アレキサンドライトのプロポーズ
6月の貴石。
アレキサンドライト。
BeAl2O4
カラーチェンジ効果を持つ。
梅雨も明けて、陽射しも強くなって来たなあと思いながら、お祖父さんに会いに行く。
「ね? お祖父さん。紛らわしいよね」
結構昔の話だってことを最初に言っておくね。
日本のとある場所に大きなお屋敷があったんだ。
そこには、コンサートホールだけじゃなく、ヴァイオリン奏者とかもいたんだって。
おかかえの? っていうのかな。
弦楽器の人たちが4人くらいいたとか。
カルテット? なにそれ。
ほんと、次元が別のお金持ちだよね。
でも、そのお屋敷に関わってる人たちが次々と死んじゃってって。
連続殺人らしいってなって。
警察やら探偵やら、頭を悩ませることになったんだけど。
数学的話とか天文学とか神話とか、もちろん音楽的話とか、いろんなものが混じってて。
めちゃくちゃ優秀な探偵さんも、難しい顔してたって。
まあ、不謹慎っていうのかな。嬉しいような顔もしてたっていうけど。
大きいお屋敷には必須だと思うけどさ。
執事さんとか、料理人とか、図書掛りさんとかまでいたんだって。
そこに、すっごく頭のいい秘書さんがいたんだ。
女の人で、いろんな知識があって。
そんな人はモテモテなんだろうけど、独身だった。
当然、プロポーズされるよね。
結婚して欲しいって言われて、2本の王冠ピンを渡されたんだ。
演奏が終わるまでに、どちらか1本を髪につけて欲しいって。
プラチナの台座に、120〜130カラットもある石がついてあって。
絶対重いよね。
で、1本は、ルビーのついたもので。
1本は、アレキサンドライトのついたものだった。
ルビーは、血の色を浮かべるってことでノーの意味。
アレキサンドライトは、親愛なる黄ってことでイエスの意味。
ってことなんだって。
女の人は、アレキサンドライトのほうをつけてたんだけど、男の人は、断られたって思ったらしくって、自殺しちゃったんだ。
ものすごくショックだったのかな。
うまくいかないね。
「ね。お祖父さん。宝石の色で決めるのは、やめたほうがいいね」
「一弥は、黒死館……を知っているわけはないか。小栗虫太郎という人が書いた黒死館殺人事件というのがあるんだよ。三大奇書のひとつと言われているとんでもない内容でね。私でも、未だに理解できていない難解な本だよ。これは、無理には薦められないな」