~あやまちのドラゴン~
まっ正面には、王さま。
王さまのみぎには、お妃さま。
ひだりどなりには、王太子さまがすわっています。
いままで見たこともないような、りっぱな方々がさんにんも!
それだけでモッフールはもう、がっちがちです。
「モッフール、と申したか。
まあ、楽にするがよい」
「は、は、はひっ……」
楽にするどころか、もう呼吸のしかたがわかりません。
普通の人なら、今ごろばったり倒れているでしょう。
でも、モッフールはまぼろしのドラゴンです。この程度の『かこきゅう』ではどうともなりません。
王さまはそれを知ってかしらずか、にこにことおっしゃいます。
「おぬしの焼き芋、みなでたんのうさせてもらったぞ。
じつに見事なできじゃった。礼を申すぞ」
「ひゃ、ひゃい……」
「かくなるうえは、そちにほうびを取らそう。
なんなりと申してみよ」
「えっ、えっ、えええっ……と……」
まさかすぎる展開です。こんなときどうしたらいいのでしょう。
モッフールはひっしにかんがえます。
人知をこえた脳みそはフル回転。うなってうなって……そうだ!
『りゅうたいじのきしさまのものがたり』のわるいドラゴンは、まちやはたけを焼いたあと、そのくにのおひめさまを、お嫁さんとしてよこせ、といってきたのだっけ。
よし、ぼくもそうしよう!
でも、いきなり王太子さまをお嫁さんにとかいったら、王さまもお妃さまも、王太子さまだっておどろいちゃう。
やっぱりまずは、そう、きほんてきな『信頼関係』からだよね!
たとえ、つよいりっぱな騎士さまがきてくれるまで、ぼくのおしばいにつきあってもらうだけ、だからって。
それはもう、『わるいドラゴン』としてかんぜんにまちがっているのですが(というか、かなり致命的なところで前提がまちがっているのですが……)モッフールは気付きません。
必死のおもいで、王さまたちにおねがいします。
「あ、あの! ま、まずはその、おともだち、から……
その、ずうずうしかったら、もうしわけ……」
「まあっ!」
「なんとなんと欲のない……おぬしはほんとうにそれでいいのかの?」
「は、はいっ!」
「よかろう。わしら三人、よろこんでおぬしの友となろうぞ!
よろしくの、モッフール」
そういえば、モッフールには――
いえ、生まれかわるまえの男の子のときから、にんげんのおともだちなんていませんでした。
ああ、はじめてのおともだち!
それもいちどに三人も!
なんだか、なみだがでてきます。
もちろん、それはうれしくてです。
「う……う……うわぁーん!」
子供のように泣きだしてしまうモッフールに、お城のみんながかけよります。
そして、ぼくもわたしも、とモフ……もとい、おともだちのあくしゅをもとめてくるのですから、ますますなみだはとまりません。
こころやさしい、ひとりぼっちのドラゴンは、こうして小さな王国のおともだち兼、まもりがみとなったのでした。
モッフールは離宮をひとつ与えられました。
そこで、たのまれたやきいもを作ってあげたり、だいすきな猫ちゃんたちとあそんだり。
きんじょのこどもたちにお勉強をおしえてあげたり、ときには王さまご一家も遊びにきたりと、しあわせな日々を送りました。