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有翼の女神様  作者: カノウラン
2:新監督vs時差ボケの君
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無能な監督

「何だ?」

「だ、誰も、そなたによき指揮など期待してはおらぬ。練習で無用なケガをさせぬことだけ注意しておれば、それでよいのだ、と」

「──……ニケのやつが、か?」


目をすわらせた流星のこめかみに、ぴしりと青筋がうかぶ。

礼音は、ぎくしゃくと目をそらした。


「上等だ。戦術はメッシ、なら俺でもできるって言いてーんだろ」

「……せん、じつ?」

「無能な監督は、ただ、スペシャルな選手がやりやすいようにチームをつくってやりゃあいいんだ、ってこと」


ふん、と鼻を鳴らし、流星はドカッとやつあたりのようにボールを蹴った。

そのまま、行方には見向きもせず歩いて行ってしまう。

礼音は、太陽にすけた黒翼をあおぎ見た。

はばたきに生じたそよかな風が、まるでため息のように落ちてくる。

うごきを目で追えば、つばさの下にあらわれた右手が、つ、と背番号1の赤いビブスを指さした。

まぶしいばかりでその表情はうかがえないものの、求めていることは言わずと知れる。

どこかあやつられているような心地で立ち上がると、礼音はそちらへ向かった。


「──シンノスケ」


ふり向いた顔が、おどろきの表情に変わる。

なぜか、まわりの視線も集まってきたことに、礼音は戸惑った。

すこし考え、手まねきをし、不安げに近づいてきたいかり肩に、その手をおく。

あとわずかの距離を、背伸びで補い、くちびるを寄せた。


「────え……」


耳元でささやかれたことばに、彼は困惑の表情をうかべてみせる。

もういちど言うべきか、思案しかけて。

礼音は、ふと耳にとどいた鈴の音をきき、べつのことを口にした。


「──あぶない場所に目がとどくのは、君のすぐれたところなのだから、だそうです」


ややあって、こくり、とうなずきが返ってくる。

視線を避けるように立ち去ろうとした礼音の耳に、誰かの名を呼ぶ声がとどいた。


「え、タカミ……って?」  


首をめぐらせれば、いくつかの手がぱらぱらとおなじ方向を指し示す。

目礼だけを返して、礼音はぽつんと膝をかかえて座る黄色いビブスの背番号9に歩み寄った。


「あの──」


声をかけると、傍らの赤いコーンとおなじ高さにあった坊主頭がパッとはね起きた。


「君の足はとても速くてすばらしいけれど、大事にしろということは、甘やかすこととはちがうと監督からも言われたはずだ、ケアを怠っていたらいつか大怪我をするぞ……と、言われていますが」


とちゅうから青くなった顔が、無言のまま地面を向く。


「あ、の……君?」

「おい、どうした」


すっかり聞きなれた声にふり返れば、流星があわてた顔で駆けてきた。

礼音のからだを押し退け、いきおい地面にひざまずく。




『戦術はメッシ』とは……

懐かしいな。あれ、2010年のW杯かな。アルゼンチンの監督だったマラドーナが言ってたやつ。

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