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有翼の女神様  作者: カノウラン
1:サッカー部の守り神
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まるで、『サモトラケのニケ』

しばらくして鼻をすすりながら戻ってきた流星は、榊立の水も替えると、ジャケットの袖でごしごしと神鏡を磨き、立てたろうそくにぽう、と灯をともした。

かさかさした葉をにぎり込んだまま、その様子をただ眺めていた礼音は、ろうそくの灯がともった瞬間、ゆわり、と天井をすりぬけはばたく大翼を、目にする。


「どした?」


吸い込まれるように一点をあおいだままの礼音に、流星がけげんな顔を寄せた。

視線の先を追ってみても、流星にはコンクリートの天井しか見えない。


「くろい、つばさが──」

「黒い、って……幽霊じゃなく悪魔かよ?」


『悪魔とは何ぞ、無礼ものめが』


あたたかな灯に浮かんだすがたが、カッと閃光にかき消える。

とっさに目を瞑り、腕で顔をおおった礼音に、流星はふしぎそうだ。


「何がいるんだ、結局?」

「えっと……うつくしくて、つばさがあって、まぶしくて。きっと──」


きっと、鶴岡監督が勝利を祈って祀った、神様的な、なにか。


「……あ。ニケ──そうだ、ニケです。サモトラケのニケ」

「ほーう。…………ネコ?」


あごに手を当てた流星と、視線が絡む。

二拍ののち、そそくさとほどいて、礼音は背を向けようとした。


「すみません、私は、そろそろ葬儀に」

「待てまてまて! 勝手に終わらせんな」


がっちりと手首を掴まれ、礼音は一歩たりとも動けずに終わる。


「悪かったな、バカで。どーせ、教師になれたのは奇跡とか、脅しが効いたとか、さんざ言われたよ。あんたも教師なら、相手が知らないことぐらい教えてくれたっていいだろ。何なんだよ、ニケって。知らなきゃそんな、恥ずかしいことか、ああ?」


斜め上からまくしたてるようにがなられ、背を丸めた礼音の耳に、りぃん、と鈴の音に似た心地よいひびきがすべり込んだ。

見れば、うながすように羽がゆられ、礼音は聞いたことばをそのまま、口でなぞる。


「──馬鹿でも短気でもよいが、威圧や威嚇は教師たるものしてはならぬと、何度いわれたか、リュウセイ」

「なっ…………」


目を見張った流星が、オヤジ、とちいさくこぼすのを、礼音は聞いた。


「あの。ニケというのは、つばさを持った像で、勝利の女神なんです。サモトラケ島から見つかって、ルーブル美術館に展示されてて。えっと、ギリシャ神話で、勝利に導く神だと、船の先に飾られていたのが──」

「分かった、レオン」


ぽん、と両肩に手を置かれ、礼音は身長が三ミリほど縮んだ気になる。


「俺が言うのも何だけど。おまえも、教師にぜんっぜん向いてねーな?」

「そうですね……」



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