~ずれた、はぐるま~
たしかに、さっきはこうねがいました。
つぎのいのちがゆるされるなら、そのときは、もふもふにかこまれていたい、と。
でも、それはもふもふした猫ちゃんとか、
ねこちゃんとか、ネコちゃんたちにかこまれていたい、ということであって……
けっして『自分が』もふもふになりたい、というわけではなかったのです。
なんで、こうなっちゃうんだろう。
ああ、そうだ。ぼくはいちばんだいじなことをねがうのをわすれていた。
それは、『幸運』。
せっかくかみさまがチャンスをくれたというのに、ぼくはなんてまぬけなのだろう!
まえのじんせいも、そうだった。
なにをしても、ボタンのかけちがいのれんぞくで。
うまれかわってもまた、そのくりかえしだなんて。
また、あんなさみしい、かなしい日々がつづくのか。
もう、どれだけがんばったところで、だれにも会うことができないのに。
おとうさんにもおかあさんにも、神父さまやねこちゃんたちにも。
モッフールのむねは、はりさけそうです。
やりなおそう。モッフールはそう考えました。
かみさまには、もうしわけないけれど。
今度こそ、『幸運』と『ねこちゃんいっぱい』のじんせいをおねがいして――
思いつめたモッフールは、すみかのどうくつをとびだしました。
モッフールのすみかは、たかくきりたった岩山のちゅうふくにあります。
その下にあるのは、ふかい、ふかい、たにぞこです。
あろうことかモッフールは、そのままそこに、身をなげてしまったのです!
いちびょう、にびょう、さんびょう……どすん。
モッフールは谷底によこたわっていました。
でも、モッフールはいきています。
それもそのはず。モッフールはまぼろしのドラゴンです。
がけから落ちたていどで、しぬわけなんかないのです。
なんだかちょっぴり、背中がかゆいだけ。あたまもおなかも、ぜんぜんぶじです。
ああ、どうしよう。モッフールはうろたえます。
こんな高いところから落ちていきてるなんて。
いったい、どうやって「生まれかわれ」ばいいんだろう。
しばしかんがえ、モッフールは思いだします。
モッフールがまだ、にんげんの男の子だったときでした。
おとうさんが買ってくれた絵本に、
『りゅうたいじのきしさまのものがたり』というものがありました。
その絵本のドラゴンは、いじわるならんぼうもの。
いろいろなわるいことをしては、みんなをこまらせます。
でもさいごには、せいぎの騎士さまがやってきて、たいじされてしまうのです。
そうだ。ぼくもあんな、わるいドラゴンになればいいんだ。
そうすれば、きっとつよい騎士さまがやってきて、ぼくをころしてくれるはず。
よし、わるいことをしなくっちゃ。
たしか、絵本のドラゴンは、まちや畑をやいて、みんなをこまらせていたはず。
ぼくもそうしよう。そうしなくっちゃ。
これまでのモッフールなら、そんなことは考えもしなかったでしょう。
でも、いまは、かわいそうに、そこまでおいつめられていたのです。
それでもモッフールのこころのなかには、まだまだやさしさがのこっていました。
だから、こんなふうに考えました。
でも、あんまりたくさん焼いたらかわいそうだから、ひろい畑のどこかかたすみ。そこだけちょこっと焼かせてもらおう。
そこのひとには、よくよくあやまって、ぼくのどうくつにあるはずのたからものをさしあげよう。
そうだ、ただ焼いたりしたらもったいないし、焼き加減もちゃんとしなくっちゃ。
どうせなら、ちょうどよくやけて、みんなでおいしく食べられるくらいにしよう。
もちろん、まきぞえなんかもだしちゃだめだから……よしっ!
すでに何かがずれているのですが、モッフールは気づいていません。
ようし、とはりきってそらへとびたち、まずは自分のどうくつへ。
きらきらひかる財宝をひとつかみ、よいしょと抱えこむと、ふたたびそらへ。
モッフールのやまからそう遠くない、ひとつの村にねらいを定めました。