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有翼の女神様  作者: カノウラン
2:新監督vs時差ボケの君
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信じさせて

季節は秋だというのに、風はまだぬるい。

それでも、空に浮かんだ黒翼のはばたきは涼やかで、見ていればすこしだけ胸をかるくしてくれる気がする。


「なーんで、こんなすみに座ってんだよ」


ほら、とペットボトル入りのスポーツ飲料が目の前に降ってきた。

取り損ない、膝からころげおちていくボトルをあわてて追えば、放った流星があきれた顔をする。

礼音は、つめたい感触を両手におさめると、しゃがんだまま下を向いた。


「私は、部外者なので──」

「あんたは今日からサッカー部の副顧問だ」


だとしても、サッカーに関して無知である事実は変わりようがない。

飛び交うボールを見ていても、何がたのしいのかも分からない。

礼音にできることといったら、グランドを去りたいきもちに抗いつづけることくらいだ。


「あの。シンノスケ、っていうのは?」


意表を突かれた顔をみせた流星が、ゴールネットを越えてくるボールに気づいて、ひょいっと足をのばす。

磁石が仕込まれているかのように吸いついてみえるボールは、礼音にとって一種のマジックだった。


「キーパーだ、控えの。そこの赤いビブス」


親指でさしつつ、浮かせたボールをまた足の甲で受けとめる。

くりかえされる上下動は、見えないゴムの仕業にしかおもえない。


「気づいても、声に出さなければ、判断できないのとおなじことだ。年下だからとまわりに遠慮することはないと、伝えるようにと」

「──オヤジは、あいつをスタメンでつかう気だったのか?」

「さあ」


礼音がくびをかしげた瞬間、磁力がきえたようにボールが流星の足を離れていく。


「ふーん。ま、ともかく。それはあいつに、あんたから言ってやってくれるか」

「えっ。でも、私は──」

「分かってる。みんな半信半疑っていうか、ニケとか勝利の女神とか、ぶっちゃけ、うさんくせーとおもってるさ」


礼音は、うつむいた。

異質なものをみる目には、馴れている。

目に見えていないものを信じさせるちからが、自分にあるともおもわない。


「でも、いるならいて欲しいとおもうものもあるだろ。あいつらは見ててくれる目を、何かあったら叱って、支えて、送りだしてくれると信じてたものを、失った。あんたがいて、言ってることが的確なら、見ててくれるものがいることくらいは、信じられる。疑っても、こんな俺しかいないより、いいはずだ」


流星が、しきりに鶴岡監督の幽霊かと、問うていたことをおもいだす。

監督が見守っていてくれる、と信じたかったのは彼なのだと、礼音はおもった。

いるかどうか、信じられるかどうかではなく、信じさせてくれと、そう言われているような気になる。

舞い降るような鈴に似た音色を耳にして、おもわず礼音は上空と流星とを見比べた。



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