~Sランクのやきいも>>>Bランクのパンケーキ~
その村には、大きな畑がいくつもありました。
そのひとつのわきに、ひとりのおばあさんがいます。
あのひとにおねがいしよう。だって、こわいひとだと泣いちゃいそうだし。
あっでも、こんなおっきなドラゴンのすがただと、おばあさんがおどろいちゃうよね!
モッフールは、大きな木の陰でひとりの少年に姿を変えました。
よいしょと財宝をかかえなおし、おばあさんのほうに近づきます。
そうっとそうっと、歩をすすめ。
そうっとそうっと、声をかけます。
「あのう、すみま、せん……」
「なんだいっ?!」
わあっ! おばあさんはすっごいおおごえです。
モッフールはもう、それだけで半泣きです。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、おこらないで……」
「なんだいなんだい、男の子がなきべそかいて!
あたしゃねぇ、耳がとおいんだよ!
だから大きな声ではなしておくれっ!」
なあんだ、そういうことか。モッフールはほっとしておはなしをはじめます。
「あの、ですねっ!
はじめまして、おばあさんっ!
ぼくは、もっふーるですっ!
わるいどらごん、なんですっ!
だから、その、ええっ、と……」
やさしいモッフールは考えます。
いくらわるいドラゴンだって、いきなり「お前の畑を焼くぞ」じゃ、ひどすぎる。
まずはきちんと、誠意をみせなきゃ!
「あの、これっ! ぼくのたからものです!
おねがいです、これでその、おばあさんのはたけを、すこしだけ……」
「ひゃあ!」
財宝をさし出すと、おばあさんはとびあがりました。
「あんた、ちょっっ、ちょっと、そこでおまちっ!!」
そのまま、近くの畑に走っていきます。
すぐに、家族みんながモッフールのもとにあつまってきました。
「まあ、この子がねぇ……」「ほんとうかいばあさんや!」「まあなんてかわいい子! まるで女の子だわ!」「さぞやたいせつなものだろうに、それを差し出して……」
わいわいがやがや。全員が一緒に話すんで、モッフールはどうしていいかわかりません。
でも、結論はすぐに出ました。
おばあさんがびしっ! とせんげんします。
「この畑をひとつまるごとあげよう。あんたの好きにおし!」
「ええっ?! そそ、そんなにいいんですか?! あの、ただちょっとだけ、ほんのかたすみだけ貸してもらえるだけで、いいので……」
「欲のない子だねえ。一体なにをするんだい」
「え、ええっと……
その、ちょっとあぶないかもしれないんで、みんな、はなれててください……」
うう、こんなことじゃいけない。ぼくはわるいドラゴンなんだ!
つよくてこわい、ドラゴンなんだぞっ!!
きをひきしめてモッフールは、もとの姿にもどります。
そして、ねんいりに調整した『魔法の吐息』を、ぼうっ、と畑の一角にとき放ちました!
この『魔法の吐息』は特別せいです。ねらった植物以外をやくことは、絶対にないのです。
だって、たまたまそこに誰かいて――それが虫でも、ひとでも、どうぶつでも――まきぞえをくったらかわいそうです。
前世のモッフールは、火事でいのちをうしなったのですから。
ともあれ、収穫まぢかの畑の一角は、すっかりこんがり焼きあがりました。
たちまちふんわり、あまーく、まろやかな香りがたちこめます。
「なんだなんだ?」
「いいにおいだね~」
「わかった、やきいもだ!」
「たまんねえ!」
「オラにも食わせておくれよ!」
村のみんながにおいにつられてあつまってきます。
そう、そこはサツマイモ畑だったのです。
おばあさんがうむ! とうなずけば、みんな大喜び。
つぎつぎに、ほかほかのやきいもを手にとっては、ぱっぱとすなをはたき落とします。
(あつくないのかって? だいじょうぶ。そこは『魔法の吐息』ですから。)
ゆびさきに力を入れて、まんなかからぽくっ、とふたつにわると……
中からぽわん、とゆげがあがって、やきたてのパンケーキよりもあまーい香りと、ほっくほっくのきんいろがとびだしてきます。
こうなったらもうたまりません。みんなつぎつぎ、つぎつぎ、ほおばります。
「まふ、まふ、うまー!!」
「むはー!」
「このほくほく感! それでいてとろけるように甘いこの(もぐもぐもぐ)」
この国はもともと、さつまいもが名産です。
けれど、こんなにもおいしいやきいもを、口にするのは初めてです。
「ふまい! ふまい!」
「なんといふみごとなやきかげん!」
「いっひゃい誰だ、こんなふばらしいひゃきいもをこひらえたのは!」
おばあさんたちはだまって(というのも、おばあさんたちの口の中ももう、やきいもでいっぱいだったからです)、モッフールをゆびさします。
「え、え、ええっと……」
村人たちが一斉にモッフールを見ます。
おばあさんの畑のまわりに、しん、と静けさが落ちます。
モッフールはごく、とかたずをのみました。
ぼくは、ドラゴンだ。おっきくてでっかい、ドラゴンだ。
炎の吐息で畑を(ちょこっと)焼いたこわい、(それなりには)こわい、いきもの……のはず。
みんなはきっと悲鳴をあげて、逃げだすだろう。
そうして、このくにの王さまに言いつけるはず、こんなふうに――
「この竜です!
この竜こそがあの、きせきの焼き芋をこさえたやきいも名人です!」
……あれっ?
気付けばモッフールは、王さまの前でおめかしさせられて、すわっていました。