表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

~ずれた、はぐるま~

 たしかに、さっきはこうねがいました。

 つぎのいのちがゆるされるなら、そのときは、もふもふにかこまれていたい、と。

 でも、それはもふもふした猫ちゃんとか、

   ねこちゃんとか、ネコちゃんたちにかこまれていたい、ということであって……

 けっして『自分が』もふもふになりたい、というわけではなかったのです。


 なんで、こうなっちゃうんだろう。

 ああ、そうだ。ぼくはいちばんだいじなことをねがうのをわすれていた。

 それは、『幸運』。

 せっかくかみさまがチャンスをくれたというのに、ぼくはなんてまぬけなのだろう!


 まえのじんせいも、そうだった。

 なにをしても、ボタンのかけちがいのれんぞくで。

 うまれかわってもまた、そのくりかえしだなんて。


 また、あんなさみしい、かなしい日々がつづくのか。

 もう、どれだけがんばったところで、だれにも会うことができないのに。

 おとうさんにもおかあさんにも、神父さまやねこちゃんたちにも。

 モッフールのむねは、はりさけそうです。


 やりなおそう。モッフールはそう考えました。

 かみさまには、もうしわけないけれど。

 今度こそ、『幸運』と『ねこちゃんいっぱい』のじんせいをおねがいして――


 思いつめたモッフールは、すみかのどうくつをとびだしました。

 モッフールのすみかは、たかくきりたった岩山のちゅうふくにあります。

 その下にあるのは、ふかい、ふかい、たにぞこです。

 あろうことかモッフールは、そのままそこに、身をなげてしまったのです!


 いちびょう、にびょう、さんびょう……どすん。

 モッフールは谷底によこたわっていました。

 でも、モッフールはいきています。

 それもそのはず。モッフールはまぼろしのドラゴンです。

 がけから落ちたていどで、しぬわけなんかないのです。

 なんだかちょっぴり、背中がかゆいだけ。あたまもおなかも、ぜんぜんぶじです。


 ああ、どうしよう。モッフールはうろたえます。

 こんな高いところから落ちていきてるなんて。

 いったい、どうやって「生まれかわれ」ばいいんだろう。


 しばしかんがえ、モッフールは思いだします。


 モッフールがまだ、にんげんの男の子だったときでした。

 おとうさんが買ってくれた絵本に、

  『りゅうたいじのきしさまのものがたり』というものがありました。


 その絵本のドラゴンは、いじわるならんぼうもの。

 いろいろなわるいことをしては、みんなをこまらせます。

 でもさいごには、せいぎの騎士さまがやってきて、たいじされてしまうのです。


 そうだ。ぼくもあんな、わるいドラゴンになればいいんだ。

 そうすれば、きっとつよい騎士さまがやってきて、ぼくをころしてくれるはず。


 よし、わるいことをしなくっちゃ。

 たしか、絵本のドラゴンは、まちや畑をやいて、みんなをこまらせていたはず。

 ぼくもそうしよう。そうしなくっちゃ。


 これまでのモッフールなら、そんなことは考えもしなかったでしょう。

 でも、いまは、かわいそうに、そこまでおいつめられていたのです。


 それでもモッフールのこころのなかには、まだまだやさしさがのこっていました。

 だから、こんなふうに考えました。


 でも、あんまりたくさん焼いたらかわいそうだから、ひろい畑のどこかかたすみ。そこだけちょこっと焼かせてもらおう。

 そこのひとには、よくよくあやまって、ぼくのどうくつにあるはずのたからものをさしあげよう。


 そうだ、ただ焼いたりしたらもったいないし、焼き加減もちゃんとしなくっちゃ。

 どうせなら、ちょうどよくやけて、みんなでおいしく食べられるくらいにしよう。

 もちろん、まきぞえなんかもだしちゃだめだから……よしっ!


 すでに何かがずれているのですが、モッフールは気づいていません。

 ようし、とはりきってそらへとびたち、まずは自分のどうくつへ。

 きらきらひかる財宝をひとつかみ、よいしょと抱えこむと、ふたたびそらへ。

 モッフールのやまからそう遠くない、ひとつの村にねらいを定めました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ