~リオンさまの、たねあかし(1)~
「だがよリオン、」
お城ではいましも、ゆびわの交換が行われたころあいです。
新王さまの弟ぎみであるリオンは、城下町のにぎやかな酒場におりました。
それも、すっかり冒険者のかっこうをして、おさななじみの相棒といっしょにです。
その男、バートという名のわかものは、ふしぎそうに問いかけます。
「お前いったいいつ、兄上さまとすりかわったんだ?
でもってどうやって城をぬけ出してきたんだよ?
最近とくに親父さまの監視体制きびしかったじゃん。
んなことできれば、そもそもこんな面倒いらなかったんじゃ……」
そう。いったいいつ、リアンとリオンの兄弟はいれかわったのでしょう?
王弟さまのまわりは、みんな王弟さまのちゅうじつな家来ばかりです。
その彼らにばれることなく、どうやってリオンはここにこられたのでしょう?
「すりかわったのがいつかって? 兄上が俺に斬られたときさ!」
リオンは、ははは、とようきに笑います。
エールのジョッキをぐっ、とかたむけて中身をのみほすと、ぷはっ、と息をついてテーブルにおきます。
そうして、テーブルに身をのりだしたリオンは、いつものくせで左目をぱちり。右の人差し指をぴんっ、と立てます。
人によっては“いらっ”ときてしまうようなその仕草も、リオンがするとかっこよさしかありません。
ういういしい酒場のウェイトレスさんも、近くの席のいろっぽいお姉さまも、通りすがりのおっちゃんや、おひげのすてきなマスターまでもがみとれています。
それをしってかしらずか、リオンはゆっくり、話し出しました。
「……兄上は昔から、うそのつけない不器用ものでいらしたそうだ。
だから、口でだますようなことはできないし、しない。
そのかわりに、こうしたんだ。……
まずはホンモノのスパイくんが聞いているところで“うっかり”『ルモッフィ君潜入』の話をする。
具体的には、『ルモッフィという偽名をつかって、新入りのしたばたらきの子のふりをし、親父ににせの情報を伝えにいく』という話だな。
それをわざと、ぬすみ聞きさせ、密告してもらう。
兄上はそのうえであえて、そのとおりの行動をとる。
とうぜんこれは親父によって『見破られ』、兄上は斬られることになる。
もちろん、ドラゴンである兄上を斬るなんて、そこらの騎士や兵士にゃできない。
親父は国内でもっとも強い俺を呼び、手を下させる。
その瞬間に、兄上がはげしい光を発して親父の目をくらませ、そこで俺たちは入れかわったんだ。
すなわち、兄上は俺に化け、俺は兄上のご遺体がわりのちいさなぬいぐるみに姿を変えてもらった。
あとは、親父のご命令どおり、兄上が俺を箱詰めして姫に届け、姫がそれをモッフール離宮にもっていって安置。
俺はころあいを見計らって元の姿に戻り、こうしてお前のまえに現れた。
……と、こういうわけさ。
さいしょは驚いたさ。でも、すぐに信じたよ。
兄上の左目の下のほくろのことは、親父からなんどもなんどもきかされていたし……
そもそも、あんなきまじめで不器用なドラゴンが、うそをついているなんて俺にはとうてい思えなくてさ!」
なんということでしょう。
不器用すぎてうそをつけない。すぐにばれてしまう。
と、いうことは、本当のことを言えば、まちがいなく、そうとつたわる。
そんな、大きな長所でもあったのです。