晶洞アメシスト付き時計
2月の貴石。
アメシスト。
紫水晶とも。
二酸化珪素 SiO2 石英。
「冬休みにアメリカに行ったんだって。で、怖い思いをしたって。どう思う? お祖父さん」
僕は尊敬する祖父に友人の体験を話した。
「僕は観光で来て、たまたまこの店に入っただけなんですって!」
友人は警官に必死に訴えた。
大きな街にある小さな店の中での出来事。
そこはアンティークっぽい雑貨の店で、ショーケースの石に魅かれて入ったらしい。
友人は、鉱石が好きなんだ。
店の品物は、高いものも安いものも適当に置いてある感じだったって。
それが3月1日のこと。
「君が通報者でないなら、なぜここには君しかいない?」
「そんなの知らないですよ」
いわゆる鑑識が働いている中、ひとりだけ事情聴取を受けていたって。
そう、殺人事件に出会っちゃったんだ。
店主らしいベストを着た細い男が、店内のコーナーにあるケースまで這いつくばってたとか。
這いつくばってるってわかったのは、血がそういう風に跡になってたって。
そうしているうちに殺された店主の知人って人たちが、3人くらい来て「ジーザス」とか「オーマイガッ」とか。
本当に言うんだなって、頭の中でぼんやり思ったんだって。
警官は、彼らに知っていることを話すよう促した。
「店主と最後に会ったのは?」
「昨日の夜、1972年同期のみんなと祝いを兼ねて集まったのが最後です」
銀ブチ眼鏡の男が真先に言った。
「みんなというのは、ここにいる方々で? 祝いとは?」
「ええ、そうです。ビールを飲みながらカードゲームに興じていました。彼の49回目の誕生日を祝いながら」
スーツが合ってない、ちょっと太った男が答えた。
「店主は誕生日だったんですか。夜は遅くまで?」
「それほど遅くは。みんな同じ時間に帰りましたよ。12時ごろでした。12っていうのが、ちょうどいいタイミングだと思いました」
ジーンズにネルシャツの若そうな男が断言した。
「警部。ちょっと、よろしいでしょうか」
友人が警官って思ってた人は、警部だったんだって。偉いのかな。
その警部が鑑識に呼ばれた所をこっそり覗いたら、店主が左手にアメシストの石を持ってたのが見えたって。
宝石じゃなくて、ほら、半分の断面で石の中にアメシストがあるようなああいうの。
ジオードかって? よくわかんないけど、お金持ちが持ってそうなやつ。
しかも、下側には時計がついてて、友人は「カッコイイなあ。ちょっと欲しい」って思ったって。
で、わざわざ、ケースまで這って行ったってことは、アレだと思うんだ。
ダイイングメッセージ!
きっと最後の力で犯人を教えようとしてたんだよ。
「どうかな? お祖父さん」
「一弥は、エラリークイーンのガラスの丸天井という本を読んでないね。あれはもっと手が込んでいるけど、似たような話だった。読んでみるといい」