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スライムライダーな物語

【短編】スライムライダー外伝~パーティーを追放されるのは俺の幼馴染か

 このお話は、『スライムライダ―』のジャンとジャンヌが冒険者となった後のお話です。その昔廃ファンで流行った、幼馴染・追放・ざまぁのパロです。


スライムライダー外伝~パーティーを追放されるのは俺の幼馴染か



 古来、「素人は戦術を語り、玄人は兵站を語る」という言葉がある。


 戦いを支えるのに最も基盤となる『兵站』から戦略・作戦・戦術・戦闘と組上げて行くのが本物の戦争指導者であり、その最終局面だけに注目し「いかに戦闘で勝つか」にしか視点が向かわないのは戦闘の素人あるいは、駈出しであるというものである。


 どのような英雄も、水なしであれば三日と持たない。食料・休息・医療・安全な拠点の確保といった背景(ロジスティック)を失えば、優秀な冒険者であっても長く活動する事は出来ない。


 残念ながら、その視点を共有できるほど冒険者という職業に就く者、とりわけ、『脳筋』『なんでも真っ二つにしてしまう怒らせると怖い男』といった存在は、己の力を過信するあまり、視野狭窄となり『素人』の目線で物事を考えやすくなることが少なくない。


 世間では分かりやすい存在としてやれ『剣聖』だ『賢者』だ『大魔導師』だ、ともてはやすが、人間、三日も水抜き飯抜き睡眠抜きならその力を発揮することができずに倒れることになりかねない。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「ジャンヌぅぅぅ!!! 貴様を追放するぅぅ!!!」


 ジャンヌは薬師として冒険者パーティーに参加していた。魔力は少なく、作るポーションも並程度の品質。稼げる冒険者なら、他の薬師から金を払ってより良いポーションを買う事も出来るだろう。


 声高に宣言したのは、パーティーのリーダーを自称する『アンドリュ』という名の従騎士崩れの傭兵である。騎士になるには金とコネが不足していたため、傭兵に転職した男だ。


「な、なんで……」


 突然の追放宣言に、当人は大いに戸惑う。視線は激しく揺れ動き、動揺が隠しきれていない。

















「言わせんなよジャンヌ」

「お前、戦闘では全然役立たずだろ。まあ、自分の身くらいは守れるけどよ。それでも、役に立っているとは言えねぇな」


 ジャンヌは同じ街の鍛冶師の息子『ジャン』と冒険者となり諸国を巡りつつ薬師としての腕を磨いていた。その途中で、『アンドリュ』ら三人の傭兵崩れとパーティーを組んで今まで活動してきた。


「戦闘? そもそも、そんな事最初から期待していないし、それ以外に大切なことが冒険者には沢山あるってわからないの?」

「……ミナ姐さん……」


 ミナは狩人出身の弓銃手で、斥候役を務めることもできる。法国語・山国語・王国語・帝国語・神国語が話せる上、傭兵としての経験もある頼れる女性だ。


「ミナの言う通りだ。それに、冒険を継続するための安全な食料の手配や、体調を整える工夫なんかは、ジャンヌが薬師として手を尽くしてくれているから成り立ってるんじゃねぇの?」


 ジャンヌを庇うのは相棒のジャン。『スライムライダー』という謎の加護を持つ冒険者で、魔剣士として遊撃を担当している。


「ではジャン、貴様はその女が戦闘に参加しないことに不満が無いというのか」


 アンドリュは『勇者』の加護持ちであり、従者上りの『戦士』を二人もっている。従騎士は騎士と同様の装備を有し、騎士になる可能性がある身分だが、従者は『使用人』であり騎士・従騎士に従い身の回りの世話をする傍ら、軽易な武装をし戦場に付き従う事もある。


 二人は取り立ててもらう事を前提に騎士に雇用されていたが、目途がたたなかったこともあり、アンドリュについて傭兵となった者たちだ。一人は『盾持』の『バッシュ』、一人はヴォージェ遣いの『ハルベルト』だ。


 バッシュの物言いにジャンは大げさリアクションでやれやれとばかりに口を開く。


「あるわけねぇ。そもそもなんで薬師が戦闘に参加しなきゃなんねぇの? じゃあおまえら、食事の用意もして、ポーション作って、森や草原で食える野草とか採取して、あと、必要な装備街で調達したり作ったりしろよ。それになぁ、お前らの装備のメンテに必要な油や道具もジャンヌが作って管理してるんだが、わかってんのか?」


『騎士』の身に纏うような金属鎧はメンテナンスが面倒である。鎖帷子を砂で揉んで磨いたり、板金部分にも油を塗布して磨き上げたりだ。でなければ、屋外で使用している間にどんどん錆びてしまう。騎士の装備は作るのに金がかかるだけでなく、身に着けている間も手間も金もかかるのが常識なのだ。


「ふん、そんなものは戦いに参加しないものが担うのが当然だ!!」

「……いや、騎士ならその見習とか従者がやるもんだろ? なんで薬師がそんなことしなきゃならねぇの。もしそれが事実なら、むしろ役に立ってるじゃねえかジャンヌは」


 戦闘に役に立たないというのは最終局面であるにすぎない。むしろ、逆の話なのだ。











「あのね、馬鹿にも判るように話すわ」


 ミナが痺れを切らせて話を始める。


「騎士は騎士だけでは成り立たないの。戦場で乗る馬、移動に使う数頭の騎乗用の馬、装備を背負う駄馬、その馬の世話をする者が必要。鎧も自分だけでは身に着けられないし、メンテナンスも毎日する必要がある。その為に、『盾持』『槍持』といった名称で従者を何人も連れて行かなきゃならないじゃない。言い換えれば、騎士は世話を焼いてくれる人間がいなきゃ、役立たずなの。わかる?」


 騎士の戦力を維持するには、数人の世話焼きが必要となる。全身を覆う鎧は、戦闘時に完全に身につける装備であり、平素は鎧下や重要な部分以外は装備していないのが通常だ。つまり、メンテにも装備するにも時間と手間がかかる。その分、威力は有るものの戦場で発揮する槍の穂先の如き存在にすぎない。


「槍だって、突き刺さるのは穂先だけど、それ以外の部分があって初めて役に立つんでしょ? あんたたちの言ってることは、穂先以外不要だ!! って喚いているのと同じだって気が付かないのかね?」


 騎士の話、槍の話で言われると言い返せなくなる。勇者だ盾持だ矛槍士だと騒いだところで、それを支える存在ありきなのだから。


「だが……追放は決定だ。勇者に二言はない」


 戦場において勇者の能力は決定的でもある。中隊単位での戦意と能力の向上を発揮する。『祝福』と同じ効果を数人ではなく、百人近くにもたらす故に、戦場では大いに重宝される。戦場ではだ。


「じゃ、俺もジャンヌと一緒に追放で」

「私もねー。あのさ、アンドリュ。あんたの能力、私とジャン君には関係ないから」

「……へ?」


 勇者の影響力は、勇者本人から精々半径50m程の範囲なのだ。戦場で密集隊形を取っていればその効果は絶大だろうが、冒険者として散開して行動する上、ミナは弓銃兵の狩人、ジャンはスライムで身体強化をする遊撃の魔剣士であるから、その能力の恩恵を受ける機会がほとんどない。


 別動隊に、勇者の加護の恩恵は戦う距離的に及んでいないからだ。


「最後に討伐するのは勇者や矛槍士かもしれねぇけど、そこに至る過程ってのがあるだろ? ミナは狩人だから良く解ってるけどさ」

「獲物を発見するのも大切だし、効率よく狩る為の段取りだって重要ね。そもそも、何日も野営して安全に過ごす事や、山野で自給できる技術も必要。戦闘で負った傷の応急処置だって当然要求されるわ。


――― で、あんたら、ジャンヌにおんぶにだっこなくせに、舐めた口聞いてくれるじゃない……」





「「「……」」」


 ジャンヌは自分が口を出す間もなく、前衛組と遊撃後衛組でパーティーが別れてしまったことに当惑する。


「あ、あの」

「……何だよジャンヌ。お前も何か言いたいことが有るなら言え」


 ジャンヌは引っ込み思案でも気弱でもない、むしろジャンの尻を叩くくらいには勝気な性格である。とはいえ、言い返す前にジャンとミナが全て反論してくれたので言い返す間がなかったのである。


「ジャンとミナ姐さんと三人で冒険者している時と比べると、アンドリュさんたちが加わってから正直しんどいんです」


 ミナ曰く


――― 戦闘以外役に立たない


 のだそうだ。


「自分で食料調達するわけでも、調理するわけでもないし」

「……そんなものは、従軍商人や酒保商人がするもので……」


騎士やそれが伴う軍、参加する傭兵もそうだが、軍の補給や食料の調達は軍に同行する『商人』が執り行ってくれるのである。戦闘に巻き込まれないように距離を置き同行する『動く都市』とも言えるその存在は、鍛冶師や錬金術師、医師や料理人、武具商人に雑貨屋に衣装屋など、様々な人間が同行している。また、捕虜を取った場合に相手の貴族と交渉する『交渉代理人』も同行しているのが普通だ。手数料を取って、捕虜の身代金を受け取る存在だ。


 冒険者にそんなものが同行しているわけがない。故に、自分自身で担うか、立ち寄った街や本拠地を置く街で執り行わねばならない。


「いないよねそんなもの」

「はぁ、これだから騎士崩れの傭兵なんかとパーティー組むの嫌だったんだよ」

「「「なっ!!」」」


 アンドリュ達は、自分のような従騎士から傭兵になった者とパーティーを組んでやってるのだから、当然ジャン達は感謝していると思っていた。


「探索は戦争じゃねぇ。戦争は戦場で勝つための段取りを、指揮する司令官なり、貴族が担ってくれるから、それ以外の戦場にたどり着くまでの補給や整備も他人任せでなんとかなる。けど、冒険者は自給自足なんだよ」


 さほど長い期間組んだパーティーではないし、できることはある程度様子を見ながら面倒を見てやったとジャン達は考えていた。


「面倒を見てやっていたのは私たち。冒険者は戦闘以外も自分ですべてこなすの。むしろ、戦闘しか出来ない奴なんていらないのよ」

「だから、お前ら追放な」

「「「え……」」」


 アンドリュらが目が泳いでいる。ジャン達と組んでから、それまでは上手くいかなかった冒険者としての活動が上手く行き始めていた。野営も苦労することがなくなり、依頼の達成もとんとん拍子であった。


 冒険者などというのは、傭兵や騎士に成れなかった者がする仕事。最初から見下していたアンドリュらは、自身が『慣れた』故に上手く回り始めていると錯覚していたのだが、実際は、先輩冒険者であるジャンやミナのフルサポートで成り立っているだけであったというわけだ。


「お荷物がいなくなってスッキリするわ」

「ホントだよねジャン。こいつら無駄に飯食うし、荷物はろくすっぽ持たないし、雑用押付けて来るからホント無理って思ってたのよ」

「わかるわー。傭兵は商人の護衛でもしてりゃいいのよ。商人の護衛なら行軍と変わらないし、依頼の条件に「賄いつき」ってあれば、商人の食事の御裾分けもらって同行するだけの簡単な仕事なんだからさ」


 傭兵たちは漸く気が付いた。自分たちが見定められていたという事を。そして、結論が出てしまったという事を。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 こうして、元の三人組同士に戻ったアンドリュたちとジャン達であったが、前者は、ニ三度、野外の討伐依頼を受けたものの、生水飲んで下痢したり、追跡失敗して討伐に至らなかったりとすべての依頼に失敗。やがて、その街のギルドから姿を消した。


 ジャン達は、討伐に若干時間がかかるようになったものの、不足する分は毒や罠などを活用して戦闘力不足を補いつつ、余計な食料や整備の部材を持ち歩くことが無くなった結果、依頼を達成する速度が目に見えて早くなり、六人パーティーより評価されるようになった。


「とはいえ、ジャンヌ一人にするのは心配なのよね」

「確かに。鍛冶師か山師の土夫とかいれば、パーティーに加わって欲しい気がします」

「土夫って、大酒飲みよね……」

『土夫、魔法袋持っている』


『ペーテル』曰く、鍛冶の道具や鉱石を持ち出す為に、土夫は魔導具である『魔法袋』を持ち歩くのだという。魔力量によるが、中に多くのものを収容できる優れたものだ。


「土夫……いいかも」

「いいですね。素材採取が捗ります!!」


 新規メンバーは土夫に限る……などと三人が思うのは無理もないのではあるが、今は三人での探索をしようと考えるのであった。



【作者からのお願い】


『前作』の評価及びブックマーク、ありがとうございます。


また、<いいね>での応援、励みになります。こちらもありがとうございます。

誤字報告、ありがとうございました。


「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。

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