声──
まるで耳鳴りのように、声がきこえる。
鳥が遠くのなかまを呼ぶような、甲高い声が、もう六日ほども前から。
その声が、どのあたりからきこえてくるのか。
近づけば、何といっているのかさえ自分には分かることを知りながら。
属礼音は耳を半ばふさいで、今日もいちばん遠い校門から逃げる足取りで職場を後にした。
べつに、自分を呼んでいるわけじゃ、ない。
どくんどくん、となぜか動揺を刻む胸も、早足で歩いたせいだと決めつける。
他人に向ければたいていものめずらしそうに見返される琥珀色の瞳を、ながいまつげの下に隠しがちに伏せて、彼は夜道を急いだ。
知らない。
きこえない。
自分とは、関わりのないこと。
自分とは、何も。
──タスケテ、なんて。
きっとどこかにいるトクベツな誰かを呼ぶ声で。
自分なんかに、誰も、何にも、期待なんてするはずがない。
声なき声がきこえる証拠は、どこにもなく。
ほかの誰にもきこえてないという保証だって、どこにもないのだから。
街灯のひかりを頼りに時計を見ようとして、袖口についた緋の絵の具に礼音が目をとめたとき。
かなぎるような声が天を打つがごとく、ひびきわたった。