平部員
「──グランドに、私みたいな部外者がいるのは、邪魔で、目ざわりになりますか」
「ならない」
「そうですか。だったら、私は……」
きびすを返しかけて、あれ、と礼音は足を止めた。
「ならない、の?」
「たぶん、鎖でつないどきたいくらい、邪魔どころか必要なほう。だから、来るなら覚悟しといて。すぐには開放してやれないから」
くるりと背を向けてグランドへ向かう彼の二歩後方を、礼音はついて歩く。
「あの。君は、そんなに焦っているようには見えないんだけど」
「監督がいようがいまいが、俺がやることに、何も変わりはないから」
礼音は、その自信をまとった背中に、今度こそ確信を持ってたずねた。
「君は、サッカー部の、キャプテン?」
「はずれ。俺はただの平部員……ああ、ほら。ふつうに、練習にもどってやがる」
グランドに足を踏み入れ、氷のうごと指さしてみせた先には、たしかに走る背番号9の黄色いビブスが見受けられる。
たっ、と彼が足元にころがるボールを蹴りつけ、その進路すれすれのところを横ぎらせ気を引くと、こちらをふり向いた坊主頭が、びくっ、と目に見えてひるんだ。
「鷹林センパイ──」
手にした氷のうを嫌味に振ってみせると、彼は近づいてきたべつの気配に向きなおる。
「悪かったな、レオン。大丈夫っつーから、テーピングして練習にもどしたんだ」
「いえ、用意してくれたのは、彼で……」
流星と自称平部員な彼の長身は、ならぶとほぼ差がない。
変な迫力に、礼音はふたりのあいだから一歩だけ逃げた。
「鷹林、おまえ、部室にいたのか。てっきり外に走りに行ってるもんだと」
「──今から行く」
礼音と流星の顔を見比べてから、彼は皮肉っぽい笑みをうかべた。
「雑用までやらせて、大事なだいじな協力者に逃げられても、知りませんよ?」
ばし、と手にした氷のうを流星の胸元へと投げつけ、彼はそのまま立ち去ろうとする。
「えっ。待って、えっと──鷹林くん。君、走ったりして、だいじょうぶなの?」
あわてて呼び止めた礼音に、けげんそうな視線がふたつ、同時に注いだ。
「さっき、部室で倒れてたのは、何かの発作とかじゃ……」
なっ、と血相を変えて自分を見る流星に、ちがう、と彼は落ちついた声で言い放つ。
「時差ぼけ、ただの」
「──行ってこい」
バチ、と交錯した視線が火花を放ったように見えて、礼音は反射的に肩をすくめた。




