【5話:能力】
蝉の音が目覚ましの代わりとなり少し早めにベットを出た。顔を洗いながらもう蝉がなく季節なのだなと夏を感じていた。え、夏・・・?ふとカレンダーを見てみる。七月中旬、転校してきたばっかりだから全く気にしていなかったがそろそろ期末テストがあるのではないか?
もちろん転校してきた目的は辰巳を助けるためだ。しかし自分の将来も重要なわけで高校が終われば就職やら進学やらどちらにしろいい内申評価をとっておいたほうがいい。
学校に着くと黒上にテストについて質問した。
「黒上!この学校の期末テストっていつあるんだ?」
「柳くん、え?先生から聞いていないの?」
「聞いてないよ、昨日は色々あったし」
「・・・」
黒上はぽかんと口を開けて少し哀れむ顔で俺を見つめた。
「なんだよ」
俺の心が不安でいっぱいになる。
「えっとね、期末、明日からです・・・」
頭の中が真っ白になった。 MA☆ZI☆DE(笑)
「うわぁーーー!」
俺は発狂した。頭を抱えて漫画のようなオーバーリアクションでしゃがみこんだ。
「大丈夫?柳くん!」
心配そうにボーイッシュな女の子が近づいてきた。
「夜見音・・・!助けてくれ」
夜見音は俺に勉強を教えてくれることになった。辰巳にも声をかけてみたが一言「行かない」といって来てはくれなかった。
勉強は捗った。ファミレスに入りマンツーマンで範囲の勉強を教えてもらった。夜見音自身は勉強のできる人ではないらしくテストはいつも平均くらいらしいが教える能力はずば抜けていた。前の学校でいじめられていた俺は勉強など手をつける余裕がなかったため学力最底辺みたいだった俺はみるみるうちに学力が伸びていった。
まぁもちろん一日で期末範囲全部やって赤点を取らないなんてのは無理だろう。俺は赤点はとりたくないしザックスに頼ることにした。
ズルではない。自分の持てるものすべてを使う。それが全力というものだ。よくいうだろう、全力で挑め!とか。
(ザックス、頼みがある)
(いやだぁ)
(ちょ、まだ何もいっていない)
(俺はお前の中にいるんだゾォ、何考えてるかくらい分かるんダァ!大輝ぃ、自力でやれぇ)
悪魔のくせに変なところは真面目なのか。だがいい。俺には特殊能力がある。触った相手と入れ替われる。だったら頭のいい人に触っといてテスト中に入れ替わり答案を盗めばいい。勝ったな!
テスト初日、科目は日本史。一時間前、日本史オタクらしい笹尾くんの肩を触っておいた。勝ったな!
「テスト開始!」
プリントを見る。ん?記述しかない・・・だと・・・!
記述は写すのは難しい。あれ、詰んだ?俺の顔は青ざめていた。それでも一応入れ替わってみるか。
入れ替わると俺の体は急に立ち上がり明らかに挙動不審な動きをして少し考えて再び座った。俺の体は先生に外につまみ出された。
というかよくよく考えたら俺の体の主導権を他人に渡すということはとても危険だ。それにいざという時のため悪魔の能力については隠しておくべきことである。仮に魔王の座を争う戦いに巻き込まれたとした時に能力がバレていると不利すぎる。何はともあれ俺の歴史のテストはもう無理だ。元の体に戻ることにした。
「何をバカなことを言っているんだ!」
元の体に戻ると大声が耳を襲った。状況を把握する。今俺は廊下で教師と向き合って説教?されているという状況か。
「いえ、すいませんでした」
「急に落ち着いたな」
「はい、冷静になりました」
「一応念のために質問するぞ、お前の名前は?」
「柳大輝です」
「うむ、しかしさっきはびっくりしたぞ、俺は笹尾です!ってずっと言ってて頭がおかしくなったのではと思ったが」
「申し訳ありませんでした」
俺はミスったと思った。今回の入れ替わりは百害あって一利なしだ。色々まずいことにならなければいいが。
その後の教科は自力でやった。もちろん「できた」というわけではないが思ったよりは点数は取れたと思う。俺は反省した。むやみに能力は使うべきではないし、ズルは良くないな。ごめんなさい。
こうして期末テストが終わった。きっと補習だらけの夏休みになるのだろうが仕方ない。そんな気持ちでいるとスッと黒上が俺の視界に入って来た。嫌な予感がした。
「もしかしてだけどさ、柳くん、悪魔憑いてる?」
悪魔という単語が耳に入った。黒上は悪魔について何か知っているのか?
「悪魔・・・?黒上、君中二病だったりするのか?」
俺はとぼけてみた。こいつは多分悪魔と何らかの関係者なのだろう。しかし俺が悪魔に憑かれていることを話すことは多分リスクが大きすぎると思う。
「ふふ!柳くん、明日の試験休み暇?ちょっと僕に付き合ってくれない?」
不気味に笑う黒上に少し恐怖を覚えた。
彼は翌日十九時に学校近くの公園に来るように言ってきた。了承した俺は黒上と別れると一人で帰ることにした。
下駄箱で靴を取ろうとすると綺麗な黒いセミロングの髪を玄関から入る風になびかせる少女に話しかけられた。舞子だ。
「大輝、今日このあとちょっといい?」
舞子と二人っきりなんて何年振りなのだろう。中三の温泉での再会した時ショートになっていた髪の毛もだいぶ伸びている。幼馴染とはいえ美少女と二人っきりなのだ。俺は緊張していた。
「で何の用だ?」
舞子は外では話せないと言って自分の部屋に来て欲しいと言われた。俺らは舞子の家へ向かった。
舞子の家。俺の実家の近くだ。俺を追い出した両親の家だ。あまりみたいものではない。
小さい頃はよく遊びに来たものだ。その時の記憶と中の様子はあまり変わっていない。妙に胸の奥がグッとなった。
部屋に入ると舞子はベットに座りポンポンっと自分の隣に座るように促してきたのでそこに座った。
「大輝、神楽坂くんについて今日色々聞いてみたの」
「ほう」
「そしたらね、例の殺人事件の被害者をいじめていた人たちがいたことがわかったの」
被害者って夜見音歩美か。いじめがあったことについては妹の愛香から聞いている。
「ところがね、みんな誰がいじめていたか、記憶がないんだって」
俺は怒りがこみ上げてきた。いじめを撲滅させる。記憶がないだと?ふざけるな!
「わかった、俺が絶対全て解決する」
辰巳を助ける。夜見音姉のいじめ犯人をぶっ倒す。俺はこの二つを強く決意した。
翌日夜、黒上に指定された公園へと足を運んだ。ひと気が全くなくただっぴろい野原。街灯の数は数本のみだったが月明かりが明るくそれほど暗いとは感じなかった。
「やあ、柳くん」
「黒上・・・」
「早速だが本題に入ろうか」
黒上は僕の目の前へ歩いてきた。肩を触ろうとしてきたので横に避けた。こいつは悪魔について知っていた。もし悪魔憑きだったとしたら触られれば能力を発揮される可能性が高い。この判断は正しかった。
「いい反応だね」
人間離れした速度で体に触りに来る。俺はこいつが悪魔憑きだと確信した。俺も悪魔に憑かれている。腕の軌道が目で追える。
「今の動きで柳くんも悪魔と契約していることがわかった」
「こっちもな」
「柳くん、俺の下につかないか」
「下につく?」
「僕の手下になれってことさ」
「嫌に決まっているだろう」
「そうか、それならしょうがない」
黒上の両腕が輝きだした。これは何なんだ。彼は殴りかかってきた。軌道が追えない、速すぎる!
俺の体は拳に当たる前に後ろへ吹っ飛んだ。
(危ねぇ、あいつぅ、もう悪魔の戦い方を学んでるぅ)
(ザックス?)
(しばらく体の主導権もらってぇいいかぁ?)
(仕方ない)
悪魔に体の主導権を渡した。ザックスは反撃し始めた。
(あの光っているのは何なんだ)
(話しかけるなぁやられるぅぞぉ)
すごい集中力。一進一退の白熱した戦いだ。黒上は俺の顎をめがけてパンチを入れにきた。脳震盪を起こさせ一発KOを狙ってきたのだろう。ザックスはジャンプでその拳をかわし両足でその拳を掴むと空中で一回転して黒上を地面に叩きつけた。
「やるじゃん、柳くん」
黒上は自分が戦闘技術で負けていると判断したのか三、四回後ろに跳躍して間をとった。
「主従関係を結ぼうと思っていたけどやめだ。君の悪魔は強すぎる。危険だ。殺そう」
(大輝ぃ、めっさぁ、嫌な予感がするぅ・・・)
黒上は光っている両腕を地面につけた。
「我が主よ・・・眷属たる我を鼓舞させ魔力の恵みを!」
(こいつはぁまずいぃ!今しかねぇ)
ザックスは思いっきりダッシュした。拳を思いっきり溝うちめがけて繰り出す。
一瞬にして黒上の姿が消えた。背後に寒気。後ろか。回し蹴りを放つ。
「攻撃が軽い」
そこには黒い羽を生やし角が生え両腕には黒いオーラが漂っている黒上の姿があった。体格も一回り大きくなっていてゴツくなっている。
(勝ち目がないぃ、逃げるぞぉ)
(ザックス、戦闘の時あいつに触っていたよな?入れ替わりの能力使えないのか?)
(いいかぁ?能力ってぇのはぁ、魔力をつかってぇやるもんなんだぁ。あいつぅ今、化け物みてぇな魔力ぅだぁ、ほぼ確実に効かないぃ・・・)
思いっきり、一直線で公園を抜けだそうとした。
「逃すか」
瞬間移動かのごとく俺の真横、左側に黒上が現れた。
気づいたら俺の体はぶっ飛んでいた、腹のあたりが激痛に襲われる。蹴られたのか。
(ザックス、俺に考えがある)
(どんなんだぁ)
(全力で逃げてくれ。しばらくしたら左に飛びついてくれ)
ザックスはわかったと俺の案に従った。俺の考えはこうだ。逃げようとすればさっきのように瞬間移動のようにして俺の真横に現れる。さっきもそうだったが左側に黒上は現れていた。彼は右利きだ。右手で殴ってくるなら左側に姿を見せるのでは?
「今だ!」
俺の予想どうり逃げようとする俺の体の真左に黒上が現れた。ザックスは右足で踏ん張り思いっきり黒上めがけて飛びついた。黒上を地面に押さえつける。
「黒上、覚悟はできてるのか」
「柳くん、君はすごいな。悪魔と契約してまだそんなに日が経っていないだろうに」
俺はザックスから体の主導権を返してもらうと思いっきり馬乗りで殴りまくった。
「そろそろ降参したらどうだ?」
「柳くんは強いのかもしれない。でも君は優しい」
「何が言いたい?」
「僕を殺そうとしないじゃないか、そんな甘いと魔王なんてなれない」
魔王、こいつの目的は魔王になることなのか?俺の目的はいじめをなくすことと辰巳を助けること。どちらもザックスの協力なしでは無理だろう。つまり俺もザックスの目的である魔王を目指さなくてはならないというわけだ。
「上等だ!」
俺は思いっきり渾身の一発というやつを喰らわせようと拳を振り上げた。
「そんながむしゃらな攻撃、隙だらけだ」
黒上は思いっきり翼を広げた。黒い羽が舞う。すごい力だ、俺は吹き飛んだ。
「正直僕もダメージを受けすぎたよ、今日のところは引き下がってやる。だが僕は君を必ず倒しににくる」
そういうと黒上は姿を消した。俺も緊張が溶けるとその場に倒れこんだ。
目が覚めると俺は自分の部屋にいた。俺はまず自分の身に起こっている異常に気がついた。昨日丸々一日の記憶がない。
(よぉ大輝ぃ、気がついたかぁ)
(ザックス、俺昨日の記憶がないんだけど)
(俺もだぁ、これはなんなんだぁ)
扉の開く音がした。そこには舞子の姿があった。
「大輝目が覚めたんだ!」
舞子は嬉しそうに駆け寄ってきた。手に持っていたビニール袋を置くと俺のおでこに手を当ててホッと息を吐いた。
「よかった、熱も下がってる」
「あの舞子、昨日何かあったのか?俺記憶がなくて」
「記憶がない?」
舞子が驚いた表情で俺を見てきた。