表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

5話


 ヴェルナー殿下とナターリエ様とのお茶会はそんな感じでなんとか終わり、……なぜか翌日から色々な名門貴族からお茶会の招待状が届いた。私とライナルト様が婚約したからか、はたまた王城でのお茶会に招かれたからかはわからないけれど……。


 ……今までわたしに一ミリも興味を抱かなかった人たちが、こぞって興味を示してくる。そのことがなんだか……、あまり嬉しくない。


 そりゃあ男爵令嬢の私が侯爵家に嫁ぐのだから、面白く思わない方々もいらっしゃるのだろうけど……。私がそんなことを考えていると、ライナルト様が会いに来てくださった。


「浮かない顔をしているが、なにかあったのか?」

「ライナルト様……。……そうですね、色々と。複雑な気持ちになっているというか……」


 ……もしかして、私のことを心配してくれているのかな? そう思うとなんだか嬉しくなった。私って単純ね!


「……今度、……両親がパーティーを開くのだが、その時に来てくれるか?」

「えっ、パーティー? わ、私が参加してもよろしいのでしょうか」

「君は俺の婚約者だろう」


 ライナルト様の口から『婚約者』という言葉が出て来るのがなんだか不思議だ。未だに実感がない。今この瞬間だって夢なんじゃないかって思ってしまう。……夢じゃないのはわかっているのだけど……。


「ええと、では……、参加します……」

「ああ。そのことで、母から提案があってね。……パーティーまで一ヶ月の間があるんだが、ノイマイヤー侯爵邸で暮らしてみてはどうか、と」

「……はいっ!?」


 今なんかすっごいこと言わなかった!?


「パーティーでは君のことを婚約者として紹介するつもりだ。母がそれまでに色々なことを教えてあげたい……と」


 色々なことってどんなことですか!? と心の中で叫びつつ、その提案自体はとてもありがたいことだと思う。だって、侯爵家のパーティーだもの。色々な人がいらっしゃるだろう。私はライナルト様の婚約者として、恥じない行動をしなくてはならない。


「……両親に聞いてみます」

「それならもう許可を頂いた。『レオノーレをよろしくお願いします』だそうだ」

「……お父様、お母様……」


 私が額に手を添えて項垂れると、ライナルト様はそっと私に手を差し出す。


「というわけで、早速だが家に行こう」

「えっ、今からですか!?」

「ああ、善は急げというからな」


 ……私がノイマイヤー侯爵邸に行くのが善? 不思議に思いつつも、差し出された手を握らないなんて選択肢、持っていないわ! 私が彼の手を取ると、ライナルト様はぐいっと私の手を引いて――ひょいと抱き上げた!


「ら、ライナルト様!?」

「すまない、こっちのほうが早いから」


 そ、そうでしょうけども……! ライナルト様の歩くスピードって中々速いものね。……でも、私に合わせてゆっくり歩いてくれていたのよね……。そ、そんなに急いで行かないとダメだったのかしら……。……ダメだわ、ドキドキして思考が纏まらない!


 馬車に乗せられ、ノイマイヤー侯爵邸へと。ノイマイヤー侯爵も侯爵夫人もすぐに出迎えてくれた。特に侯爵夫人は嬉しそうだ。


「来てくれてありがとう、レオノーレ。一ヶ月、よろしくね」

「こ、こちらこそよろしくお願いいたします……!」

「ああ、そんなに緊張しないで。今日はゆっくり休んで、明日から頑張りましょうね」

「は、はい……!」


 侯爵夫人の優しいお言葉に、ちょっとだけ緊張が解けたような気がした。結局その日は四人で食事を摂って、私は……なぜかライナルト様の隣の部屋に案内されて、休むことになった。


 そしてそれから一ヶ月の間、侯爵夫人にビシバシと鍛えられたのだった……。


☆☆☆


 そして迎えたパーティー当日。私は多分、緊張のあまり顔が青ざめていると思う……。そんな私を気遣って、ライナルト様がそっと肩に手を置いてくれた。


 大丈夫か、と心配そうな眼差しを向けられて、なんだか落ち着いて来た。


「それじゃあ、始めましょうか」


 ノイマイヤー侯爵夫人の一声から始まった今回のパーティー。華々しいこの舞台に、私が立つことになるとは夢にも思わなかったけど……。ノイマイヤー夫妻はゆっくりとした足取りで階段を下りていく。ざわっと周りがざわめき始めたのが聞こえる。


「本日は我がノイマイヤー邸へようこそいらっしゃいました。噂に敏感な方々は既にご存知かと思いますが、我が息子、ライナルトが婚約を致しました。今日は、その報告をしたく、パーティーを開きました。――さぁ、こちらへ」


 ノイマイヤー侯爵の挨拶から始まり、ライナルト様が腕を出す。彼の腕に自分の手を絡め、ゆっくりとした足取りで歩き出す。今日の私は、いつものような地味な格好ではなく、侯爵夫人のプロデュースとメイドの方々の手腕によって全然違う姿になっている。


『原石が宝石になったわ』


 と、私の姿を見た侯爵夫人が微笑んでいた。私も自分で自分の姿にびっくりした。メイクや髪型でこんなにも違うのねって……。


「大丈夫。今日はいつにもまして美しいから」

「ら、ライナルト様……」


 真顔で言われると……。恥ずかしさのほうが勝ってしまう。深呼吸を繰り返してからライナルト様を見上げ、私たちの登場を見ていた方々へと視線を巡らせる。一歩一歩、きちんと階段を下り、ノイマイヤー侯爵たちのところへと。ライナルト様に絡めていた手を離して、前を見据えてにこりと微笑む。


「紹介します。我が婚約者のレオノーレです」


 ライナルト様の簡単すぎる紹介に、ノイマイヤー侯爵は一瞬呆れたような視線をライナルト様に向けた。侯爵夫人がこちらを見ていたので、私は一歩踏み出してカーテシーをして自己紹介をした。


「ごきげんよう、レオノーレ・テレーゼ・クラウノヴィッツと申します。お目にかかれて光栄でございます。どうぞ、よろしくお願いいたします」


 私が自己紹介を終えると、さらにざわめきが強くなった。クラウノヴィッツは男爵家だからね、仕方ないよね。そんなことを考えていると、ナターリエ様が近付いて来た。そっと私の手を握ると、「綺麗なカーテシーだったわ」と褒めてくれた。


「ありがとうございます、ナターリエ様」

「うふふ、わたくしたちの仲じゃない」


 ……ざわめきはさらに強くなった。次期王太子妃のナターリエ様と親しくしているからだろう。わかりやすい。恐らく、私とどういう関係を築こうか悩んでいるのだろう。利害関係も貴族としては大事だからね。


 ふと、音楽が聞こえ始めた。ダンスタイムになるようだ。ちらりとライナルト様に視線を向けると、バチっと視線が交わった。それを見ていたナターリエ様は、私の手を離して背中に手を添え「踊ってらっしゃい」と背中を押してくれた。


 すっと、ライナルト様が私に手を差し出す。


 私はその手を取って、ライナルト様と歩き出す。ホールの中央で踊り出す私たちを、色々な人が見ていた。それでも、その視線は気にならなかった。だってライナルト様と踊れているのだもの! 一ヶ月の間、侯爵夫人から色々教わったけれど……中でも一番大変だったのはこのダンスだった。パーティーに参加しても壁の花と化していた私だから、ダンスを教えてくれた侯爵夫人も大変だったと思う。


 でも、侯爵夫人と頑張って来て本当に良かった! こうしてライナルト様と踊れるのだもの! 嬉しくて思わずにやけてしまう。


 なんと、一度もステップを間違えずに一曲踊りきることが出来た! 私にしては快挙だわ!


 ぱちぱちぱち……とどこからともなく拍手の音が聞こえた。


「見事な踊りだったぞ、二人とも」

「ありがとう存じます、ヴェルナー殿下」

「ありがとうございます」


 まさかこの場で話し掛けられるとは思わなかった。ヴェルナー殿下。その後はヴェルナー殿下とナターリエ様が踊り出して、周囲の注目を奪って行った。そのことに、安堵してしまった。踊っている最中は気にならなかったけど、動きを止めた途端に浴びせられる視線の多さに、少し驚いてしまったから……。


 きっと、ヴェルナー殿下は私たちのことを助けてくれたのね……。


 その後、色々な貴族の方々に話し掛けられて、なんとか当たり障りのない返答が出来たんじゃないかなと思う。侯爵夫人に叩き込まれた貴族たちの情報がとても役に立った……。ありがとうございます、侯爵夫人!


 そうしてライナルト様の婚約者としてのお披露目パーティーは、無事に幕を下ろしたのだった。


明日の投稿で完結です!


ここまで読んでくださってありがとうございます!

少しでも楽しんで頂けたら幸いです♪

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ