始まりはいつも
陽がまだ完全に登り切っていない午前十一時。
しかし、休日ということもあって辺りには家族連れの姿がチラホラ見える。そして、俺は今大型ショッピングモール一階の中庭にあるイート・インスペースの椅子に腰かけ、一人の女性と向かい合っている。
「隼君、今からどこ行こっか?」
その女性はさぞ当然と言わんばかりにそう訊いてくる。だから俺はそっけなく返す。
「そうですね。俺は今すぐにでも来た道を引き返して、家でゴロゴロしたいです」
「またそんなこと言って、私とのデート嫌なの?」
「ええ、今更言うまでもなく。それに今日は学校でのことで大事な話があるっていうから日曜の朝っぱらだっていうのに態々来てあげたんですよ」
「だから大事な用じゃない。デートだもの」
「いや、デートというのはお互いの合意によって起こるイベントだと俺は記憶しているのですが」
「そんなに嫌がらないでよ。もうプランも立ててるし、ディナーの予約だってしてあるんだから今更キャンセルなんて出来ないんだよ?」
「また勝手に……。っていうかプラン立ててるんならさっきの発言は何だったんですか」
「隼君なら『どこでもいいよ』って言ってくれると思ったから、ようやくそこで昨日遅くまで考えた私のプランが発動するのです」
えっへんと胸を張る姿が実に可愛らしくある一方で、とても痛々しい。
「分かりましたよ。明日校内でしつこく付き纏われても面倒だし」
「そう来なくっちゃ! 今日は私が全部奢ってあげるからね?」
「いえ、自分で払います」
「えっ、そんなこと言わずにここは私にどんと任せて……」
「いえ、変に借りとか作りたくないですから」
「そんなこと気にしなくていいんだよ?」
「気にします」
「えぇ~、でもぉ~。うぅ~~ん……。な、ならせめてディナーだけでも」
「お断りです」
「て、手強い……けど、絶対負けないからね! っと、そろそろ時間に余裕がなくなっちゃうからこの話は後にして、今はとりあえず行くよ?」
女性は椅子から勢いよく立ち上がると、そう言って俺の手を取り走り出す。
「は? ちょ―――――」
まったく、毎度ながらこの人は……。
俺は呆れながらも観念したようにその手に従う。
俺がこの女性と知り合ったのは三か月ほど前に遡る。