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【1話:親友】

 その女の子との出会ったのは必然だったのだろう。家が近く親同士も仲良く生まれて最初に遊んだのは多分彼女なのだろう。彼女の名は水鳥舞子。その名の通り舞っている水鳥のように美しい黒髪の綺麗な女の子だった。

僕らの家の境界が学区の境目になっているため別々の小学校に入学した。それでも毎日学校が終わると二人で遊んでいた。しかし小学校高学年になると僕らは男女の差というものを気にするようになり話すことはなくなって行った。

次に僕らが喋ったのは中学に入ってからだった。たまたま同じ学校、同じクラスになった僕らはお互い指をさしあいお 互いの名前を呼んでいた。

その日僕らはカフェに寄って近況を小一時間程話し合った。たわいもない話をした。本当にたわいもない話だった。しかし今思うとそれが僕らの仲の良かった最後の時だった。

 次の日学校に着くと僕は目を疑った。そこには土下座させられている幼馴染の姿があった。舞子は額を地面につけながら「許して」を連呼していた。頭の上から足で踏まれぐちゃぐちゃになった髪からはいつもの可憐な姿の彼女は想像できなかった。

 僕はあからさまのいじめを見て教室に入るのをためらった。正直怖かったのだ。中学生活始まったばかりでいじめの矛先が自分に向くのではないか。そう思うと足がすくんだ。だが昨日の笑顔で喋っていた舞子を思い出すと次々と彼女との思い出が大量に頭を駆け巡り僕は自然と教室のドアを開けていた。

「舞子に触るんじゃねぇ!」

 そのあとは無我夢中で取っ組み合いをしたがなにせ全力だった為その時の記憶は曖昧だった。我に返った時に説明を受けてはっきりわかったのは僕はいじめを行なっていた女を意識不明の重体にしていて僕は無期停学をくらったということだ。

その後両親は僕の話を全く聞こうともせず家から生活費だけ持たされ追放された。僕は近くのボロアパートを借りて一人暮らしを始めることになった。

 次に学校へ通ったのは半年後だった。夏休み後でみんなの肌が褐色がかっていて楽しそうに思い出話をしていた。僕は完全に孤独だった。人に話しかけると怯えられているのか謝られて逃げて行った。舞子は転校したらしくて本当に友達、というか喋り相手が誰一人いない。

「ねぇ、もしかして君停学明けの柳くん?」

 ある日の昼休み。机の横にガッチリとした身長の高いスポーツ刈りの男子が立っていた。

「あ、うん。そうだよ」

 ずっと一人でいたから話しかけてくれて正直僕はかなり嬉しかった。

「柳くんすごいよね!女の子かばって停学になったんでしょ?カッコ良すぎる」

「え?」

急に褒められた僕はぽかんと口を開けて言葉に詰まっていた。停学になった理由で怯えられはしたけど褒められるなんて全く予想もしていなかったのだ。

「ありがとう。でも僕は女の子を殺しかけたんだ。あと少しで殺人犯だったんだよ」

 僕がそういうと彼は大声で笑い出したものだから僕は本当に訳がわからなくなった。

「おま、悪を倒して何が悪い?お前はいいことしかしてないよ」

 自分を肯定してくれる人がいる。僕は彼に心を開いていった。

「えっと、僕一学期学校に全く来られなかったからクラスメイトの名前全然わからなくて。君の名前教えて欲しい」

「神楽坂辰巳。柳くんの下の名前は?」

「柳大輝!よろしくね」

 それから僕らはいわゆる「友達」という関係になったのだと思う。下の名前で呼び合い、一緒に飯を食い、一緒に会話して。まるで小学校時代に戻ったのかというような気分だった。だが、僕はあることに気がついてしまった。僕と一緒にいることで彼まで人から避けられているような、そんな雰囲気が感じられた。

きっと僕と会話なんかしているから彼まで避けられるようになっているのではないか。そう思うと僕は彼にどう接すればいいのかわからなくなっていった。

 それから辰巳のことを少しずつ避けるようになっていった。それで彼が元いた陽キャラの生活に戻れるようになればいいと思っていた。だが彼は僕についてくる。

「大輝!お前なんで俺を避けるんだよ」

 ある日の昼休み。僕は彼に気づかれないように体育館裏で飯を食っていた時辰巳がやって来て目をつりあげて低い声で静かに、でも大きな声でそういった。

 僕は彼に「ごめんなさい」と謝り小さく丸まった。

「謝って欲しい訳じゃない。なんで避けるのかを聞いてるの」

「だって僕と仲良くしてたら君の友達いなくなっちゃうよ」

 自分で言った言葉が相当恥ずかしいものということに気がついたがもう言ったあとだったので僕は火がではじめている顔面を両手で覆い隠した。

「お前がいるだろ」

 彼は堂々と僕の目を見ながら言った。

 あまりの堂々さに僕はしばらく何も言い返せないでいた。

「辰巳は、なんで僕なんかにかまうの?もっと楽しい友達、君にはたくさんいるでしょ?」

 彼はため息をつきそして僕の胸倉を掴んだ。

「いい加減怒るよ。『僕なんか』なんて使うな。お前はすごいやつなんだよ。それこそ俺とは比べ物にならないほどにな」

そういうと彼は僕の胸倉を離して怒鳴ったことを謝ると過去の話を始めた。

辰巳はもともとバスケ部だったらしいが一学期に部長がマネージャーをレイプしバスケ部は一年の停部。辰巳はその事件をきっかけにバスケ部を退部したらしいがそれでもまだ彼はバスケ部とつるんでいたらしい。だが停部しているだけあって色々溜まっていたのだろう。バスケ部の人たちはグレていきいつしか部内でいじめを行うようになっていった。といってもそんなにひどいものではなかったらしくパシらせるとか教室の掃除当番を一人に任せるとかその程度のものだった。それでもいじめはいじめだ。辰巳は罪悪感に満ちながらも彼らが怖くて止めに入ることはできなかったという。そんな時僕の存在を見つけかっこいいと思い話しかけたという。

「何もできなかったのが俺。行動できたのがお前。俺はお前みたいに強くなりたいよ。だからそんなクソみたいな 友達はいらない。わかったらまた友達になってよ」

その日した握手は僕は忘れることができないものになるのだろう。そう思うくらい強い握手だった。

運命とは不思議なもので二、三年と辰巳と僕は同じクラスになった。中学時代、友達は辰巳しかいなかったが彼の おかげでとても楽しい学校生活を送れたと思う。

中学時代最後の夏休み。僕と辰巳は二人で旅行に行くことにした。と言っても中学生だしそんなには遠くへはいけ ない。住んでいる東京から比較的近い旅行の名所といえば箱根だ。電車で箱根旅行を満喫することにしたのだ。

錆びれているが立派な和風の宿屋についた僕らはチェックインを済ませて足早に部屋へと向かった。

部屋は少し広めの和室で二人で机の上においてあるウェルカムお菓子を手にとって食べた。しばらく雑談をしたのちに夕飯前に温泉に入りに行くことにした。この宿は温泉付きで何度でも入り放題。さらに男女別風呂の他に混浴 風呂があるのだ。その混浴風呂は入った人の怪我や病気が治るという伝説がありかなり有名なのだ。だが、当然僕 らの目的は違っていた。

「さて、可愛い子はいるかの?」

「ワクワクが止まらないな」

中学三年にもなって恋愛沙汰は一度もなかったにもかかわらず心は成長している。そりゃ興味も湧くでしょ。

「突入じゃ!」

 僕は思いっきりドアを開けて中へ入ったがそこには男と年寄りしかおらずテンションが一気に急降下した。心のど こかではわかっていた。そりゃそうだよな。辰巳は僕の肩をポンと叩くとそのまま体を洗いにシャワーを一つ確保した。僕も体を洗うためにシャワーを探したが全て埋まっていたので適当に体を洗っている人の後ろに立って順番を待つことにした。

僕の前にいる人がシャンプーをシャワーで流すと曇っていた鏡に水がかかり顔がはっきりと見えて僕は目を疑っ た。そこにいたのは長かった黒髪を切ってショートカットになった舞子の姿があった。

「舞子?」

彼女は振り返り僕と目を合わせて驚いた表情を見せたのち気まずそうに目をそらせて最後は恥ずかしそうに胸を手 で隠した。

僕は久々にあった舞子が元気そうで少し安心したのと同時に女の裸を見て顔を赤らめていた。

それから舞子はシャワーを止めて「空いたよ」と僕に椅子をわたし浴槽へと歩いて言った。タオルを巻いていたが 成長した幼馴染の裸姿に僕はかなりぐっと来ていた。

体を洗い終わり僕もタオルで下半身を巻き浴槽へ向かった。内風呂には舞子の姿はなく辰巳がいた。

「大輝早く入れよ!」

僕は舞子がいる事を辰巳には話せなかった。友達といえど幼馴染の裸を見られるのは気分が良くない。だがこのま まだと多分僕らは露天に行くだろうし舞子も多分露天にいる。向こうで会ってしまう。さてどうしたものか。少し 考えれば答えはすぐにわかった。舞子が風呂から上がれば心置き無く露天へいける。それまで辰巳をここで足止めしなくは。

「ミッションスタート!」

辰巳は不思議そうな顔で僕を見て「大丈夫か」と一言いって立ち上がった。僕は慌てて彼の肩を抑え込み無理やり 座らせた。

「なんだよ」

「しょ、勝負しようぜ。どっちが長く入ってられるか」

「お!いいね。でもそれなら露天でやらね?」

まずい。非常にまずい。何かいい方法はないのか。

「三本勝負。まずは内風呂。次にサウナ。そしてラストが露天風呂。どう?」

我ながらナイスアイデア。これなら多分舞子がいなくなるくらいまで時間は稼げるだろう。

辰巳はニヤリと笑い「いいだろう」と賛成した。僕は勝利の笑みを浮かべた。

「さあ!勝負!」

結果から言うと勝負はつかなかった。内風呂戦で二人とも気を失うまで上がらず最終的に上がろうとしていた舞子 に倒れているのを発見されて救出されたらしい。僕が次に目を覚ましたのは舞子の泊まっている部屋だった。目を 開けるとそこには舞子の顔があり頭部の気持ちのいい柔らかさから膝枕をされているのではとびっくりして起き上 がると案の定そうだった。

「大輝。よかった目を覚まして」

「舞子、辰巳は?」

「一緒にいた男子?それなら・・・」

舞子の指差した先は僕の右隣だった。そこには辰巳が座りながら眠っていた。

「彼、目覚めたら即座に大輝のところに駆け寄り看病してたんだよ。いい友達持ったね」

少し皮肉が混じっていたのか冷たい声で元気がなかった。僕は辰巳に布団をかけると舞子を連れ出し僕の部屋へ行った。

「舞子、大丈夫?何かあった?」

「何もないわ。こんな私なんかを心配してくれるなんて大輝やっぱり優しいね」

「そりゃ心配するだろ。お前とは昔からの仲だ。それと『私なんか』なんて言うんじゃねぇよ」

前に辰巳に言われた受け降りを舞子に言った。舞子は暗い表情のまま口を開いた。

「私は大輝に助けられたのにお礼一つ言わずに転校して逃げた。最低だと思っている。本当にごめんなさい。」

僕は黙って彼女を抱きしめた。そして「いつか遊びに行こうぜ」と言ってこの部屋の鍵をおいて出て行った。

次の日僕らは三人でチェックアウトした。気まずい空気だったため会話はほとんどなく朝食も無言で黙々と食べ た。この沈黙を打破しようと最初に口を開いたのは予想外にも舞子だった。昨日とは一変して笑顔だったが長い付 き合いの僕からしてみればそれが作り笑顔というのは一瞬でわかった。

「神楽坂くんは大輝と同じクラスなんですよね?」

「てか水鳥さんと多分一年の時同じクラスだったと思う。転校するまで」

「そ、そうよね」

舞子は盛大にいじめられて転校したのを知られていることが多分恥ずかしかったのだろう。それからしばらくうつ むいて黙り込んでいた。

僕は辰巳の耳を引っ張り自分の口元に寄せると「デリカシー」っと小さな声で、でも音圧は強くそう一言いった。 辰巳は軽く頭を下げた。

そのまま一切会話がないまま帰宅した。これ以降は中学時代の思い出というものはあまりなかった。

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