい贈り物をもらった試しがない。
本当は可愛いものが大好きだが、昔の恋人から「似合わない」と言われてから、なんとなく避けてしまうようになった。
(ランチェスターさんはどうなのかしら?)
彼は本当の自分を受け入れてくれるだろうか。
こんなにも仕事漬けの女を好きになってくれるだろうか。
ふと、そんなことを考えてしまう。
これまでに何人か恋人はいたものの、彼女の仕事にかける熱意への理解がなく、長くは続かなかった。
仕事が原因で失恋が続くと恋愛が面倒になってしまい、気づけばご無沙汰になっている。
(この人もきっと、そのうち興味はなくなるはずだわ。だって、これまでのお誘いを全部すっぽかしているもの)
昔の恋人たちの言葉を思い出してむしゃくしゃしたミラー医務官は、箱の蓋をそっと閉じた。
この時のミラー医務官はまだ知らなかった。
エディ・ランチェスターという男がどれほど自分を想っているのかを。
次話は3/1に更新予定です。




