アイオライトに咲く桜
9月の貴石。
アイオライト。
菫青石。
(Mg,Fe)2Al3(AlSi5O18)
僕は梨を持って、お祖父さんの家に行った。
そして、今日も話をした。
「ね、お祖父さん。桜は春って決めつけちゃダメだよね」
友人のお兄さんの友人のお父さんが、東京から福岡へ転勤になったんだ。
人事異動ってやつ。
今どき各駅停車ってアリエナイよね。
でもさ、その人はどうせならって旅行しつつ福岡まで行ったんだって。
昔の部下に会ったのは、京都に行ったとき。
めちゃくちゃ慕われてたみたいで「せっかく会えたんだからなんかください」とかって言われて。
友人のお兄さんの……って面倒だな。仮にお父さんにしとくね。
お父さんは、ほぼ手ぶらで回ってたから、何かって言われてもって悩んじゃってさ。
仕方なしに福岡の自分の家に植えようと思ってた、奈良で買った桜の苗をあげたんだ。
部下の人は、嬉しくてすぐに自分の家に植えたらしいよ。
「これが咲くたびに、あなたの元気な顔を思い浮かべることでしょう」
なぁんて。
心酔? 崇拝?
そんな感じ。
でもさ、綺麗に咲いてた桜は、10年も経たないうちに枯れちゃったんだ。
部下の人は、ガッカリだよね。
でも、それ以上にガッカリだったのが、お父さんが死んじゃったっていう知らせ。
「桜は本当にお父さんの化身だったんだよ」
って泣いたらしいよ。
あ、お父さんって部下の人の上司の人だからね。
え? なんで、その人の名前知ってるの?
うん。続けるね。
えーっと。
で、不思議なことがあったんだ。
桜の木は枯れたのに、その木の下に桜が咲いてたんだ。
青っぽい石に、綺麗な桜が。
確か、アイオライトっていう石だったらしいけど、花はピンクで。
桜の下には死体があるって流行ったよね。
アレよりは、僕好きだな。
あとさ。
お父さんは桜の苗あげちゃったから、梅を植えたのかな。
お父さんといえば、梅ってみんな言うんだ。
「ね、お祖父さん。秋なのに桜満開なんだよ」
「一弥は、学校で菅原道真について習わなかったのかね。確かに太宰府の梅は有名だけどね。一弥の言うその菅原さんは、きっと知ってたんだ。天満宮の流れもね。謎に桜はつきものだ。冬に咲く桜もある。だが、アイオライトの性質は面白いね。それは桜石と呼ばれているものだよ」