Prolog. 終末世界にて
朝7時の鐘が鳴ったとき、篠原 咲は靴紐を結んでいたところだった。
今日はいわゆる「感傷的懐疑思想団」がこの町をまたしばらく離れる日なのだ。
多分、初めて聞いた人からすると なんだその厨二病臭い名前は、と思うだろう。
思想団のメンバーは7人だが恐らく全員この名前をいいと思っていないと思うし不本意だろう。
きっかけは2019年のコロナウイルスによるパンデミックだ。
結局収束したが、ウイルスは国にとってかなりの脅威であった。そしてそれを利用する国達ができてしまった。
我先にと危険なウイルスを撒いては銃も使い戦う。そのうち世界中で戦いの火が燻り、ついには第三次世界大戦になってしまった。
当時人間は環境問題も抱えていたのにただ戦うことに夢中になってしまい、そのうちウイルスと最悪の環境だけが残った。
生物は適応する。
そのうち動物たちが頑丈になり、凶暴化するようになった。
人間はそれを返り討ちにするために新しい凶暴な怪物を作ってしまう。
ディストーションは人々をも襲った。戦にも使われるようになり、その他複数種のウイルスも相まって人類の人口は急激に減少していった。
それでも生物は、人間は適応する。
そこで「生命の泉」を拠点に妖精が生まれ、魔法使いも生まれた。
妖精は各地にある森を妖精の森とし、人間の立ち入りを禁止した。
魔法使いは浮遊魔法や、箒を魔法の箒として使ったりする「基本魔法」と人によって違う「異種魔法」を使った。
魔法使いはなかなか生まれず貴重な存在で、当時の人々は小学二年生になったとき、魔法を持っているのか、またどんな異種魔法なのかを強制的に検査されることになっていた。
国は皆戦争に夢中になり教育は段々と体術を主にするものとなっていった。
そして地獄の日、今から3年前の「大急襲の日」がやってきた。
ディストーションには群れる習性があった。人々のもとを離れた野生のディストーション全てが一気に人々を襲った。
その日は、人口減少により社会が成り立たなくなってしまったため全国100箇所に人々を集めるという計画で人々を移住させる前日、いわゆるみんなのお別れの日だった。
そして、人の気配はなくなった。戦争で傷ついた建物達はディストーションや、ディストーションと戦ったあとの影響で倒壊したり、破損したり、地獄絵図だった。
それでも必死に集まった人々たちが集うのが、この町なのだ。
インターネットなんか使えないし、みんな昔の庶民みたいな服を着て、自給自足の生活をしているけれども支え合って生きていた。魔法使いは何人も死んだが普通の人達よりは生き残り、この町には10人の魔法使いが集まった。
そのうち7人は旅に出て、昔の本を探ってもっと町のものづくりの技術を昔のように向上させたり、ほかの生き残った人々を探したり、ディストーションを駆除するようになった。
この者達が「感傷的懐疑思想団」である。
残りの3人は町に残り町を守る。
しかしそんな思想団達を殺そうとしているものたちがいた。研究員と呼ばれる、ディストーションを作ったものたちだ。
「感傷的懐疑思想団」という名前をつけたのも研究員達で皮肉をたっぷりと込めて作られた名前だ。いつしかその名前で呼ばれるようになったが。
ずっと彼らとは戦争状態なので彼らに見つかると戦闘をしなければならない。
思想団からすると避けたい相手だ。
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そんな生活になり、変わり果てた世界。それでも彼らは生きるしか無かった。