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(1)王都、魔法学院

 カリンを王都に連れてきてくれた竜騎士は、カリンをおろすとすぐに誰かに呼ばれて行ってしまいました。

 すぐに次の仕事があるのだそうです。


 無理もありません。竜騎士はとても人数が少ない貴重な存在なのですから。


 カリンの付き添いとして誰か他の人を呼ぶと言ってくれましたが、皆忙しそうなので、カリンは遠慮しました。


 でも、その判断は失敗だったかもしれません。


「……痛っ、いったあーい……」


 飛竜発着場の周りに張り巡らされた結界をくぐり抜けたとたんに、カリンはこれまで経験したことの無い、巨大な情報の波に飲み込まれてしまったのです。


 カリンは激しい頭痛と吐き気に襲われ、動けなくなりました。


 ⎯⎯気持ち悪い……どうしよう、あったま痛ーい。

 ⎯⎯チッカチカチカ……


 心配そうなリンに返事をする余裕もありません。


 王都というところはとてつもなく広く、そしてそこを埋め尽くすほどの大量の人々の気配にあふれた場所だったのです。


 ちゃんと忘れずに“かくれんぼ魔法”で、外から入ってくる魔力の情報を減らしていたのに……。

 それでもまだ、情報の量が多すぎるのでしょう。

 まるで、みんなが一斉に大声で怒鳴りあっているようです。


 草木や動物の気配などと比べると、人が持つ魔力の気配は複雑で、不安定で、気まぐれなので、囲まれているとそれだけで目が回るのです。


 ⎯⎯魔力操作のレベルがもう1つ上がったら少しは楽になるかしら?

 ⎯⎯チカッ…………チッカ……チッカ


 カリンの服の下で、ペンダントの“リン”が心配そうに魔力を瞬かせています。


 しばらくじっとして耐えていると、だんだん魔力の“声量せいりょう?”が落ちて少しずつ楽になっていきました。


 ⎯⎯もう大丈夫よ、リン。なんとか我慢できるわ。

 心の中でリンに返事ができるようになって確認したら⎯⎯本当に魔力操作のレベルが1つ上がっていました。



 ◇◇◇◇◇



 あとから思い返せば、たしかに自分の言葉が足りなかったのです。

 それに、あの格好では……間違われても仕方がなかったかもしれません。


 でも言い訳をさせてもらえるなら、あの時カリンは、まだまだとっても具合が悪かったのです。


 だから、まさかそんなことになるとは⎯⎯。




 中級以上の“魔力持ち”は全員、この王都魔法学院に集められ、魔法について学ぶことになります。


 貴族の子女ならばほぼ全員が魔力量中級以上。

 平民の“魔力持ち”も、とても少ないとはいえ国中から集まってくるので、それなりの人数になります。


 学院には学生だけでも約500人います。

 しかもその多くが10代前半の元気いっぱいな子供たち⎯⎯。

 そこは、カリンの苦手な、不安定で気まぐれな子供の魔力があふれんばかりになっている場所でした。


 魔法学院の正門に、やっとたどり着いたカリンは、頭痛と気持ち悪さでフラフラの状態でした。


 そんな、明らかに様子のおかしいカリンを警戒して、魔法学院の門番は鋭い視線でカリンをにらんだのです。


「ここは王都の魔法学院である。用の無い者は早々に去りなさい」


 大声を出したわけでもないのに、門番の厳しい声は辺りによく通り、周りの人々の注意をひきました。


 カリンをじろじろとながめる視線。ヒソヒソと渋い表情で交わされるささやき。わざと聞こえる様に投げつけられるあざけりの言葉。


 ⎯⎯村長さんが以前言っていたのは、こういうことなのね。


 珍しい容姿が人の悪意を集めるという意味を、言葉だけでは理解できていなかったのだと⎯⎯よくわかりました。


 王都に来て初めて、カリンは、悪意を含んだ魔力というものがどれほど人の心にいたみを与えるものであるかを自分の身でもって味わったのです。


 ⎯⎯うつむいたりしないわ。何も悪いことはしていないもの。


 カリンは頭痛をこらえて、門番に自分の領民証明書を出して見せました。


「10歳になったので、魔法学院に行けと言われました」


 門番は、渋い表情で領民証明書とカリンとを何度も見比べて、首を捻りました。


 ⎯⎯10歳にはとても見えない。しかし領民証明書は本物だ。

 もしかしたら、貧しくてろくに食事も出来ず、成長が止まってしまったのか?


 ⎯⎯そういえば、着ている服も田舎の子の普段着のままだ。王都に上がるというのに、よそ行きの服の1枚も用意してもらえなかったのだな。


 ⎯⎯どう見ても遠い国から来た子のようだからな。可哀想に。


 いつの間にか、門番の眼差しから厳しさが無くなっていました。


「お前が通る門はここではない。裏にまわりなさい。頑張るんだよ。採用されると良いな」


 今度はカリンが首を捻る番でした。


 ⎯⎯試験があるの?

 ⎯⎯それにしても、合格じゃなくて採用?


 門番に示された方に行くと、カリンと同じような大きな荷物を持った女性が2人いました。


 それを見て、カリンはさらに首をかしげました。


 2人とも魔法学院に入学する年齢にはとても見えません。1人はヘレンと同じくらい、もう1人は20歳くらいでしょうか?


 これは、どうやら何か手違いがあったらしいと思っていると、若い男の人がひどく焦った様子でやって来ました。


「5人のはずだったのに、3人しか集まっていないのか。

 しかたない。もう時間が無いので、ここで締め切ります。

 ついて来なさい」


 カリンは男の人の早口に、口をはさむことが出来ず、早足でずんずん進んで行くあとを小走りについて行きました。


 どんどん人の気配の少ない方へ進んで行くのはありがたいことなのですが……。


 やがて、飾り気の無い大きな建物に入り、3階に上がって、1番奥の部屋に連れていかれました。


 大きな事務用の机が1つと壁際に資料の並んだ棚があるだけの部屋です。

 事務机の手前の床に、大中小3つの木箱が置かれています。


 ⎯⎯変わった部屋ね。


 一方の壁には、文字が書かれた木の板がたくさんぶらさがっています。


 部屋の中には黒い服を着た年配の男性が1人、机のむこうに座ってこちらを見ていました。



「では、学院の小間使いの採用面接を行います」


 ここまで私たちを連れてきた若い男の人の言葉を聞いて、カリンは目を見開きました。


 小間使い⎯⎯カリンの理想の仕事ではありませんか。





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