Episode7:宙へと向かう
【ワタデパート】
未来を託したCW-79がいない今、残ったアザミには緊張と不安が入り混じり、閉じたには開いていないが、確かにそこには祈りと希望が隠されている。ついさっきまで湯気をあげていたコーヒーは時間がたつにつれ温度を失っていく。当たり前の事の筈なのにそれすら気になって仕方がなかった。
「アザミさん、大丈夫ですか?」
期待していた結果と違い少し残念にしているところではあったが、アザミkはほっとしている様子が見えた。
「無断通信は今日で二回目ですよね?通信するときは、事前連絡をって…。」
「そういうことではないんです。CW-79さんがアザミさんに連絡したいということなので。」
BY-76のその言葉は少なくとも、少なくともCW-79の生存を保証するものだった。肉体の死、プログラムの停止のどちらかがない限りは専属オペレーターとの通信が取れる。盗み聞き出来ないほど高度なプログラムで。
「小鳥遊がいない…!」
困惑と不安を合わせた声は意図せずとも大きくなっていた。イヤホンから金属がぶつかる「ガシャン」という音が繰り返し聞こえ、無造作にアザミの心を苦しめていった。
「CW-79、聞こえますか。今すぐ戻ってきてください!資料のチップはありますか!」
「一応あるが、おそらく一部だけだ…。」
CW-79の知っているアザミの印象とはひどくかけ離れた怒りや不安の籠った声に驚きを感じる。
「敵は距離的に撒けますよね?じゃあ、チップも持ってきてください!」
「了解した。」
きっとアザミは微かに聞こえた金属音の大きさから距離を推測したのだろう。小鳥遊も若いが、それ以上にアザミは若いはずだ。この実力は頼もしいが、それ故恐ろしい。才能がすべてを奪ってしまいそうな危うさが彼女にある。それを止めるのも自分たちの仕事だろう。
「ラボの支援をしていた国のシャトルが使えそうなので、できるだけ早く来てください!」
プツンと通信が切られてから1分もしない内にCW-79は戻ってきた。だが、彼女を見たのはアザミがピッキングを終えた姿だった。
「…アザミ研究員、それは?」
「とにかく乗ってください。」
そんな会話をしている中、ELSFYへの到達のサポートという用件でアザミとCW-79の二人へと連絡が入った。
「アザミさん、CW-79さん、お疲れ様です。そういえばシャトル操縦免許1級とか車の免許もっていましたよね。今はなかなか使いませんけど、飛行機もつかえるんですって!」
「BY-76…本当か?」
「ええ。今の時代、AIに運転なんて任せられるのに何で取ろうと思ったんですか?」
「今は、そんな話している時間なんてありません。BY-76はこれだから無能って言われるんですよ。さあ、出発しましょうか。」
アザミたちは、ELSFYがある宙へと向かった。あとで分かったことだが、アザミはラボ内では多趣味で有名で、様々な分野で賞を獲得するほど実力もあった。本当に敵に回せば厄介極まりない人物だ。