アイシング
「どっか痛めたのか、貴巳?」
「イエ、大したことは……」
「今度はどこやった。足首、右か? ──おい、アイシングよこせ」
どうやら自分が催促されているらしいと、礼音は流星の手のひらを見つめた。
「あの……」
「冷やすもんだ、早く」
あわてて流星からもらったペットボトルをとん、とその手に載せると、一拍おいて、何か言いたそうな視線が上がってくる。
「あの、まだ冷たいですけど」
「だー、ちがう。氷だ。クーラーボックスがあるだろ、どっかに」
「クーラーボックス?」
「俺が用意してドリンクといっしょに──……あー、いや、今日は出してねーか、くそ」
舌打ちした流星が、礼音の腿を突いた。
「悪いが、部室から氷、持ってきてくれ」
「あ、はい」
すぐにきびすを返しかけたところで、はたと礼音は動きを止めた。
「部室の、どこですか?」
「氷は冷凍庫に決まってんだろ」
それもそうだ、と礼音は気をとりなおして、部室へと急いだ。
部室に入って首をめぐらせれば、すぐに冷蔵庫だと分かる物体が目につく。
と同時に、壁にもたれかかるようにして座る人物が目に入って、死体の残像と見紛った礼音はぎょっとした。
よく見れば、部員の誰かが寝ているのだと分かる。
が、すぐに、倒れている可能性にもおもいあたって、礼音は慌てた。
「あ、あのっ、君、だいじょうぶ?」
声をかけ、揺り起こせば、億劫そうにまぶたが持ち上がる。
「──ん、だれ……朝?」
「いえ、今は、夕方──」
礼音をまばたきしながら見つめた彼は、とつぜん、おもいだしたように立ち上がった。
「部活はじまってんだろ。何で寝てんだ、俺。起こせよ、誰か」
「す、みません」
とっさに謝った礼音に、視線が降ってくる。
「ああ、例の先生か──起こしにきてくれたの、俺のこと」
「い、いえ、私は、氷を取りに……」
不審そうな顔をされて、礼音はそそくさと冷蔵庫に向かった。
「氷って、アイシング? 用意できるの?」
「え、用意?」
冷凍庫の中から取りだした製氷皿を片手に、礼音は途方にくれる。
おず、と腕組みをした生徒に問うた。
「あの、どうすればいい?」
「──誰だよ、先生に行けって言ったのは。まあ、あのサルしかいないけど……」
後半の自答が、はたして幻聴なのか、声にしてない声なのか、立派なひとりごとなのか。
礼音はとっさに分からず、横に立った長身をあおいだ。
「ケガしたのって、どこ」
「たしか、タカミ……あ。じゃなく、足首」
「何、動揺してんの。とって食いやしないよ。というか、貴巳なら、要らないんじゃない」
これ、といずこからか取りだしたブルーの氷のう袋をぷらぷらと振ってみせる。
「あいつの痛いは、半分、サボる口実みたいなもんだよ」
「でも、持ってくるよう言われたので……」
氷と氷のう袋があれば、ひとりでも何とかできそうだと、礼音は製氷皿をひねりにかかった。
が、五秒ほどで取り上げられる。




