~王弟さまと、いとしいわが子(2)~
そして、その日。それはおきました。
スパイとしてやとっているしたばたらきの男の子が、とんでもない情報を仕入れてきたのです。
近頃王室にやってきた『やきいも名人モッフール』なるドラゴンに、お姫さまが泣きついた。
モッフールは『ルモッフィ』という偽名をつかい、自分もしたばたらきの男の子のふりをして、にせの計画を王弟さまに伝え、だしぬこうとしている、というのです。
王弟さまはこおどりしました。
さっそく、情報どおりにやってきた『ルモッフィ』をお部屋にいれ、リオンに斬らせて、そのなきがら? を、お姫さまのもとに送りつけさせたのです。
こころをおられたお姫さまは、もはや言いなり。
王弟さまの要求どおりに、リオンを結婚相手とし、ゆくゆく彼と入れかわって、王国の実権をリオンに、ひいては王弟さまにささげる――はずでした。
しかし、実際はそうはならなかったのです。
じぶんがリオンと思い込んでいたのは、実はあの『モッフール』が化けた姿でした。
それがわかったのは、お姫さまが誓いのキスをした直後。
リオンの左の目の下に見えた、二つ並んだあのほくろ。
それは、モッフールの『なきがら』にあった、そして、亡きわが子リアンにもあったもの。
ああ、まさか。ああ、まさか!
あの時なげすてたちいさなひっかかりが、確信となって王弟さまを打ちました。
あそこにいる子はリオンではない。
あれは、モッフールだ。
そしてそれは、うまれかわってきたリアン、そのひとだったのだ!!
王弟さまはもはや、泣くしかありませんでした。
自分と愛する妻を、その命と優しさで本来の場所に戻してくれたわが子は――
またしても命を懸けて、自分を悪から引き戻してくれた。
それも、この思いを叩きつぶすのではなく――
やさしく運命をすりかえることで、そっとかなえて。
罪なき少女の恋も、少年の夢も、男の悲願も、女の祈りも、
すべて、すべてをかなえてくれた。
そのことをさとった王弟さまは、ただただ泣くしかありませんでした。
そして、死をこえてもどってきてくれた愛しいわが子を、今度こそ二度とはなすまい、全身全霊をかけて幸せにしよう、と、心のそこからちかうのでした。