(6)家族
(6)(7)(8)を5時に投稿しました。
『生き物は全て魔力を持っている。魔力を持っているのは生き物だけである。命の輝きを持たない物にも魔力を宿している物はあるが、それはあくまで残留魔力である。たとえば魔物の体内から出てきた魔石などがこれにあたる』
おばば様がそう教えてくれたので、カリンもそうなのだと思っていました。
でも、魔力感知のレベルが上がったカリンは、おばば様の教えの中で、この部分だけは間違っているのではないかと思うようになりました。
残留魔力だとは思えない魔力を持つ“物”がカリンの身近に2つもあったからです。
1つはカリンのペンダントです。
これまでも“まるで応援してくれているような”と思っていましたが、このペンダントは本当に自分の意思を持っていました。
カリンの言葉に相づちをうつようにペンダントがチカチカ光っていることに気づいて、確認してみたのです。
魔力の光で、1回チカッと光ると“はい”2回の時は“いいえ”と決めました。
ドキドキしながらペンダントに話しかけて、ちゃんと返事が返ってきた時、カリンは嬉しくて涙が出そうになりました。
⎯⎯ああ、やっぱり。早く気づいてあげられなくてごめんね。
すぐに名前を決めました。
カリンの花で“カリン”だと同じ名前になってしまうので、“リン”。
リンの魔力の光は魔力感知の能力が高くないと見えないようなのですが、念のためにペンダントを服の中に入れておくことにしました。
ペンダントが体に触れていれば、カリンには魔力の揺らぎでわかるのです。
もう1つ、生きた魔力を持っているのではないかと思われる物は⎯⎯村長さんの短剣です。
100年以上前の村長さんのご先祖が領主様から褒美として賜った物で、代々の村長が受け継いできた物なのだそうです。
大切に手入れされながら長い年月、たくさんの人に使われてきた剣だと村長さんが言っていました。
普段は大切に仕舞われていて、村長として公式の場に出る時や大切な話し合いの時にだけ身につける物です。
この短剣が、村長さんとよく似た、でも別の魔力を持っているのです。
厳しくも優しい。そして強くて温かい魔力です。
おばば様にこの事を話したらびっくりして、「それは精霊憑きだね。本当にあるんだね」と感心していました。
そして、そのうちの1つが村長さんの短剣であると聞くと、「たしかにあの短剣は、子供の頃から特別な物だと思っていたよ」と納得していました。
誰を思い出しているのか。おばば様はとても懐かしそうな顔をして目を潤ませていました。
初めて目にした時、カリンはこの短剣から目が離せなくなったのです。
あれは村長さんが会合に出かけようと準備していた時のことでした。
なぜか目が吸い寄せられるような気がして、カリンがその短剣をじっと見ていると、村長さんが、「気になるか?」と短剣を鞘ごと抜いて、カリンに見せてくれました。
カリンの顔の前に近づけられた短剣は、鞘に入っているのに、ギラッと光ったような気がしました。
カリンは何かぞっとするものを感じて、ブルッと身を震わせたのです。
すると、村長さんは剣を持っていない方の腕でカリンを抱き上げてくれました。
「恐ろしいか?⎯⎯そうだ。これは武器だ。この短剣が実際に人を殺めたこともある。その時の持ち主は私ではなかったがな……」
村長さんの声も雰囲気もいつものように穏やかで、優しくて⎯⎯でもいつもと違うものも、そこに混ざっているように感じました。
それは、厳しさと悲しさ?
「この短剣は、何があっても村人達を守るという覚悟の証しなのだよ」
「かくご?」
「そうだ。村長は命に代えても村人を守る。命を守るために命を奪うこともある。その覚悟をこの短剣に求められているのだよ」
短剣がまた、ギラッと光ったような気がしました。
カリンがビクッと身動ぎすると、村長さんは短剣を腰に戻しました。
「ニールはまだ幼い。
父親や私のことをいつも見ているから、あの子なりに村を守ろうという気持ちはあるらしい。
だから、怖がっているし、強がっている」
「こわい?」
カリンは首を傾げました。自分のような幼い女の子の、どこが怖いのでしょうか?
「知らないもの、わからないものは怖い。だから、初めて見るものは怖い」
「わたしはこわくないわ」
カリンの抗議に、村長さんはわずかに口許を緩めました。
「そうだな。お前は良い子だ」
村長さんはカリンと目をあわせてうなずきました
「だが、お前は良くも悪くも、この国では目だってしまう。
もしも大きくなってこの村の外へ出ていくなら、そこには少しばかり他の人よりも厳しい道が待っているのだろうな」
村長さんに怖いことを言われているのに、村長さんの腕の中にいると大丈夫だと思えるのが不思議でした。
「強くなれ。腕白坊主どものいじめなんぞに負けるなよ」
村長さんの口の端が少し持ち上がって、笑顔らしきものを作りました。
他の子供なら、それを見て泣き出していたかもしれませんが、村長さんの中の温かいものを感じられるカリンはその笑顔を恐いとは思いませんでした。
「大丈夫だ。お前なら……。
お前が信頼できる人、お前を信頼してくれる人は、必ずいる。
⎯⎯ここにも、お前の家族になりたいと思っている爺が1人いるよ」
あの後、村長さんは左胸のところが少し濡れてしまったよそ行きのシャツを着て、会合に出かけて行ったのです。
腰の短剣は、なんだかいつもよりも穏やかな光を放っているような気がしました。
あのペンダントの1件以来、ニールはカリンに「村から出ていけ」とは言わなくなりました。
それでも、あい変わらず他の子供たちと一緒にカリンを追い回しています。
家でも夜の食事の時はカリンも含めて、家族全員で一緒に食べるのですが、ニールはいつもカリンの顔をにらみつけてくるのです。
「明日はきっとつかまえてやるからな!」
おや、“追い出す”と言っていたはずが、いつの間にか“つかまえる”に変わっています。
ニールの魔力は元気いっぱいで、くるくると目まぐるしく感情の動きが変化するので、カリンはなんだか目が回りそうです。
家族は、そんな2人の様子を微笑ましく見守るのでした。。