酒とサッカー
「こないだまで、校舎のあのあたりにびらーと垂れ幕があっただろうよ。祝出場、とか何とか書いてある」
「グランドに来ることがなかったので、気がつきませんでした」
見ていたとしても、礼音には何のことだか分からなかったし、知ろうともしなかったはずだが。
「鷹林は、うちにとってだけじゃなく、大会の関係者や単なるサッカーファンにとっても、重要な選手なんだ。鷹林には、エースとしてチームを全国に引っぱっていく責任がある。そのかわり、チームも、あいつを全国の舞台に連れていく義務を負ってるようなもんだ」
流星は、ぐしゃぐしゃと髪をかき回した。
「……五年連続で全国大会に出場していると聞きましたが、それでもやはり、難しいことなんですか?」
「あったりめーだろ。オヤジが居たって難しかったさ。この二年、選手権だけじゃなくインターハイの予選でも、おなじところが決勝でうちに負けつづけてる。リベンジ狙ってる相手くらいやっかいなもんは、ねーんだよ。しかも、向こうのキャプテンは一年のときからの鷹林の天敵だ。あいつらのど突き合いは県大会決勝の名物だぜ、もはや」
「ど……つきあい?」
きっと、おつきあいか何かの聞きまちがいだろうと礼音はおもったが、おつきあいだとしたら、べつの意味でおかしい気もする。
「まあ、明日勝てるかどうかもあやしいのに、そんな先の心配してもはじまらねー……っていうか。この切羽詰まってるときに、鷹林のやつはシュート練習もしねーでどこ行ってやがる!」
「え。さっき、外を走りに行ってくると」
「知ってるよ。そんなことやってる場合じゃねーだろって言ってんだ」
舌打ちしたそうな顔で、木にもたれたまま流星は足元の草葉をちいさく蹴る。
「オヤジがいたときから、やりたい練習しかいっしょにやらねーやつだったけどよ」
グランドでは、五人一組のパス練習が繰りひろげられている。
「鶴岡監督が言っても、ですか?」
「──オヤジは、やりたいようにさせろ、が口癖だった。鷹林に限ってはな」
礼音はふと、もういちど空をあおいだ。
それに気づいた流星が、顔を寄せてくる。
「ニケは、何て言ってる、あいつのこと」
まるで、流星の声に反応したように、ゆらりと黒翼がひるがえり、視線が注がれた──ような気がする。
どこか、からかいにも似た笑声にまぎれ、鈴の音が降ってきた。
「……あの」
「おう。言えよ。何だって?」
「──ケイタはあのままで良い、と」
ムッ、と寄った眉を礼音は見なかったふりしようとしたものの、ぐいっ、とネクタイごと胸ぐらを掴まれる。
「おまえな。それ本当に、オヤジが言ってんじゃねーのか? 俺には見えねーとおもって、担いでんだろ、実は。正直に言え、レオン。試合が終わっても、酒おごってやんねーぞ」
あわてて首を振ろうとして、礼音はハタと動きを止めた。
「──私、お酒は飲めないんですが」
「はあ? 酒とサッカー抜きで、人生、何かたのしみがあるのかよ」
みごとな反語調の問いに、礼音は首をかしげるよりほかに、返事のしようがなかった。




