【4話:殺人】
「水鳥警部!この事件には絶対裏があると思います」
細くて彫りの深い顔、痩せた体型な男は剃り残しのヒゲを手でさすりながら部下の言葉に返事をする。
「分かっている。だがこの事件もあの時と同じ、悪魔が関わっていると思われる。手が出せない」
強く机を叩くと「クソッ」と吐き捨てて部屋を後にした。
俺らが通っていた高校から電車で二駅。公立でそこそこの進学校、それが俺の転校先だ。たった二駅されど二駅、駅を降りると大通りがあり人がうじゃうじゃと溢れていた。
「舞子・・・それに蛹咲も。なんでついてきた」
「大輝が一番追い込まれていた時に手を差し伸べられなかった。もう二度と君を、裏切りたくない!」
舞子は俺の目を見上げながら力強く凛々しい声でそう言った。
蛹咲は無言で俺に一礼した。そして市販の三枚入りの少し高めなクッキーを俺と舞子に渡してきた。
「昨日買ったの、よかったら食べて」
俺はぼそりとお礼を言った。このクッキーは俺の大好きなやつだったからだ。そうでもなければあいつにお礼なんて言わない。そうこう思っていると急に便意がやってきた。
「わるい!先行ってて、ちょっとお花摘んでくる!」
ベンチにカバンを置いてトイレへ駆け込んだ。
ぷはぁ〜♡すっきりんこぉ〜♡トイレの時間は好きだ。気持ちがいいし爽やかな気持ちになるし何より一人になれる。しかしトイレを出ると最高の気分が一転、最悪になった。
ベンチの上のカバンの横には見知らぬ少女が座っていた。ボーイッシュな髪型、座っていても身長が低いことがわかるくらい小柄。そんな少女が少し高めなクッキーを頬張っていた。クッキーを横取りされた!?
「ちょ、ちょっと」
「ん?」
やばい。「クッキー返せ」の一言が言えない。ここにきてまだいじめられていた時の習性というかコミ症が・・・。あ、最後の一枚。少女はクッキーを俺に差し出してきた。
「あ、あのー、どうぞ」
「ど、どうも」
いや、俺のクッキーだろ!何だこいつ。
「見ない顔ですけど転校生ですか?」
そういやこの制服、紺色のシンプルなセーラー服。俺の転校先のだ。この女、同じ学校か。
「そうですね」
「私は夜見音愛香。よろしくです」
「俺は柳大輝、よろしくです」
「じゃ、私日直だから先行くね」
そういうと手を上げて、そして走っていった。
くっそ女め!クッキー返せや!
(大輝ぃ、お前面白いなぁ!ぎゃはは)
(どういうことだ)
(カバンの中見てみろよぉ)
カバンの中には食われたはずのクッキーが入っていた。このクッキーはたしかにどこでも売ってる。けれども少しお高い。そんなクッキーを、たった三枚しかないクッキーの一枚を俺にくれたのだ。俺は走る少女の後ろ姿を綺麗だと思った。
舞子と蛹咲と俺。それぞれ別のクラスに入ることになった。そりゃ当然か。
「それじゃあ転校生を紹介する!」
先生がドアを開く。俺は教室に入り教壇に立った。チョークで名前を書く。
「柳大輝です。よろしくお願いします」
クラスを見渡すとさっきのクッキーの夜見音さんがいた。目が合い会釈をした。窓側の席に目をやると俺は驚きとショックからチョークが手から落ちていた。
「辰巳・・・」
ゴツイ体に似合わない、やつれて昔の面影のない辰巳がいた。
休憩時間、俺は辰巳の元へ駆け寄った。
「辰巳!久しぶりだな!」
彼は返事をしなかった。俺と目すら合わせない。
「誰だお前?」
頭の中が真っ白になった。何をいっているんだ。俺は・・・。そこで俺は前に蛹咲が言った一言が頭をよぎった。
「辰巳、お前と仲よかったことがバレてあっちの学校でいじめられてるんだよ!彼は、彼は!」
俺が自殺を決意した言葉だ。そうだった。忘れていた。俺は辰巳に恨まれているのではないか?
俺はここへくるべきでは無かったのではないか。
「転校生くん!」
後ろから背中をトントンと叩かれた。振り向くとだらしなくシャツの出ているマッシュルームヘアーの男子が立っていた。
「彼には近づかないほうがいいよ」
「何でそんなこと言うんだよ!」
思わず声を荒げてしまった。
「いやいや、いじめとかじゃなくてね」
教室を出てすぐのところに高速道路の路肩のようなスペースがありそこに長い机と椅子が数個ありそこに二人で座った。
「転校生くん、僕は黒上与一。よろしくね」
「自己紹介とかはいいからなんで辰巳に話しちゃダメなのか早く教えてよ」
黒上は目の上にかかる程の長さの髪の毛を整えて顔を俺に近づけてきた。
「あいつは犯罪者だ」
「犯罪者?どういうことだ」
「神楽坂くんは人殺しだ」
黒上は辰巳が何をしたかを話し出した。
神楽坂辰巳。彼は高校入学当初はとても明るかった。クラスの中心人物で誰にでも優しくてみんなから好かれていた。だが彼は徐々に本性を現していった。自分の正義感を人にも押し付けて悪人と思ったら大声で怒鳴りつける。暴力こそしなかったがごっつい体で怒鳴られれば恐怖心は相当なものだろう。次第に彼は人から避けられるようになっていった。
中間テストの前日、僕は事件を目撃してしまった。
カフェインを摂取するために魔剤を数本買いだめようと思って学校帰りにコンビニに入ると怪しい動きをしている学生がいるのが見えた。体格と後ろ姿で神楽坂くんということはすぐに気づいた。彼はライターとロープを買ってコンビニを出て行った。明らかにおかしい。挙動不審だし何か嫌な予感がした。本当に直感でしかなかったが僕は彼の跡をつけていた。
神楽坂くんはボロボロの一軒家に入って行った。僕は彼が外に出てくるのを待つことにした。窓はシャッターがしてあり外からは全く中が見えないというかきっと日の光一寸たりとも入ってこないだろう。
三十分ほどたった頃、戸が再び開いた。彼は黒いゴミ袋を持っていた。このボロ屋には小さな庭があり小さな花が何輪か咲いていて、そこの土にゴミ袋の中身をまいていった。中身は黒い粉で僕は最初は肥料と思ったが違和感を覚えた。理由はいくつか考えついた。まず肥料にしては粉の量が多すぎる。たった数輪の花に対して袋いっぱいの肥料というのは逆に毒だろう。そして二つ目、普通園芸的な作業は軍手を使うだろうになぜか分厚いゴム手袋をつけていてそのゴム手袋は使い終わった後ゴミ袋に放り込まれた。使い捨てにしては高そうなのに。そして決め手はこのボロ屋が神楽坂くんの家ではなかった点だ。彼はその後ゴミ袋を持ってこのボロ屋を後にした。そしてマンションへ帰宅して行った。
僕はボロ屋に戻ると早速黒い粉をチェックした。指で触ってみると黒い跡が残った。これはススだな。つまりなにかを焼いたもの。そして僕は最初に感じた嫌な予感を確信に変えるものを見つけた。大量のススの中に見覚えのある布生地を見つけた。焦げてはいたがこの生地は確かにあれだった。
「うちの女子の制服・・・」
僕は慌てた。警察に連絡するという手を思いつかなかった。事件現場を荒らすのは絶対にやってはいけないことだが冷静な判断などできるはずもなく扉へ向かった。
ドアには鍵がかかっていなかった。その時変な銀色の液体が垂れてきていたが、この時はそんなこと何も気にせず駆け込んだ。電気は通っておらずシャッターが閉められていたため本当に暗くスマホの懐中電灯機能を使って中を見渡した。
生活感のない何の家具も置いていない空き家だった。色々な部屋を見て回ると浴槽からシャワーの音がするのに気づいた。
中に入るとシャワーが流しっぱなしになっていて微かに異臭がした。
シャワーを止めて外に出る。
「パチ!」
次の瞬間、部屋の電気がついた。部屋の中がしっかりと見えるようになり僕はあることに気がついた。
基本的に床は埃が被っていたが一部分だけ不自然に埃のない場所があった。もう確実に事件は起こっている。なにか残っているものはないか、僕は辺りをあさった。すると定期券入れを見つけた。使い古されて元の色が何色かわからないような定期入れ。
中には生徒証が入っていた。
「夜見音歩美」
「夜見音・・・?まさか」
僕のクラスメイトに「夜見音愛香」という人がいる。確か、姉がいたよな、あいつ・・・。
僕はすぐに夜見音さんの家へ向かった。
インターフォンを鳴らす。返事は来なかったがしばらくして夜見音愛香が涙目で飛び出してきた。
「黒上くん、お姉ちゃんがまだ帰ってこないの」
僕はその場ではなにも言えなかった。
家に帰って頭が冷えた僕は警察に連絡した。神楽坂くんのこと、現場に乗り込んだこと、夜見音さんのお姉さんのこと。全てを話した。
翌日、神楽坂くんは逮捕されその後有罪を言い渡されたが数百万のお金を支払うだけで釈放された。この事件自体は色々隠されていて報道も最初はされていたもののある日を境に一切このニュースを目にすることはなくなった。
そして神楽坂くんは学校に復帰した。彼は殺人を認め前の明るいイメージとは全く異なる暗い、会話をしない人になった。
黒上は話し終えると大きく伸びをして椅子を引いて立ち上がった。
「とりあえずそういうことだ。あいつは殺人犯だし、神楽坂くん自身他人を避けている。だから話しかけないほうがいい、転校生くん」
俺は椅子に座ったまま黒上を見ないで発言した。
「なるほど、わかった。だけど俺は辰巳のことをよく知っている。辰巳に限ってそういうことをする奴じゃない。だから俺は辰巳と話す」
「へぇ、そんなに神楽坂くんのこと信用してるんだ」
「あぁ」
「忠告はしたからね、転校生くん」
「一つ言っておく」
俺は立ち上がって黒上の前に立った。
「俺は柳大輝って名前があるんだ、転校生くんってのはやめてくれ」
「おっけ、よろしくね柳くん」
黒上はそう言って教室へ戻って行った。俺も教室に戻ろうとしたが手を引かれてその場にとどまった。
振り向くと今朝会った女の子、夜見音愛香がいた。
「柳くん、ちょっといい?」
俺はさっきまで座っていた場所へ戻った。
席に着くと彼女は今朝とは違い真剣な顔で口を開いた
「君、神楽坂くんと仲良いの?」
「うん、なんで?」
「ごめん、さっき黒上くんとの会話聞かせてもらっちゃって」
「なるほど」
「彼を信じてるの?」
「うん」
「私ね、絶対神楽坂くんが犯人じゃないと思っているの。私に協力してくれない?」
放課後、学校から駅へ向かう途中にある喫茶店。少しおしゃれで高級そうな雰囲気からか人があまり入っておらずガラガラな店。俺と夜見音は入店して一番安いコーヒーを頼んで席に着いた。
「私が引っかかっているのはね、神楽坂くんは悪いことをするような人じゃないってこと」
夜見音は背筋を伸ばしてきちんとした姿勢でそう言った。
「それは俺も知ってる。辰巳は、正義感が強い」
「そう、そしてもう一つ、お姉ちゃんは恨まれるような人じゃない」
「というと?」
夜見音は小さな顔を俺に近づけてきた。
「お姉ちゃんは、夜見音歩美はいじめられていたの。それなのにお姉ちゃんは恨み言一つ言わないでずっと明るかった」
夜見音が涙目になっていたので俺はハンカチを渡した。
「私はお姉ちゃんをいじめていた人が犯人なんじゃないかと思っているの」
「いじめ・・・」
俺はいじめの加害者は誰なのかを聞いたが夜見音は悔しそうな顔でわからないとだけ言った。その後はコーヒーを飲みきりこの喫茶店を後にした。
「なぁ夜見音、俺、いじめだけは絶対許せないんだ」
俺は夜見音の手を両手で掴んだ。
「必ず解決する」
俺はそう言い残すと彼女と別れ家へと向かった。
ピンポーン!
インターフォンに出るとそこには舞子と蛹咲・・・の妹がいた。
「どうしたの舞子、その子?」
「ああ、美代ちゃん?蛹咲さんの妹さん」
小柄な少女は服を整えて気をつけの姿勢をとった。
「森山美代です。今日は色々話をしたくてお邪魔させてもらいにきました」
「お姉ちゃんは?」
「姉は柳さんに嫌な気分を与えないよう顔を見せないほうがいいと言ってました」
蛹咲に気を使われるのは癪だがあいつの顔を見たくないのは確かだ。
「とりあえずあがって」
蛹咲妹は正座で、舞子は体育座りで床に座った。このワンルームには座布団があったが遠慮してなのか座布団には手をつけなかった。
「蛹咲・・・じゃなくて森山さん?そんなにかしこまらなくてもいいよ」
自分の部屋で正座されると何か落ち着かない。俺はくずすように勧めた。
「いえ、姉さんがしてきたことは聞きましたしそういうわけにも」
妹は姉と違い礼儀正しい。蛹咲と入れ替わった時にも思ったが本当に同じ血を引いているのだろうか。
「それで舞子、どうしてうちに来たん?」
舞子は少し間を開けて俺の問いに答えた。
「神楽坂くんのことで」
一言だった。そして足りない言葉を補佐するかのように妹が口を開いた。
「たぶん辰巳さん、悪魔と契約してます」
悪魔。どういうことだ?蛹咲から俺のことを聞いていたとしてもなぜそういう話になるんだ。
(ザックス、悪魔はお前以外にもこっちの世界にいるのか?)
(あぁ、言っただろうぅ、魔王の座をかけて争っているってぇ)
俺は唾を飲んだ。俺はザックスと契約しているわけだ。つまり他の悪魔達と戦わなくてはいけないということではないのか?仮に辰巳が悪魔と契約していたとすれば敵対することになるわけだ。ザックスは、悪魔は俺ら人間とは比べ物にならない力を持っている。契約した以上裏切ったらそれこそ何があるかわからない。
「なあ、森山さん」
「美代でいいですよ」
「そうか、美代ちゃん。なんでそう思ったのか教えてくれる?」
「もちろんです。昨日の話になります。水鳥さん、お話ししてもらってもいいですか?」
舞子は頷くと昨日のことを話し出した。
学校が終わり家に帰ると珍しく父親の姿が目に入った。苦しそうにうなる父を見て私は声をかけた。
「どうしたの、悩みとかあるの?話聞こうか?」
「いや、仕事のことでちょっとね」
私の父親は警部。なんか難解な事件を追っているのだと察した。
「わかった。頑張ってね」
父の側から離れようとした時、父の持っている紙のとある文字が目に入ってきた。
『神楽坂辰巳の扱いについて』
私は父が寝た後こっそりとこの紙を拝借した。真犯人を見つけることは不可能、証拠は確実に出てこない、この状況からは神楽坂辰巳を犯人とすることにしかできないが、今回の事件も悪魔の勢力争い・・・。
悪魔。たしか大輝も・・・。大輝に伝えなきゃ。
「森山・・・絶対に逮捕してみせる・・・モニョモニョ」
大輝の家へ向かおうとしたとき、父の寝言が耳に入ってきた。
「森山って・・・どっかで聞いたような・・・」
少し考えると蛹咲さんの話がひっかかった。
「蛹咲さんの昔の名前か・・・!」
私は蛹咲さんの家へ向かうことにした。しかし場所がわからないので蛹咲さんの携帯に電話した。
「もしもし、私水鳥です」
「水鳥さん?どうしたの?」
「今から蛹咲さんの家に行きたいんだけど場所教えてくれない?」
「え、今から?」
「緊急なの」
私は蛹咲さんの家に着くと彼女の部屋で全ての出来事を話した。
扉の開く音がした。廊下からひょこっと小柄な女の子が顔を見せた。
「そういうことなのね、色々と納得したわ」
「誰?」
「森山美代です。美奈姉さんの妹です」
「妹さん?」
「はい!これまでの姉の変化とかいろいろと納得がいきました」
妹は姉の腕を掴んだ。姉は少し難しそうな表情で俯くというほどではないが少し下を向きながら掴まれていない、反対側の手で自分の妹の肩をポンポンと触った。
蛹咲さんはいじめの事と悪魔のことなどこれまでのことを妹に話した。妹は真剣な顔をして姉に抱きついた。
「ごめんね、ごめんね」
目を強くつぶって歯を食いしばって、少女の声は振り絞るように発せられた。
「美代、私は・・・」
「姉さんは確かに最低なことをしたと思う、でも、姉さん、辛かったと思う」
しばらくただ抱き合っていた。
次に口を開いたのは蛹咲さんだった。
「多分その水鳥さんの父親の言った森山っていうのは多分私らの義父のことだと思う」
蛹咲さんはしばらくしてまた口を開いた。
「私らの義父はね、人を利用してどんな悪いことをしても自分の利益を最優先してなんも悪いと思わない最低な政治家なの。だから、警察に追われていてもなんも不思議なことない、そういう男なの」
私は美代ちゃんの方に目を向けた。彼女は苦笑いして姉とバトンタッチした。
「姉さんはお父さんのことすごい嫌っていますけど私は身寄りのない私たち姉妹を養ってくれて感謝しています。それでも一応それがお父さんなのか確認してみます」
私はしばらく蛹咲さんの部屋で蛹咲さんと二人っきりになった。正直いじめで私の人生を大きく変えた相手な訳だしかなり緊張したが妹が帰ってくるまでお互い無言だった。
帰ってきた美代ちゃんは少し暗い表情だった。どうやって確認したのかはわからないが多分なんらかの父親が黒という確証的なものを見つけたのだろうと思う。私らは大輝の家に行くことにした。
俺は舞子の話を聞いて悪魔が関わっていると確信した。
「舞子と美代ちゃん、二つ質問がある」
俺はまず舞子の方を向いた。
「まず舞子、その『神楽坂辰巳の扱いについて』の紙って写真とかとってたりしないか?」
舞子は首を横に振った。慌てていたのだろうし仕方ないか。
「内容は覚えているんだよな?」
「なんとなくだけど一応」
「わかった、もしできたらだけど親父さんの目を盗んで写真を撮ってこれたら撮ってきて、内容をしっかりとみておきたい」
警察の情報だ。どこまで悪魔について知っているのか、色々と気になるところがある。
次に美代ちゃんの方を向いた。
「そして美代ちゃん」
「はい」
「父親がなぜ黒だと思ったの?」
「お父さんの部屋には金庫があるんですよ。私らに秘密のことはいつもそこに隠すんですよ。もちろんパスワードなんて教えてもらっていませんでしたが昔気になったことがあって薄く油を塗ったことがありました。お父さんが金庫を開けた次の日に小麦粉をかけてあげると四つの数字が浮かび上がってきました。番号は四桁なので四の階乗で二十四通り。そんくらいなら総当たりでいけます。そんなことをしたことがありパスワードを知っていた私は中を見てしまいました。」
「なにがあったんだ?」
「中にはですね、なんと水鳥警部の捜査状況が詳しく書かれた紙の束があったんですよ。黒を確信しました」
「なるほど、でも最初に言っていた辰巳が悪魔と契約しているっていうことにはどうしてなるんだ?」
今までの話を聞いている限り辰巳と悪魔が関係しているとは思うが契約しているかまではわからなくないか?
美代ちゃんは正座したままズリズリっと俺に近づいた。
「柳さん、その水鳥警部の捜査状況の紙に書かれていたことに驚くべきことが書かれていたんです」
もったいぶって一息置いてから再び口を開いた。
「実はその捜査状況の紙にはとある殺人事件のことが書かれていて犯人の名前に神楽坂辰巳とあったんですよ」
「その話は学校で聞いた」
「実はその殺人が起こったと見られる家があるんですけどそこの鍵に普通じゃあり得ないことが起こってたんですよ」
「普通じゃあり得ないこと?」
「鍵をかけた時に突き出してくるやつあるじゃないですか」
「あるね」
「デッドボルトって言うらしいんですけどそこがなんと水銀になっていたそうです」
俺は今朝の黒上の話を思い出した。確か変な銀色の液体が垂れてきたとか言ってたな。
辰巳が悪魔と契約している。俺もその線で考えるのが妥当だとそう思った。