ちか
「………もう一回言ってくれないか。」
これが現実なのかわからなくて目の前の幼馴染にそう言ってしまう。
普通に帰っていたのに。あとちょっとで はる の家に着くのに。急に思い詰めたように はる は言い出した。
「僕、ちか から離れた方がいいんじゃないかと思って。」
「………………なんで…?」
やっと絞り出した俺の一言に幼馴染は悲しい顔をして答える。
「僕、もう寂しくないよ。だから ちか から離れても平気。しゅん がいるから。」
昔俺に「寂しい」と言った顔で
今は「寂しくない」と言う。
なぜ?聞かなくても答えはわかる。こんな状況でも冷静な自分が言い聞かせてくる。
しゅん。
そう。はる は しゅん がいるから寂しくないと言った。いつも はる と一緒にいる奴だろう。そいつがいるから「寂しくない」のか。
もう俺はいらないのか。
「そうか。わかった。」
どうしてそんなに悲しい顔をするんだ。
まるであの時よりも悲しそうだ。
「っ、僕もう朝も起きれるし心配しないでね。」
取り繕ったように笑って はる はそのまま走って家に帰ろうとする。
「なぁ、はる 。」
そんな彼を引き留めて最後に縋るように言う。
「もしかして、今まで時々考え事してたのってこのこと?」
「あ、……うん。いつ言おうか迷ってたんだ。どう言えばいいのかなとか。ごめん。」
「そうか、引き留めてごめんな。じゃあ……その……、気をつけて、帰れよ。」
「う、うん。ちか もね。」
はる はずっと俺から離れようと思ってたのか。
ずっといつ言おうか迷っていたのか。
もう縋るものすら無くなった俺は立ち尽くす事しかできない。
気をつけて帰れなんて初めて はる に言った。
これからは しゅん とか言うやつが家まで迎えに来て一緒に授業を受けて家まで送ってくれるんだろう。
はる は俺に向けてた笑顔をあいつに贈るのだろう。もしかしたらそれ以上かもしれない。
そんなところ見たくなんてない。
はる は俺だけに笑っていて欲しい。
それが普通で当たり前だろ?
なんで他の奴に笑いかける必要がある?
ああ、そうか。
これが嫉妬か。
俺たち幼馴染の間に割って入ってきたあいつに俺は嫉妬しているのか。
だが俺は許さない。俺と はる は今までずっと一緒だったしこれからも一緒にいるんだ。
タイトルつけて恋物語のハッピーエンドで終わらそうとしてるのか。
そんなことさせるわけない。
はる は俺の隣にいるのが「当然」なんだ。
「普通」のまま、「当たり前」のまま続けるんだ。
親子だなんて言ってた俺は気付いてなかったんだ。この はる への感情はそんな生ぬるいものなんかじゃないって。
お読みいただきありがとうございます。
これで完結とさせていただきます。
おまけや多視点の話も書けたらと思っています。