【8話:意思】
俺はあの日恋をした。
高校に入って結構な月日が経ったある日、俺の机の上に落書きがあった。「小さいことで起こりすぎ」「自分の正義感を押し付けるな」、そんな感じの言葉が書かれていた。
俺が机を拭いていると一人の少女が話しかけてきた。夜見音歩美、クラスメイトだ。
「大丈夫?」
俺は強がった。
「まあ、全部正しいこと書かれているわけだし、怒る理由はないよな」
「神楽坂くんは悪くない!」
その凛々しい声は今でも忘れない。俺は顔を赤らめそっぽを向いた。
「ありがとな」
それから俺はいじめられ始めた。中学で人をボコした不良とつるんでいたという噂が広がり俺は孤立し始めた。そんな時歩美だけは俺に話しかけてくれた。他愛もない話をした。してくれた。俺は多分この時彼女を特別だと感じるようになっていた。
だがその日は突然だった。いじめの矛先が歩美に向かった。歩美はその日俺に話しかけてこなかった。俺は自分のせいで自分の好きな人を傷つけることになってしい待っている今の状況に気がついた。歩美の元へ近づいた。ところが彼女は俺を無視する。俺は察しがついた。優しい彼女のことだ、俺にいじめの矛先が向かないように関係を断とうとしているのだろう。そうはさせない。
次の日、歩美は別人になったかのような行動、喋り方をしていた。何をしたかはわからないがその日のうちにいじめ問題は解決してしまった。いいことだが俺は何もできなくて悔しさが溢れてきた。
だがその日の放課後、歩美は俺に泣きながら抱きついてきたのだ。
「お願い、助けて」
俺は彼女が泣く姿を初めて見た。何が何でも守ってやる、助けてやる。強く決心した。
夜、俺は歩美に電話した。何があったのか、それを聞かなくては何も始まらない。
「もしもし」
「神楽坂くん・・・ここに来て・・・」
それだけ言うと電話は切れた。辛そうな声だった。俺は何かあったと考えた。
チャットに位置情報データが送られてきた。廃墟、そこに歩美がいるのか・・・。
ボロボロの廃墟。窓は全て締め切られていてシャッターがあり中を見ることはできない。ドアは鍵がかかっていて開けられない。どうする?
次の瞬間、ドアが開いた。銀色の液体がポタリ、ポタリと垂れていたがこの時は何も気にしなかった。
「歩美!!」
縛られた状態の歩美が風呂場に倒れていた。血を洗い流すかのようにシャワーが出っぱなしになっていた。
俺は急いで歩美の縄を解き風呂場から連れ出した。
「歩美、大丈夫か」
「神楽坂・・・くん。お願いがあるの」
彼女は驚くべきことを話した。昨日悪魔が現れたということ。その悪魔のおかげでいじめ問題を解決できたということ。そしてその悪魔の能力が錬金術ということ。その能力を狙う悪魔憑きがいるということ。それがクラスメイトの黒上与一だということ。
「私はティア、悪魔にね救われたの。だからこの恩は返したいの」
「喋るな、傷が開く」
「いいから聞いて。ティアはね、家族が魔界の裏切り者って言われて滅ぼされようとしているんだって。で、その家族を守るために魔王になりたいんだって。私、ティアを魔王にしたい」
「歩美・・・」
「それで神楽坂くん、お願い」
俺は辛そうなのに必死に笑顔を作る歩美を見ていて涙が溢れてくる。彼女の手を強く握りしめる。
「神楽坂くん、ティアの意思を受け継いで欲しいの」
辰巳は俺に今までの成り行きについて耳元で囁いた。その後俺は閉じ込められた。最後に彼はこういった。
「いつか俺らは対立することになる。けど今は協力して欲しい。森山誠治を討って欲しい」
そう言って彼は数枚の紙を俺に託した。俺は閉じ込められて何もできない身。その紙に目を通すことにした。
『神楽坂辰巳の扱いについて』
〔 私の名前は水鳥翔。警部だ。私は今起きているこの事件の真犯人を捕まえたい。けれど真犯人は捕まえられない。証拠がない。何より非科学的なことをしている。こいつを捕まえようと無茶をしすぎた。まさか娘に矛先が行くとは思ってもいなかった。私はこの件から手を引こうと思っている。〕
その紙の残りは白紙だった。紙をめくり二枚目を開く。
〔今回の事件も真犯人があいつだ。私は心が痛い。神楽坂辰巳、全く無実な人を犯人にしなければならない。だが真犯人を捕まえる証拠は絶対に出てこないしまた娘に矛先を向けられたらもう私はどうすればいいかわからない。せめて神楽坂辰巳少年を懲役刑にならないように手を尽くそうと思う。本当に悪いことをしたと思っている。〕
そして次が最終ページだ。そこには真実なのだろうことが書かれていた。
〔 私が真実と考える全てをここに記す。
真犯人:森山誠治、政治家。悪魔憑き。娘を悪魔憑きにして眷属にしようとするが失敗する。目的はわからないがひたすら悪魔憑きを倒そうとしている。能力はおそらく、「操り」。触った人間を操ることができる。
被害者一:森山(蛹咲)美奈、真犯人の義理の娘。私への牽制のために操られ私の娘、水鳥舞子をいじめる。悪魔になる条件は私の予想で「辛い」こと。自分がいじめの犯人と言われることで「辛い」を味わわせて悪魔憑きにして眷属にしようとしたが失敗。
被害者二:夜見音歩美、真犯人の眷属の黒上のクラスメイト。強力な能力があることを知った真犯人が眷属にしようとしたが失敗、殺害。その犯人を被害者三に仕立て上げる。
被害者三:神楽坂辰巳、冤罪で捕まる。〕
俺は頭が混乱した。色々情報が多すぎて処理が追いつかない。森山誠治っていうのが蛹咲の父親で悪魔憑き。そして黒上たちのボスなのか。舞子を蛹咲がいじめていたのは父親に操られていたのか?確かに記憶にないと言っていた。
本当に俺が恨むべきは蛹咲ではなく森山誠治だったということか。舞子の言っていた「復讐は何も生まない」、ああ、そうだな。舞子が正しかった。
問題は森山誠治がどこにいるか、どう倒すか、だ。
(なあ、ザックス、いい案を思いついた)
(ほうぅ?)