黄水晶の文字盤
11月の貴石。
シトリン。
黄水晶。
SiO2
ああ、とうとう雪が降ってきた。
白い息を弾ませながら、お祖父さんの家にたどり着いた。
暖炉の前で、ココアを淹れてもらい話始める。
「ね。お祖父さん。夢中になると時間なんて忘れちゃうよね」
音楽の先生の話。
先生が友達と訪ねたおうちは、山の上にあったんだ。
小さな集まりで、他にも数人、お客さんがいたらしいよ。
そこの家主さんは、夕食が済むと「どうしてもしなきゃいけない仕事があって」って部屋に篭っちゃったんだけど。
秘書らしき人が細やかに対応してくれて、満足はしてたって。
とにかくお酒が美味しかったって言ってたし。
で、そのお酒を飲みながらくつろいでたら、コレクションを披露してくれたんだ。
時計のね。
すっごい豪華そうな置き時計が5つあったって。
値段が高いものから順番に当てるっていう遊びを始めたの。
当たったら、いいものくれるっていうから先生も気合い入っちゃって。
近くで見てもいいけど、傷をつけないようにって自分たちの腕時計は外されちゃったらしいんだけどさ。
僕は、自分の時計と比べて値段を当てられたら困るからだと思うんだけど。
あ、携帯電話も没収になったって。
そもそも圏外なのにね。
5つの置き時計は、全部動いてはなかったよ。
黒豹が2匹、ガオーってなってるやつ。
時代劇で悪代官が持ってそうなやつ。
残り3つは、不思議なことに時間を示す針が宙に浮いてたって言うんだ。
え? そう、文字盤って言うんだ?
その文字盤が透明で。
えーっと、水晶の文字盤と黄水晶の文字盤と紫水晶の文字盤の。
先生は、どうやって動いてるのか興味津々で。
お友達も、すっごく興味持ってたらしいけどね。機械が好きなのかな。
まぁ、僕でも不思議に思っちゃうと思うな。
だって、知ってるよ。時計の針って歯車で動いてるんでしょう?
でも、みんなが夢中になってたとき、悲鳴が聞こえたんだ。
部屋に篭ってた家主さんが死んでるのを、コーヒーを持っていったお手伝いさんが見つけて。
時計そっちのけで、部屋に行ったらしいよ。
どうやら死んでから時間は経ってなくて。
みんな一緒にいたし、パソコンに遺書みたいなのもあったしで、事件性はないだろうって。
山の上すぎて警察が来るまで時間かかったけどね。
あ、時計の値段当ても中止になっちゃったよ。
自分の腕時計を返されたときに、ガッカリしちゃったって言ってた。
先生の安いんだって。
「ね。お祖父さん。家主さん死んじゃったのに、先生ってばおかしいよね」
「一弥は、ミステリークロック自体はともかく、貴志祐介のミステリークロックも知らないのかね。確か、シトリンやアメシストは出てこなかった気はするが。時間トリックというのは、わかりやすいようでわかりにくいものだ。友人が怪しい行動をとるのには、注意がいるけれどね」
そう言って、お祖父さんはクリスマスプレゼントをくれた。
綺麗な文字盤のアナログ時計を。