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短編集 ~前向きになれますように~

明日への架け橋

作者: 仁科理人

三嶋佐奈は冷めていた。


先輩の誘いで一緒に始めたバンドハウスのバイト。整理券を捌いて物販準備してドリンク作って…。そして日々数々の音楽…雑音を耳にする。正直うんざりしていた。

爆音とナルシスト。後は非現実空間に酔いにきている客と出演者。そんなに逃げたいほどの現実を現代人は生きているのか。…否、これは否定できない。自分も、普段の生活では入らないであろうバンドハウス、というものに惹かれてバイト話に乗ったのだ。現実はこんなものだったけれど…。



その日も淡々とドリンクを作っていた。客の流れが途絶え、片付けを始めようとして、歓声のままにふとステージに目を向けた。「今日は管楽器、キーボード、コンバス、ベース、ドラムか…。」元吹奏楽部としては管楽器がはいるだけでちょっと嬉しい。今日はましなほうだな。視線を外し、片付けを始めた。…そんな時。

ハイトーンのペットが鳴り響いた。

「高っか…。初っ端これかい。」

思わず手が止まる。楽器経験者ならいやでもわかる。金管のこのトーン、尋常じゃなく辛いはず。…ジャズ特有のシンコペーション、対旋律のサックス、キーボード。 ベースもドラムも効果的によく響きだす。選曲か…?いや、それも、だけど、全部の音が綺麗。われない。うるさくない。



いつまでそうして聴いていただろう。「いい顔してんじゃん」隣に先輩がいた。いつの間にか自分の手が止まっていた。はは…。自分でも苦笑して、持っていたグラスをそっと置いた。「よかったよ。三嶋さんも音楽好きそうで。ずっと能面みたいな顔して仕事してるじゃん?好きなバンドがいるわけでもなさそうなのに、何でライブハウスでバイトしてるのかなぁ〜って思ってた。…けど、何となくわかったよ。あんた、意外と熱いんだね。」先輩の顔をみる。にやっと笑われて、なんだか悔しくて先輩から目をそらした。


数曲聴いてわかったこと。中心の人、ペットもベースもやるけれど…基本はずっとタンバリンだけでノってる。仲間を信頼しきった感じで…自分は場を観る&造るだけ、って感じだな…。仲間に全て委ねるその感じは、正直、羨ましかった。間のトークも、間奏も。この人たち、只のナルシストじゃない。この空間の、空気を読んでる。

 暫くして、中心にいた人のMCになった。リーダーかな。曲作りエピソード、観客との会話+αでポソッと「ドームもまだ目指してるから!」…とのこと。


そっか…。

現実に甘んじない未来への期待と、圧倒的な技術と、他者への思いやり。

それがこのバンドの構成か。。

こんな優しくて楽しい空間も自己で作れるのか。。冷めた考えだけじゃダメで。周りを巻き込むテンションと、圧倒的技術で、空間を、創造、するのだ。

クリエイターの心持ちを、垣間見た気がした。


明日から、何やろうかな。これから何して生きていこうかな。自分の好きなことって、なんだろう。ふわっと考えつつ、佐奈は先輩と観客とともに拍手を送った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 短編で、構成がしっかりしている感で、スムーズに読めました。こういったお話はいいですね。
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