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(1)精霊憑き(せいれいづき)

遅くなりました。

少し書き直すことになりました。

申し訳ありません。

 たとえば、鍛冶師が精魂込めて打った名剣に。


 母から娘へ、さらにその子へと代々大切に伝えられてきた指輪に。


 頑固な庭師が生涯使い続けた古いはさみに。


 人の強い想いや愛情を受け、多くの年月をた様々な物たちに、魂が宿ることがございます。


 人は、それを“精霊憑せいれいづき”⎯⎯と言い伝えてまいりました。




 とある王国の王宮の奥に、国の宝として大切にされてきた精霊憑きの鏡がありました。


 王の即位の儀式において、正当な継承者を不思議な光で照らす“王家の鏡”。


 この鏡が何者かに盗まれたのです。


 国の隅々まで探しましたが、鏡の気配はどこにもありません。


 鏡は国の外に持ち出されたかと王は嘆きました。


 国の外は魔物が溢れる魔境。もはや鏡を取り戻すことはかなわないのか。


 あきらめかけた時、1人の家来が国を出る許可を王に求めました。


 必ず鏡を取り戻し、王のもとに戻って参りますと⎯⎯。


 その家来は王の友でありました。


 長い長い苦難の果てに、家来は鏡を取り戻し王のもとに戻りましたが、ついにそこで力尽きました。


 友を失った王は嘆き悲しみ、その涙で新しい湖が出来たと伝えられております。


 王は命と引き換えに国の宝を取り戻した友の名を新しい湖の名前にしました。


 国の恩人の名をけっして忘れぬようにと⎯⎯⎯⎯。





 ◇◆◇◆◇





 父様と母様の様子がいつもと違うことに、私は気がついていました。


 生まれた時から、⎯⎯いいえ、私が生まれるずっと前から、父様と母様は旅を続けてきました。


 生まれ故郷を遥かに離れた異郷の地を。


 王命で、ある物を探しているのです。


 父様は、王様を影から守る護衛役。母様はお城の巫女だったそうです。




 私はその時、なぜか体が動かなくなっていました。目も開かない声も出せない状態で父様と母様の話を聞いていました。


 探し物はけっして見つからない。だから2度と故郷に帰ることは出来ないと2人は話しているようでした。


「追っ手が来た」とささやく父様からは少し恐い気配を感じました。


 母様が私の頭を優しく撫でています。母様の声は泣いていました。


「あなたを産んで幸せだった。ごめんなさいね、私にはこんなことしか出来ないけれど。しがらみを絶ちきるためにあなたの記憶を封じます。どうか、あなたはあなたの人生を生きられますように。この子に精霊の祝福があらんことを」


 母様の手から、私の中に何かが流れ込んできます。なんだかだんだん眠くなっていきます。


 待って、待って母様。何をしているの?


 私の中の何か大切なものがどんどん闇の中に沈んでいくような気がします。


 意識を失う前に、今度は大きな手が私の頭を撫でました。「強く生きろ」と言う優しい声が聞こえたような気がしました。


 私、全部忘れてしまうの?


 嫌だ。嫌だ。父様のことも、母様のことも忘れたくないよ。


 父様、母様どこに行くの?


 私はどうなってしまうの?


 父様…………。


 母様…………。




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