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【3話:復讐】

部屋を出ると一メートルほど廊下がありそこを渡ると階段があった。降りると小学生か中学生くらいの女の子が涙目で俺をいや、蛹咲を見つめていた。

「姉さぁぁん!!」

少女は思いっきりとんで抱きついてきた。

「いつも私のこと無視して食事なんて一緒に食べてくれなくて、暗い表情で部屋にこもってる姉さんが部屋を出てご飯を食べにきて、明るい顔で私に会ってくれる!嬉しいよぉ!!」

少女の全体重が俺にかかっているが全く重くない。女子ってこんなに軽いのか。だが彼女の叫びは何か重々しいものがあった。

「夕飯食おうよ」

俺は静かにそういうと妹はニコリと笑って戸を開いた。そこは六畳くらいの畳部屋で真ん中に大きめのちゃぶ台がありその上にはハンバーグを中心に豚汁、ご飯、そしてシーザーサラダが置いてあった。一人暮らしの俺からみるととても豪華な料理だ。

さて、料理は二人分置いてある。妹と蛹咲のものだろう。彼女らは二人暮らしなのだろうか。

妹はテレビをつけると「いただきます」といってから箸を手に持った。まだ小さいのに姉とは違い礼儀がいい。正座して姿勢良く食事をしている。姉の方もこれを見習ってほしいものだ。

妹は食事の手を止めてテレビを指差した。

「あ、お父さん出てる!」

クイズ系のバラエティー番組に髭ズラのタヌキおやじがスーツ姿で出演していた。

「美代!見てるか〜?お父さん頑張ってハワイ旅行券ゲットしてくるぞ!」

画面の中のおっさんが手を振っていた。この発言から俺は妹の名前を把握した。「美代」というらしい。「美奈」のことを言わないことに違和感は覚えたがこのおっさんがこの二人の父親なのは間違いないだろう。しかしこの顔どこかで見たことがあるような気がする。

「それにしても政治家なのにお父さんよくバラエティー出るよね」

政治家、そうか。選挙活動とかで駅前によく立ってた人か。でもこの人、名前「蛹咲」じゃなかった気がするけど。まぁいか。

「政治家の仕事なんじゃないの?バラエティー番組出るのも」

俺がそういうと美代ぽかんとした表情で口を開けてボーッと俺を見つめる。

「ほんと今日はどうしたの美奈姉さん、私的には嬉しいんだけど」

しまったな。俺は家庭での蛹咲など全くもって知らん。どう行動しても違和感だらけだろう。

「姉さん、お父さんのこと普通に話すなんて。すごい嫌って悪口以外言わないのに」

やはりこいつはそういう奴だよな。

夕飯を食い終わると俺は部屋へと戻った。俺の能力はどうやら入れ替わり。能力の継続時間や解除方法はわからないがこの入れ替わりの能力は実に使える。

俺は復讐をどうやってするか色々な場合に分けて考えた。


次の日。目を開けると見慣れないピンク色の壁。一瞬何が何だかわからなくなったがシュワァっと頭の中に昨日の記憶が蘇ってきた。俺は蛹咲と能力で入れ替わったのだろう。

(ザックス!やっぱりいないのか)

ザックスがいるか確認したがやはりいない。きっと俺の体の方にいるのだろう。能力の詳細を確認しておきたかったが仕方がない。どちらかというと今の状況のほうが俺には都合がいい。ザックスは俺の体の方にいれば協力の関係にある悪魔は俺の体を守ってくれるだろう。心配ではあるが今はザックスを信用しよう。

体を起こし服を脱ぐ。敵である彼女の体も女体。裸をしばらく鏡の前で拝んだ。

「姉さん!美奈姉さん!遅刻するよ、時間時間」

慌てる妹の声に反射的に目線を時計へ移す。時計の針は八時を指していた。昨日確認した蛹咲の最寄駅から学校までは大体三十分。学校の始業は八時二十分。確実に遅刻だ。だがまあいい。遅刻だろうが何しようが蛹咲の体だ。あまり関係ないな。

学校に着いたのは九時過ぎ。一時限目の終わり頃だった。

「かったるい授業なんて受ける価値なーし」

そうだるそうに言って教室に入った。いつもは猫をかぶって優等生ぶっている蛹咲が急にこんな事を言うのだ。生徒も教師も驚いて教室は静まり返った。俺の姿があるか自分の席に目を向ける。そこには怯えた顔でこっちをみつめる俺がいた。

「せんせー、授業なんてもうどうでもいいですよね?帰ってもらえます?」

俺は甲高い忌々しい声で先生に言った。まずは蛹咲の評判を地の底へ落としてやる。さあ、激怒しろ!

ところが教師は怒るどころか頭を下げ教室を去っていった。何だこれは、怯えているのか?

「私もうこの男と一緒の空気を吸いたくないからこいつ、不登校にさせようぜ」

俺はいつもの蛹咲のように俺をいじめるように発言する。今の俺の体の中には多分蛹咲美奈がいる。いつもの俺の苦しみをたっぷり味わってもらおうではないか。

中町が立ち上がった。

「やーなーぎーくん!あなたのせいで美奈ちゃんがやな気持ちになっちゃったじゃん。とりあえず謝って?」

俺の姿をした蛹咲は無言で彼らの言うことに従った。小さな声でごめんなさいと謝罪した。

衛宮が俺の体の背中を蹴飛ばすとしゃがみこんだ体勢になる。

「頭が高ーい」

いい気味だ。いつもの俺の辛さがわかるか?

俺は教室を出ていった。次にやることは社会的地位の抹殺。何がいいか、犯罪でも犯すか、援交でもするか。

いいことを思いついた・・・。

放送室。重い扉を開くとカビ臭い匂いが広がる。主電源を入れて放送箇所を全校に設定する。主音量を適量に上げてマイクの音量を上げる。ピンポンパンポンボタンを押すと学校中が静かになる。

「えー、蛹咲美奈です。繰り返します。蛹咲美奈です。」

息を吸って間を開ける。

「この度私は謝罪するために放送を使わせてもらいます。私は中学の時、罪のない女の子をいじめました。そしてその女の子を庇った男子にボコボコにやられて逆恨みをしました。高校に入り彼をいじめていたのは私の私利私欲の気晴らしのためです。その罪をここに告白します」

数十秒後、あわてた先生が数名俺を確保しにきた。復讐というよりただただ事実を暴露しただけ。でもこれでいいのかもしれないな。なんだか心はスッキリしていた。後は教師どもに裁いて貰えば・・・。

「蛹咲さん、本当のことなんですか?」

「はい。いじめの主犯です」

教師は困った顔をして原稿用紙を渡してきた。

「反省文を書いてください。それでこの件は終わりです」

は?反省文を書いて終わり?停学すらないのか?スッキリしていた心は一瞬にして雲がかかった。


「柳!ちょっとこい!」

教室に戻りドアを思いっきり開けて俺を呼び出した。大人しく出てきたこいつを屋上へ連れていった。

「お前、蛹咲だろ」

コクリと頷く。

「俺は柳大輝だ」

「知ってる」

お互い見つめ合うと俺の体はそっとしゃがんだ。

「ザックスって悪魔?が能力解除には指をもう一度鳴らせって」

落ち着いた声でいつものトゲトゲしたものは感じられない。まぁそもそも俺の声なのだが。

「ザックスを知ってるのか?」

頷く。

俺は指をスナップする。

「スカッ」

俺は体が元に戻っていることに気がついた。

「俺は前までの俺じゃない。お前に地獄を見せてやる」

蛹咲は何も言わず俺の目を見て立っていた。

「なんか言ったらどうなんだ!」

俺は思いっきり殴りかかる。今までの恨み、理不尽。辰巳がいじめられているのは俺のせいでもあるが一番の原因はこいつだ。

俺の拳は大きな音を立てて少女を吹き飛ばした。しかし目の前には蛹咲が立っている。俺は殴り飛ばした少女に目を向ける。そこには舞子の姿があった。

「舞子!」

俺は幼馴染のもとへ駆け寄る。自分の手で一度守った少女を傷つけた。

「舞子ぉ!」

「おちついて大輝」

舞子はゆっくりと立ち上がった。

「復讐は何も生まない。絶対に」

凛々しい姿の舞子に俺は戸惑った。この子は俺を見捨てたくせに敵であるはずの蛹咲は守るのか?

「何でこいつをかばうんだ?舞子だってこいつには・・・」

「私だって彼女には悪い感情しかない。けどね・・・」

舞子は俺に飛びつきギュッと抱きしめた。俺はかぼそい腕にしっかりと抱かれている感覚をえてしばらく無言で彼女の頭を見ていた。

しばらくして背中のシャツを引っ張られた。チラリと後ろに目を向ける。

「柳、その、ごめん。私の話を聞いてほしい。もちろん謝って済むとか思ってないし償いきれないのはわかっている。」

蛹咲は弱々しく、震えた声でそう言った。

「水鳥・・・さん、あなたにも聞いてほしい」


〜中学一年入学式〜

今日からついに中学生だ。小学校の時みたいにぼっちにならないように明るく友達をいっぱい作りたい。まずは元気に挨拶ね。みんなの注目を集める。

私が扉を開けると大声で挨拶をした。

「こんにちは!」

しかし誰もこちらを見なかった。教室の中では中肉中背の普通な男子と綺麗な長い黒髪で細身な美少女が大声をだして互いに指をさしあっていた。

私は何事もなかったかのように指定されていた席に座った。何だかとても恥ずかしかった。

校長の長い話を聞いて入学式が終わりホームルーム。担任の教師が「自己紹介をしましょう」と言うとクラス中がブーイングしだした。

「えー、早く帰りたい」

「自己紹介なんてめんど〜い」

担任はため息をつくと黒板に「知人者智、自知者明。(老子)」と強く音を立てながら書いた。

「人を知るものは智なり、自らを知るものは明なり。」

担任は教室を眺めると私を指差した。

「名前は?」

「森山美奈です」

「この意味はわかるか?」

「はい、えーと、他人のことを知ってるということは頭のいいことですが自分のことがわかるのはより明晰ですよね、的な感じですか?」

「そうだ」

担任はニコリとして黒板に書いた文字を消した。

「何が言いたいかというとな、他人のことも自分のことも知らないような奴はな、バカだということだ!自己紹介は己のことも他人のことも知れる一石二鳥なものなんだ」

スタスタと教室の後ろの方へと歩いていき一番後ろに着くと止まり黒板の方を向いた。

「それじゃあ出席番号一番からだ」

私は他人のことも自分のことも別にどうでもよかった。頭が良くなりたいわけでもないし別にバカになってもいい。ただ友達を作って楽しい学校生活を送りたかった。だがそのためには自己紹介は重要だ。

「次、君だよ」

隣にはさっきの私の元気に挨拶作戦を失敗させた原因の一人の女がいて私の番ということを知らせてきた。

「ありがと」

前へ行き教壇に立つと明るくすることを意識して笑顔を作った。

「三十番森山美奈です。中学生活はいっぱい遊んでみんなと一緒にワイワイやりたいなと思ってます!よろしくお願いします」


家に帰ると妹の美代が料理を作って待っていた。

「おかえり美奈姉さん!姉さんの入学祝いということでケーキもあるんだけどそれは夜でいいよね」

「え?なんで?もう食べたいよ」

「今日は久々にお父さん帰ってきてくれるんだよ」

「え、あいつ帰ってくんの、やっぱりもう食べる。今日は早めに寝る」

美代は落ち込んだ表情で私に言う。

「なんでお父さんと仲良くできないかな」

「だってあいつ、私ら姉妹を政治の道具として養子にしたんだよ。孤児だった女の子を助けましたっていい人アピールして支持を得ようとしてるん、私らのこと全く思ってないんだよ」

「それでも親のいない私たち姉妹を養ってくれてるんだよ」

「それこそそうしなきゃ叩かれるもん。政治家だよ?」

妹は諦めたのかため息をつくと冷蔵庫からケーキを取り出してきた。

「やった!ありがと美代」

「昼食べ終わってからね、ケーキ」

「はーい」

食事が終わると食器を流しへ持って行きそのまま自分の部屋へ向かった。今日は顔を見たくない人が帰ってくるし部屋にこもっていようと思っていた。しかし呼び鈴がなると私は玄関へ呼び出された。

「姉さん暇でしょ出て」

「えー、美代出てよ」

「食器洗ってるの」

「わかったよ」

扉を開けるとそこには大きくてガッチリとした坊主の男。私の好きな、幼馴染の姿があった。

「辰巳?どうしたの」

「美奈、忘れ物」

幼馴染の男は分厚い紙束を渡してきた。

「なにこれ?」

「宿題。お前らの学力見るって先生が」

「そんなんあったっけ?」

「まじかよ」

教室に入った時辰巳の存在には気がついた。本当に嬉しかった。好きな人と一緒のクラスになれた。だけどなんか照れくさくて今日は一切会話できなかった。

「とりあえず上がって、部屋きて」

部屋で好きな人と二人っきり、ドキドキでとても緊張する・・・と言うわけではなく普通に楽しく遊べた。幼馴染だと変に意識しなければ緊張とかはしない。ただふと目があったりすると鼓動が早まったりするから気は抜けない。彼が帰ると私は疲れで睡魔に襲われた。

目を開けると身体中が痛くて悲鳴をあげた。

「先生、目を覚ましました!」

ナース服の女の人が駆け寄ってきた。

よく見ると自室ではなくここが病室ということを理解した。

「ここは病院ですか?」

「そうだよ。よかった、手術は成功のようだ」

優しそうな少し太った老人が私の頭を撫でた。

「なんで私こんな重傷負ってるんですか?」

看護師が父親を病室へ連れてきた。

「何してくれてるんだ。私の顔を汚しおって」

「は?私が何をしたっていうの?」

「とぼけるな!」

鋭い大声に怯んで言葉が出ない。

「お前は少女をいじめてそれを庇った男にぼこぼこにやられたんだよ」

「そんなことしてない。絶対してない」

「まだそんなことを言うか、お前はもううちの子として認めない。『森山』の名も二度と名乗るんじゃない」

そう言うと元義理の父親は病室を去っていった。

記憶がない。きっとボコボコにやられて記憶も飛んだのだろう。本当に私がいじめをしたのか?そんなこと私は絶対にしない。きっと何かある。

退院できたのは一ヶ月後だった。学校に行くと何人かのクラスメイトが私に寄ってきた。

「森山さん、大丈夫だった?」

「もう私は森山じゃないよ、私の名前は蛹咲美奈」

「蛹咲・・・さん?」

「そうよ」

「なんか怖い男にずっと殴られてたもんね」

「確認だけど私はいじめはしていないのよね?」

誰も答えてくれない。

しばらくして幼馴染の辰巳が近づいてきた。

「美奈・・・忘れたふりか?忘れえりゃ消えると思っているのか?お前とは絶交だ」

私は不登校になった。好きな人にここまで嫌われた。ショックから私はそれから一週間ずっと寝込み続けた。

「私はいじめてない、そんなことしない!」

布団の中で叫ぶ。

だれかに仕組まれたのではないか。私の中でふとそう言う考えが浮かび上がってきた。

私を悪者に追い込めるのは誰だ。まず教室にいる人間以外にいじめがあったなんて発言できる人間はいない。つまり担任かクラスメイトの誰かだ。担任はないだろう、教師はいじめというものを無理やりなかったことにしたりするほどだ。つまりクラスメイトの誰かだ。誰だ。

「私に重傷を負わせたやつか」

自分の暴力を正当化する。そのために私がいじめをしたように錯覚させて私をボコボコにやったと。どういうトリックを使ったかは知らないが許せない。許せない許せない許せない許せない許さない!

こいつの人生を破滅させてやる。そう私は決心した。


「私があなたを目の敵にしたのは今言ったのが理由よ」

俺は蛹咲の胸ぐらを掴んだ。

「何を言っているんだ、舞子をいじめた記憶がない?そんなの信じられもしないしたとえそうでも俺はお前を許せない。だって、舞子をいじめたのも俺をいじめたのも全部事実なんだよ」

「知ってる」

「知ってる?」

「ザックスから聞いた」

俺はすぐにザックスに念じた。

(ザックスどう言うことだ?)

(お前になったその子に暇だったし全て話タァ)

(なるほどね)

俺は屋上の出口の扉に手をかけた。

「蛹咲、俺はお前を許さない。だけど今はそれよりもやるべきことがある。だから復讐はしない」

蛹咲は深々と頭を下げる。

「柳・・・本当に申し訳なかった。水鳥さんもすいませんでした」

俺は振り返らずに無言で出ていった。

(なぁ、大輝ぃ、やるべきことってなんだぁ?)

(この能力を使えばイジメを撲滅できるかもしれない。親友を助ける)

(親友ぅ?)

(神楽坂辰巳っていう同じ中学だったやつだ)

(さっきの蛹咲ちゃんの幼馴染も同じ名前だったよなぁ)

(多分そいつだと思う)

(案外驚かないんだなぁ)

(どうでもいいことさ)


その後俺は転校の手続きを済ませて辰巳のいる高校へ転校することにした。辰巳がいじめられたのは俺にも原因があるんだ。何に変えても彼を助けなくてはならない。


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