9-5
王選開始から約8時間、私たちは4階層まで辿り着きました。
この階層の特徴は出て来る魔物がオウガと呼ばれる筋骨隆々の巨人たちです。
巨人といっても身長2~3mぐらいで、全身筋肉ですから体重は物凄く重たい。
圧倒的パワーと強靭な肉体ゆえに鉄の武器も弾く、角の生えた人型生物です。
まあ、鬼ですよ、鬼。
どこかに桃太郎さんか源頼光さんはいらっしゃいませんかー?
あ、居ませんか、そうですかそうですか。
等という冗談はさておき、オウガは兎に角強く、単独行動する個体や集団行動する群れなど種族としての個性は人間に近いと言われています。
ただ、狂暴で肉食、殺人鬼なんて呼ばれる地域もあるそうです。
そのオウガがこの階層出て来るのですが、人間に近いと言われてるだけあって武器を使ってきたり、連携を取ったり、罠を理解していたりと兎に角戦い難い。
なので、この階層も慎重に進む事になっております。
あ、冒険者を相対した強さの比較ですが、オウガ1体と前衛のランク5冒険者1人でガチでやったら引き分けるくらい、と言われています。
という事は、幻惑の森の魔獣さん並みに強いのです。
まあ、肉弾戦オンリーなオウガさんだと蛇魔獣さんには勝てないんじゃないかなー。
猿魔獣さんや狼魔獣さんだと難しい、だから勝負しない、というのが正確かな。
何せ頭が良いから逃げちゃって、蛇魔獣さんたちに任せるはずですから。
「ガアアアアアア!」
「あれがオウガですか。ちょっと試させてもらいましょうか」
「え?」
私はガントレットを打ち合わせて音を鳴らし、現れたオウガに近寄りました。
獲物である私たちを発見したオウガは雄叫びを上げて突っ込んできましたので、すぐさま激突。
背の低い私に上から潰そうと拳を振り下ろしてきましたが、流石筋肉の塊だけあってそれなりに早い。
でも余裕で見切れるレベル、装備がなくても回避できる程度のスピードですからぎりぎりで避けてみた。
一撃で倒せると思っていたのかオウガは当たらなかった事に腹を立てて雄叫びを上げつつ、今度は逆の拳を囲い込むように振る。
それもちょっと後ろに下がって避け、逆のストレートをしゃがんで避け、そのまま振り下ろしてきた腕を廻潜って相手の後ろに立った。
「うん、大した事ないですね。それとも本気出してないだけですか?」
「ガアアアア!」
振り向き即座に掴み掛ろうと両手を囲い込むふりをして右足で蹴り上げるオウガ。
赤毛さんとの訓練でよく言われた相手の全体を見て動きを予測しろ、が活きている私ですからそんな単純なフェイントなんて効きません。
それどころか態々片足を上げてくれたのですからその足を相手の動きに合わせって押し上げる。
「ガッ!?」
するとすってころりん、オウガは受け身も取れず背中から地面に倒れ込んだ。
「えっと、次は耐久力の確認です」
相手の横に回り込んで脇腹に蹴りを食らわし、多少筋肉に阻まれましたが脇は筋肉が付き難い場所ゆえに結構なダメージ。
痛かったのか吠えましたけど、掴まれたら痛いのは私なので反対側に回り込んで脇を蹴る。
今度も掴まれたら嫌なので離れて次は太腿を蹴り、様子を見ようと距離を取りました。
かなり効いたのか蹴られた場所を気にしながら起き上がるオウガ。
怒りは忘れていなさそうですが、それでも僅かながら恐怖も感じているようですね。
「大体のところは分かりました。敵ではありませんね」
これ以上は得るものがないと判断し、両手のガントレットに風魔法の魔法剣を使って相手の懐に飛び込み両足に一撃ずつ。
足が曲がってはいけない方向に曲がり、バランスを崩して倒れ込んできたところをアッパーカットな魔法剣技で頭部を半壊させて終了です。
「ふぅ、良い訓練でした」
「「「「いやいやいや」」」」
「女将さんほどじゃないとはいえ相手は中々のやり手の体術使いでしたし、訓練じゃないですか」
「あなたは魔術師なのでしょう! なぜオウガと殴り合うのですか! 理解できませんわ!」
「流石にちょっと引くわー、サクラちゃん」
「サクラさん、どこに向かおうとしてるの?」
「アーデラ伯が推薦した意味をやっと理解できました。次代の鉄拳姫はサクラ嬢でしたか」
こんな感じで4階層の攻略もスタートです。
「うーん、オウガがこんなに簡単に倒せるなんて、もしかして王選も勝っちゃうかも?」
「「「「ガアアアアアア!?」」」」
オウガ集団の丸焼きを見てミゥさんが漏らした一言です。
現在私たちは落とし穴に嵌めた彼らを更に天井に有った連動の魔法の罠、火炎放射トラップを浴びせて見学中です。
4階層目の罠は自然系統だけじゃなく、火魔法を利用した罠が登場します。
しかも罠の連携だったりするのです。
今目の前で事案が発生しているような落とし穴に落ちたと思ったら火炎放射を浴びせられたり。
鍾乳石が落ちてきたと思って避けた着地点の地面から火炎が立ち昇ったり。
その派生で鍾乳石の落下地点を起点に爆発が起きたり。
ただ単純に通りがかったら火炎放射が横から放たれたりなどなどです。
オウガだけでも面倒なのに、罠が極悪過ぎて簡単に攻略できないのがこの4階層です。
なーんて最初は思ってましたし、そう予想してましたが、実際には結構楽に進んでます。
オウガとの戦いに付いては、私だけではなくミゥさんも簡単に避けまくって大丈夫だし、アルミラージュさんも危なげなく倒せるし、クロードさんも火魔法で倒せる事が分かったので大丈夫。
唯一戦いに向いていないリリーさんですが、彼女は光魔法ライトで目潰し、ではなく魔法レベル2になって覚えたコンセントレーションで相手の視力を落とす活躍を見せてます。
オウガってば夜目が効くみたいですが、それでも視力を下げられたらほぼ見えなくなるのでオウガが雑魚になりました。
光魔法のこんな使い方なんて私以外誰もしていなかったようで、提案した時には皆さん驚いておりました。
光魔法ライトでの目潰しは思いつくのに、なんで視力を下げて相手を混乱させるのを思いつかないのか私は逆に不思議です。
どうもファンタジア世界の住人たちは補助と言ったら味方を強化する、いわゆるバフしか思いつかないようで、敵を邪魔するデバフの概念が無いようです。
「熱そうですね。お水でもいかがですか?」
「ゴガゴアゴガ!?」
「うわぁ、流石に酷いや、サクラちゃん」
穴から出て来ようとしたオウガの顔に水を浴びせて落下させるとか、水魔法ウォーターだって敵を倒すのに有効なのですけどね。
取り敢えず、オウガたちは火炎によるダメージの前に酸欠で死んじゃいました。
本当にタフな魔物です。
「これって楽だけど、魔石の回収は無理だよね。まあ、十分集めてるしいっか」
「罠も時間が経てば再度設置されるのでしょう? だったら待ってみます?」
「いやぁ、それよりも進んだ方が良いと思うな。リリーちゃん、良いよね?」
「え、はい。進みましょう」
4階層に降りてから既に2時間近く経過し、ダンジョンに入ってから10時間ちょっと。
王選開始が9時頃だったからそろそろ夜営の準備もしたいところです。
でも、あと少しで転送部屋なので、そこをクリアしてから夜営する事になってます。
「うそ、扉が閉まらない」
「これってまさか」
「「「「「階層主が復活してる?」」」」」
まさかのフラグ回収がここで起きるとは思ってもみませんでした。
この転送部屋から階層主の部屋まで約3時間掛かる距離がある為、私たちはこの部屋で夜営する事にしました。
基本的に転送部屋では魔物の湧き、地面から敵が生まれる事がなく、階層主を倒さない限り転送魔法陣から守護者が出てきません。
なので実はこの部屋は安全区域だったりするので夜営する事になりました。
ただし扉が開いてますので通路に出た魔物は入ってくるので、部屋の入り口を警戒する必要があるのですが。
扉を人力で閉めれたら良いのですが、それも出来ないので交代で警戒要員を立てようと話し合いが始まり。
「あ、じゃあ私が壁を作りますね」
「「「「え?」」」」
妖精魔法で木を何本も生やして入り口を完全に塞ぎ、最低限の警戒だけで済むようにしました。
「ちょ、サクラちゃんてば何でも出来ちゃうね」
「何でもは出来ません、出来る事だけです」
何時ぞやのようにちょっと危ないセリフを吐いてみたり。
そんな一コマがありつつ、夜営準備開始です。
私が持ってきていた物資を取り出し、部屋の中に並べていきます。
テントや調理道具、毛布などなど。
そして極めつけは大きな鍋だったりします。
「えっと、そんな鍋をどうするの?」
「これですか? 水を沸騰させて湯浴みようです。あ、別に湯浴みしたくないなら」
「「「湯浴みしたい!」」」
はい、女性陣はそうですよね。
何気にクロードさんも頷いてますからしたかったのでしょう。
なので湯浴み用と調理用のかまどを作り、といっても持ってきていた煉瓦敷いて、穴を掘って蒔をくべて点火魔法道具で着火。
水は私の水魔法ウォーターで十分ですから特に用意しておりません。
調理の方は燻製肉と塩漬け野菜、乾燥キノコなど使った鍋。
ちゃんとパンも用意してありますから晩御飯はこれになります。
調理当番は私が担当し、他の人でテントの設営や寝床の準備をしてもらいました。
王女なのにテントも張れちゃうリリーさんは本当に庶民的。
何でも神殿に居た時に炊き出しなんかを良く手伝っていてこういうのも慣れているそうです。
そんな感じで時間が経ち、湯浴み用の湯も良い温度になってきましたから女性陣、といっても私を除きますが、リリーさんから順番に利用してもらいました。
ちゃんと湯浴み用の桶も用意してあり、お湯を入れた桶を運ぶのはクロードさんのお仕事です。
魔術師だけど男性だから筋力もそれなりにあるようで、重いはずのそれも楽々運んでおりました。
流石自称執事は体幹も良いようです。
なお、私は結局湯浴みはせず、いつもの洗浄魔法で全身綺麗さっぱりです。
私のこの魔法の使い方を見てまたまた皆さん驚いてましたが、もうそろそろ私に付いて慣れて欲しいものですね。
「いやぁ、美味しかった。サクラちゃん有能過ぎ。是非お嫁さんに欲しいねー」
私は女性と結婚する気はありませんよ、ミゥさん。
「食後の紅茶も美味しいですわね。ところで私の世話係にならない?」
世話係って、宿で似たような事してるじゃないですかアルミラージュさん。
「うう、女子力でも負けちゃってる」
女子力なんて言葉がファンタジア世界にも存在してましたか。
そして王女は女子力必要ないですよ、リリーさん。
「もしやサクラ嬢はメイドも経験してますか?」
はい、実はメイド長ですよ、クロードさん。
まあ、職業の事がでましたので嘗てからの疑問を解消すべく、ちょっと質問タイムと行きましょうか。
「ええ、実はメイドも経験してますよ」
「なるほど。姫が王位を継承した後は是非侍女として仕えて欲しいですね」
「先約がありますので、それはちょっと。ところで質問宜しいですか?」
「先約というのが気になりますが、私でお答えできるなら」
「太陽神殿や神託に付いてなのですが」
聞きたかったのは太陽神殿の真実の瞳という魔法道具と高位の神官は神託で職業を判別できる、という情報ですね。
真実の瞳は本神殿である神国アルカディア太陽神殿だけにしかないのか。
神託は職業何で使えるようになるのか。
そもそも皆さんどうやってスキルとかを把握しているのか、ですね。
人里に来てからの情報を基にすれば、どうも人は自分でステータスを確認できていないんじゃないかと。
なので以前から疑問に思っていたのです。
「真実の瞳は本神殿にしかありません。ですがそのレプリカは大きな町、都市規模の所にある太陽神殿にはありますね」
「レプリカでも全部の情報が見れるのですか? 後、書面に書き写しも?」
「レプリカでは名前、名称、種族、職業、クラススキル、スキル程度ですね。ギフトの有無などは本神殿にある神具、真実の瞳でしか見れないと言われていますよ」
おや?
もしかして能力値とかの数値的データ、それから種族スキルは皆知らないのかな?
うーん、幻惑の森のお仲間さんたちは知ってましたし、ただ単に人の間ではその手の事が認知されていないのかも。
「なるほど。では神託に付いては?」
「確かに職業や転職できる可能性を神託で聞く事は可能ですね」
「それって経歴もですか? 後、神官系の職業は何で神託が得られるようになるのでしょうか?」
「経歴までは分かりませんね。職業は司祭からとなりますね」
「え? クロード。あのクラススキルは助祭でも見れるって」
「姫」
「あ!?」
ほほう。
どうやら神託じゃなくて鑑定スキルの亜種のようですね、職業を調べるスキルは。
取り敢えず、私の疑問は解消されましたし、自己能力確認スキルの事は下手に聞くと怖いからここまでにしておきましょう。
「えっと、疑問が解けましたし、ありがとうございました」
「いえ、サクラ嬢のお役に立てて何よりです」
「あ、じゃあ私も質問しよっかなー」
「ミゥ嬢もですか? 私で宜しければ」
「あ、クロードさんじゃなくてサクラちゃんにだよー」
「え? 私ですか?」
「色々聞きたいけど答えてくれ無さそうだし、でも、尻尾は掴んだからこれだけ。今までどうやって自分のスキルを調べてたのかな?」
「あ」
うっかりさくべー炸裂してましたきゅぃー!?
あんな質問したら私が太陽神殿で調べた事がないってばれちゃうじゃないですか!
「そういえば変ですわね。私もそれは聞きたいですわ」
「それにさー。3階層でリリーちゃんがレベルアップしたか何かの瞬間に光の巫女とかなんとか職業ぽいの言ってたし、アレって何かなー?」
「そういえば言っておりましたね。正確には光の姫巫女でしたか」
「きゅ、きゅぃー」
「それそれ。サクラちゃんてさ、焦った時にきゅぃーって鳴くよね? 可愛いけど不自然だよ」
「確かに可愛いですね。似合ってますよ、サクラさん」
「それで回答は? 秘密です、はダメだからね」
「ひ、秘密、きゅぃー!?」
おおう、完全にやっちゃいました。
これはどうしたものでしょうか。
鑑定スキルは良いとしましょう、もう、口に出しちゃったし。
神託とか嘘を言ってもクラススキル名が分からないし、どうしようもない。
で、自分のスキルに付いてはどうしよう。
えっと、こういう場合は、えっとー。
助けてお父さーん!
「か、鑑定です。鑑定スキルを持ってます」
「おお、やっぱり! で、スキルまで見れるってすっごい高レベルだよね?」
「私の森に棲む最長老の上位妖精様はレベル5でスキルまで教えてもらえましたわ。私が森にいた時には見てもらってましたもの」
「おお、アルミラージュちゃん。それはそれで凄い情報だねー。で、サクラちゃん何レベル?」
「4レベルですきゅぃー」
「「「「高っ!?」」」」
「そしてまたきゅぃーっと鳴いたね。で、それでスキルまで見れるの?」
「み、見れません。職業までです」
「なるほどー。じゃあ、ちなみに私の今の職業教えてくれる? 後経歴も。探索者の前の職業だけね」
「探索者です。前職は冒険者です」
「正解! おお、鑑定スキルって凄いねー。で、スキルはどうやって?」
「そ、それはー」
うう、こ、これはオタク知識の灰色脳細胞で逃げるしかなきゅぃー!?
「えっと、懇意にしている凄い方に見てもらいました。誰とまでは言えませんが」
全然細胞が生かされてないきゅぃー!?
「まあ、そうだよねー。これぐらいにしておこうか」
「きゅ、きゅぃー」
「ごめんごめん、サクラちゃん。イジメるつもりはなかったんだけどさ、もうちょっと気を付けた方が良いよ。幾ら強くても人里で過ごすなら会話の内容も考えないと何時かしてやられるよ?」
「は、はい」
既にしてやられてますので、ぐうの音も出ません。
ファンタジア世界に転生してから舌戦で初めて敗北しました。
しかも完膚なきまでです。
こ、これは、ちょっと立ち直れないかも知れません。
「あ、聞くだけじゃまずいよね。私の場合はホルトバージの守護神様に見てもらってたんだー」
「え? 守護神とは確か大平原の主、大地の竜リンドブルムだったと記憶しておりますが」
「そうそう、リンドブルム様。まあ、リンドブルム様に認められたからグラスランナーに成れたんだけどね」
「そ、それってギフトを得たって事ですの?」
「うん、そだよー」
「「「えー!?」」」
何だかミゥさんが凄い事を言ってますが、私はそれどころじゃありませんでした。
うう、赤眼様。
私、もうダメかもしれなきゅぃー。
「あ、サクラちゃん。本当は自己能力確認スキルを持ってるんでしょ?」
「え?」
「私も持ってるし。人以外の知性と理性ある生物では常識なんだって、あのスキル」
「えー!?」
リファール王国の王位継承選抜選抜戦の日。
それはミゥさんには舌戦で絶対に勝てないと分かった日になりました、きゅぃー。
お読みくださってありがとうございました。




