死して魅せる少年少女の物語
この世界は異端だ。
杖に乗って移動する人、耳のとがった人、小さすぎる人…
おおよそ人の世界とはかけ離れた者で埋め尽くされた世界は、俺からすれば十分変で、
「おぉ…すっげぇ…」
魅力的な世界でもあった。
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「おーい!起きろ~!!!」
純白のエプロンを身に着け、お玉を持った俺は性別と歳さえ違えばさながら”オカン”だろう。
「ふぁぁ~…」
「もう朝ぁ?」
大きな寝室で寝ていた弟たちは、目をこすりながら体を起こす。
「朝ご飯はもうできてるから、とっとと食べて学校行けよ!」
「「「「ふぁ~い」」」」
エプロンを脱ぎ捨て、ローファーを履けば、俺は普通の男子高校生になる。
俺の名前は佐倉啓斗。高校二年生の17歳だ。
幼い頃両親を亡くし、俺は今居る孤児院にやってきた。
いつの間にか兄貴分たちは自立し、孤児院を支える柱は俺だけになっていた。
「…」
いや、正確にはもう一人いた。もう出会えないところに行ってしまったけれど…
「(そういえば、そろそろ1年だな…。墓参り、行っとくか)」
「啓斗っ!」
「がぁっ!?」
電車を待っていると、いきなり背中へ衝撃が走った。この声に攻撃は…
「井ノ瀬!」
「おはよ、啓斗~」
井ノ瀬紀香。俺の幼馴染で、昔っから何かとちょっかいをかけてくる迷惑な友人だ。
「あぶねぇだろ、落ちたらどうするんだ」
「落ちないよ、啓斗力強いじゃん」
「お前の力だけじゃ無く色々な力も入ってるんだ。公共施設では控えてくれ、ていうかもうするな…」
「…はーい」
井ノ瀬はしょんぼりとした様子で、目をそらしそう返事した。
俺は大事な姉であり妹である人を亡くしてしまった。不慮の事故だったとしても、もう二度とあのようなことを起こしてはならない。
…俺自身も。
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キーンコーンカーンコーン…
ぼぉっとしていても時間は過ぎていくようで、もう帰る時間となった。
「啓斗、今日カラオケ行かね?」
「おっ、すまん!今日は用事あるんだ」
「…もしかして赤坂んとこか?」
「あぁ」
「俺たちからもよろしく言っといてくれないか」
「…あぁ。きっとアイツも喜ぶよ」
赤坂由利。この学校に1年前まで通っていた女子生徒。
…そして、俺の大切な家族。
電車を乗り継ぎ、俺は孤児院の奥の森へと進む。
空が赤くなってきたころに、やっと目的地へ到着した。
「花も買ってきたからな、新しいのに変えような」
白いユリを花瓶にうつし、古くなって枯れた花を袋へ入れる。
この白ユリは彼女が生前好んでいた花で、ここに来るときはいつも買っている。
「今日は秋島たちがお前のこと覚えてたぜ、いつまでも覚えていてくれて、俺もうれしかったよ。」
墓石に向かって一人話すのはもう習慣のようになっている。
「お前の守った命はすくすく成長してるぜ。今日なんて一番遅くまで寝ててさ」
彼女は事故で死んだのではない。
この山奥で、迷子になった弟をかばい…崖から転落した。
入り組んだ山であったがゆえに、彼女が発見されるのには時間がかかった。
「…天国で、寂しくありませんよーに。」
手をあわせ、そっと祈った。
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翌日、俺はいつも通り弟たちを起こし、学校へと向かっていた。
今日はいつもより気分がよく、すこしにやけながら歩いていた。
「…今日の啓斗気持ち悪い」
「んだよ井ノ瀬」
「だってにやにやしてるし」
「今日は割った卵が双子だったり洗濯物がよく乾きそうな天気だったり…!」
「主婦じゃん…」
「俺にとってはそんなことでもうれしいんだよ」
「…」
見てるか、天国の由利。
俺は、お前の代わりにちゃんとなれてるか。
空を見上げ、ほほ笑んだ時だった。
「啓斗!!!!!!!!」
「っ」
俺は目の前に迫ったバスに気付けず…
意識はそこで途切れた。




