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有翼の女神様  作者: カノウラン
3:サボリ
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エース

昨日一日で、かれこれ十人ほど声をかけただろうか。

もちろん、礼音は誰がレギュラーかなんて知りもしない。

が、ニケは知っていたはずだと、ぼんやりおもう。


「あ、の……それはニケが──」

「ああ。だとしても、今の状況で何のプレッシャーもかけずに部に関われる人間なんてなかなかいないだろうから、俺は、何気にすごいのは先生だとおもうけど。ただ、勝とうが負けようがどうでもいいってひとに恩返しするのは、むずかしいね」

「お、恩……?」


腕に頬をうずめてふたたびまぶたを閉じた慶太を、礼音は見つめた。


「勝負にもサッカーにも興味ゼロなひとでも、勝てば、すこしはよろこんでくれるのかな」


ちいさなひとりごとは聞こえないふりで、礼音は風を入れに窓に向かった。




* * *




「美術室でさぼってたんだってな」

「──すみません」


腰に手をやった流星に仁王立ちでにらまれ、礼音はとっさに謝った。


「おまえがそそのかしたのか?」

「え……誰を、ですか」


授業の空き時間をどこでどうすごそうと、さぼっていたとは言わないだろうと、礼音は遅ればせながら気づく。


「鷹林だ。六限の体育、あいつが実技に出てこないのなんてめずらしいから、どうかしたのかとおもって、保健室まで探しに行かせたんだぞ」


礼音は、おもわず流星の顔を見つめた。


「──何だよ」

「いえ、ちゃんと──じゃなくて。そんなに──でもなくて。心配するんだなぁと」


流星の目が、すわる。


「そりゃするさ。つーか、エースの心配せずにはいられない無能監督で、悪かったな」

「エース? それは、彼がチームでいちばん優れた選手、という意味ですか?」


礼音をしみじみと眺めてため息をつくと、流星はそばの木にどか、と背をあずけた。


「──……おまえ、もしかしなくても、鷹林のこと、知らねーだろ、実は?」

「え。知っていますよ。鷹林慶太くん、っていうんでしょう?」

「そういうこっちゃねーんだよ」


どういうことかと、こたえを求めて礼音は頭上の黒翼をあおぎ見るが、つばさの全体像が見えるあたり、今はこちらに背中を向けて練習のほうを見物中らしい。


「あいつ、昨日、部室で寝こけてたのを時差ぼけだって言ってたろ。何で時差ぼけになるとおもうよ?」

「時差ぼけは、海外に旅行して──」

「アホウ。旅行じゃねえ。海外遠征だ、サッカーのし、あ、い!」


流星にひとさし指を突きつけられ、礼音は五センチほどひるんだ。


「おまえさ。オヤジの告別式にあいつがいなかったのも、知らねーんだろ」

「えっ、はい……」

「言っとくけど、うちのガッコでそれ知らなかったの、おまえだけだぞ。オヤジが死んだ日、まだあいつらが中東で試合してたって、みんな知ってることだからな」

「あいつらって……?」

U-アンダー19だ。つまり、十九才以下の日本代表。鷹林はそのメンバーで、帰国したのは一昨日の夕方。いくらサッカーに興味がなくても、そのくらいは学内にいりゃ知らないわけないとおもってたけどな」

「────に、日本代表……?」


そんなすごそうな選手をマネージャー呼ばわりしたことに、礼音もさすがに青くなる。



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