9-2
王選に参加する事になった日の翌日、危惧していた襲撃は無く、安心して王選に挑むだけであれば良かったのですが、事前準備をする必要があります。
その為に王選に付いての質問や必要物資の洗い出しなどの話し合いをする事にしました。
朝早くという事もありリリーさんが眠たそうにしてますが、修行の為に神殿で生活していた割に朝が弱いのが不思議です。
「サクラちゃん、早過ぎるよ、いくら何でも。まだ朝日が出てないよ」
ネルルの安らぎ亭にある小さな馬小屋で泊ったミゥさんが何か言ってますが、スルーです。
「王選開始は明日からですし、準備時間も考えれば仕方がないかと」
「クロード、眠いよ」
「姫、後でお話しますから寝ていても」
「何を言ってますの? 一番中心にならなくてはならない者が動かないなどあり得ませんわ」
必要な物はそれこそ沢山有ります、踏破区画の地図、食料、薬、夜営道具などなど。
そして王選に関する情報もほとんどありません。
なのでまずは王選に付いて知っている人に聞く必要があります。
「よい歳な私までとか酷いと思うけどね」
「私に話を持ってきたのは女将さんですし、当然じゃないですか」
と、いう事で王選に付いて質問し、今回の勝利条件についても確認です。
そもそも私やアルミラージュさんはダンジョンに付いてほとんど知らないのでそこから説明してもらいました。
元浮遊都市であるこの街のダンジョンは、落下した衝撃で都市の上層部である住居区画がほとんど壊滅しており、この部分は探索が完了してリファールの街の一部と化しています。
そして下層部は全て地面に埋まっており、その部分がダンジョンです。
このダンジョンがただの遺跡であれば良かったのですが、生きた遺跡迷宮、すなわち罠やガーディアンが存在していてそれらが時間と共に復活するのです。
何故その様になっているかは完全に解明されていませんが、同じ様に元浮遊都市だったソーサリアン魔法王国から発表された情報が正しければ都市核と呼ばれる制御機能がそうしているらしい。
嘗て大陸を席巻していた大帝国は浮遊都市を侵略の最前線基地として建造した経緯があります。
最前線基地なので外敵から攻撃された場合の防衛機能が当然付いている訳で、ダンジョンと化した現在でもその機能が生きているという事なのです。
罠があるのは分かりますが、何故魔物をガーディアンとして使用しているのかは謎となっており、そもそも不明な点が多すぎるのがダンジョンです。
ダンジョンの最上層はほぼ破壊不可能な魔力を帯びた金属、アダマンタイトで出来ており、下層は自然洞窟となっている。
ダンジョンの魔物は倒すと光の粒子となって死体が消え、魔石と呼ばれる魔力の結晶体を残す。
魔物から出た体液や臭いはそのまま残るのに、切り離した部位も死亡と共に消える。
魔物は必ず地面から生まれる。
ダンジョン内で死亡した場合、時間が経つと地面に飲み込まれてしまう。
ダンジョン内部には地面が盛り上がった場所に武具が埋もれている事があり、それらは魔力を帯びた魔法の武具である。
階層を移動するときは転送陣を使って移動し、転送陣を守る主を倒さない限り使用出来ない。
転送陣は扉で区分けされた部屋に存在し、主は転送陣毎に現れる魔物は同じである。
転送陣は階層主を倒さなければその階層の下層へ行く転送陣が使用出来ない。
出現する階層主はある程度決まってるが基本的にランダムで、その階層に出て来る魔物の上位種である事が多い。
階層主の出現する場所も扉で区切られた部屋で、主は一度倒すと数年単位、過去の事例で行くと2~3年は出てこない。
転送陣の主の部屋は誰かが入って1分で扉が閉まり倒すまで開かないが、7人以上が入ると閉まらずに主も出現しない。
階層主の部屋は誰かが入って1分で扉が閉まり倒すまで開かないのは同じだが、人数制限は特にない。
「と、言うのがダンジョンさ。現在の所4層まで攻略が完了していて、5層目の階層主が倒せずに止まってるらしいね。それで今回の王選ではそれを倒せって訳だよ」
うん、ダンジョンはゲームによくある設定なのは理解できました。
ただし、ダンジョン内部は灯りがなく暗いという点は古風でリアルを売りにしたゲームみたいですね。
「ちなみに女将さんは初めて4階層の主を倒した人でもあるんだよ。しかも実質単独撃破というのが凄いところだよねー」
「一応ビットも居たんだけどね。それに辿り着くまでにも仲間が一杯いたしね」
「両親の事ですね」
サイクロプスを単独撃破したのが約16年前で、当時のクランメンバーにはクロードさんのご両親も在席していたそうです。
ご両親は他の参加者からの妨害に遭いダンジョン内部で命を落としたそうで、クロードさんはそれからリファール王の世話になっているとか。
ちなみにご両親の敵はその時に女将さんがきっちり取り済みとの事でした。
クロードさんがリリーさんの従者をしている理由がこの辺に関係しているようですね。
「ですが、それは今関係ありませんし、今回の王選に付いてですね。私からお話させてもらいます」
「ああ、頼むよ」
「参加者は12名で、おそらく姫以外の参加者は5名の冒険者を連れて参加されるでしょう」
でも、実際はもっと多く用意しているでしょうね。
荷物運び役なポーターとか階層主の部屋に辿り着くまでの戦闘を任せる戦闘員とか、後は他の参加者の妨害用とか。
「階層主の部屋の事も考えてそうなるのかな?」
「ああ、王選は国を挙げての行事ですが、管理は冒険者ギルドが行います。同行者は基本的に5人までと制限されており、入り口で冒険者ギルドが確認します」
違いましたか、ちょっと恥ずかしい。
でも、事前にダンジョンの中に入ったり、王選参加者以外の冒険者に事前に話を通しておくとかはありそうです。
「そして王選が始まる3日前からダンジョンへの進入は制限され、王選開始期間前日までに未帰還の冒険者は資格剥奪という規定まであります」
また違いました、かなり恥ずかしきゅぃー!?
はっ、思わず噛んじゃいました、すいません。
「なるほどですわ。ちゃんと考えていますのね」
「そ、そうですね」
「1階層から4階層までの階層主ですが、ここ1、2年の間に再討伐されていますので、恐らく出る事はないと思われます」
それって階層主が出るフラグなのでは?
と、思いましたが口に出すと本当になりそうですから言わないでおきます。
「でも、出て来たらどうしよう? 大丈夫かな?」
「大丈夫ですわよ。もし出ても倒してしまえば良いだけですわ。前哨戦にはピッタリですわね」
ちょ、フラグを立ててますきゅぃー!?
「ん? どうしたのサクラちゃん?」
「何でもなきゅぃー」
「きゅぃー?」
「気にしないでください。えっと、それで攻略が済んでいる所までの地図は出回っているのでしょうか?」
「入手済みです」
「5階層の主の所までどれくらいで辿り着けます?」
「大よそ5日でしょうか。睡眠や休憩を削れば3日で行けると思いますよ」
「5日ですか。一応11日分の食料とか薬などを」
「手配済みです。本日神殿に運び込まれる予定となっています。勿論、夜営道具などもですが」
なるほど、準備万端と。
流石は自称執事さんですが、ちょっと心配ですね。
「地図はどこで入手しました? 後食料などの物資に関してはどこに発注してます?」
「全て姫専属の侍女に用意させましたので詳しい事は。ただ、物資に関しては商業ギルドに発注して発注書の控えもあります」
「ふむ。では、地図は冒険者ギルドで正確かどうか確認してもらいましょう。物資は直に用意出来ているか商業ギルドに確認、これらは直接行いましょう」
「・・・何故確認するのですか?」
「決まってます。既に戦いは始まっているのですよ?」
話し合いはそれなりに時間が掛かりましたので、確認に動き出した時には既に夜が明けてしばらく経った時間帯。
なので商業ギルドや冒険者ギルドも問題なく対応してくれました。
そして私の懸念通りに妨害されており、資材は全て用意が間に合いそうにありません。
これはそもそも発注がされておらず、発注書の控えも偽造された物と判明し、クロードさんも真っ青、いえ、怒りで顔が赤くなりました。
リリーさんの侍女、いえ、そのもっと下なのか、その者が妨害を企てたという事ですからね。
私は商業ギルドに借りがあるので、何時ぞやお世話になった眼鏡がきらりと光る狐獣人の頭取さんにお願いして1時間で物資を用意してもらいました。
ただし、回復薬は全て買い占められていたので入手出来ず。
まあ、これに関しては回復魔法の使い手が3人もいますし、いざとなったら私が癒魔法で作った物を提供すれば解決しますので何とかなるでしょう。
そして地図に関してもやはり偽物を掴まされていたようで、冒険者ギルドの受付嬢二ムさんに確認して問題ない物を手に入れました。
この件でまたまたクロードさんがご立腹になっちゃいましたが、私としては予想通りなので何とも。
私たちは早々に準備を終えてネルルの安らぎ亭へと戻り、作戦会議を行いました。
あ、物資は全て私の妖精鞄に入れたふりをして空魔法ストレージに入れました。
妖精鞄の性能に付いて色々聞かれたり、売ってくれとか言われましたが全て嘘ストーリーを交えてお断りしました。
でも、魔法の水樽に付いては発酵なしの水樽バージョンを即興で作成し、商業ギルドに1つだけ販売しました。
どうしても価値が知りたくなったからですが、流石にリリーさんという貴族が居る前で頭取さんも余計な事をしなくて買い取ってくれました。
他の自作魔法道具は鑑定できないようにしてありますが、これは鑑定出来るように、しかも強度は普通のちょっと硬い程度の木材でしてありましたが金貨1枚で売れました。
お金が掛からずに金貨1枚とかラッキーと思ってましたが、後で聞いた話だと魔石を使えないとはいえ無限に水が大量に出せる樽だったら購入するのにおそらく金貨10枚はするとか。
それを聞いて私はとっても機嫌が悪くなりました。
「何時まで不機嫌なままですの? ダンジョンに入れますのよ? 冒険者としては一度は体験してみたい事じゃありませんか」
「そうだよー、サクラちゃん。私も本当は入りたくないけど女将さんに脅され、違った、お願いされたから仕方ないじゃないかー」
別にダンジョンアタックに不満はもうないです、不機嫌なのは頭取さんにしてやられた事です。
確かに昨夜も愚痴を言いましたが、それはクロードさんのお手伝いをさせられたからです。
厳密には自分が手配した全てがダメだった事を侍女に問いただす為にリリーさんの傍をしばらく離れるので、その間の世話を押し付けられたからなのですが。
まあ、直接的なリリーさん批判は避けて王選メンバーに参加する事への不満として愚痴を言ってましたが。
一応、私もそれぐらいの分別はあります。
え?
関係者が居る前で言うのは分別がない?
そ、そうだったかもしれませんね。
「すみません、すみません。お父様が無理を言って本当にすみません」
「姫、その様に軽々しく頭を下げるものではありませんよ。上に立つ者、次代の王として毅然とした態度で居ませんと」
こちらこそごめんなさい、リリーさん。
そしてあなたが原因です、クロードさん。
さておき、現在私は戦闘モードな戦乙女装備にローブを着用し、人生初のダンジョンへとやってまいりました。
その仲間たちというのがエルフの美少女剣士であるアルミラージュさん、小人少女な探索者ミゥさん、魔術師執事な青年クロードさん、姫神官な美少女リリーさんの王選参加メンバーです。
このメンバーで初のダンジョンアタックというのが実は不安です。
アルミラージュさんとミゥさんは知り合いですから良いですよ、別に。
知り合いどころか緊急依頼であるアイアンアント討伐で一緒に戦った仲ですし。
でもクロードさんとリリーさんが問題なんです、特にリリーさん。
彼女、見た目も性格もすっごく可愛い美少女で、太陽神殿で修行を積んだ光魔法の使い手な女神官さんです。
回復魔法まで使えるレベルらしいですから非常に戦力としても優秀なのですが、問題は血筋なんです。
リファール王国の現王、厳密には引退したデイビッド・リビングストン公爵の娘、子爵位を授かったお姫様というのが問題なんです。
子爵位だから王位継承選抜戦に参加する資格を有しており、王選では彼女をリーダーとして私たちが王選メンバーとして挑む事に。
更にややこしい事がありまして、彼女は王妃である正妻の子ではなく、平民との間に出来た子である点で、正妻との間に出来た子は自力で子爵位を持っていて王選に出てライバルな点。
確実にその正妻の子、2度も王選メンバーとして勝利に貢献している青年から私たちが妨害される事が予想されるからです。
とっても不安です、本当に。
あ、もう1人のメンバーであるクロードさんはリリーさんの従者であり、火魔法と光魔法の使い手な執事さんです。
執事と言う職業はメイドの男性バージョンと思っていただければ。
光魔法についてはリリーさんの従者として太陽神殿で居た際に覚えたそうで、正直リリーさんより優秀な方です。
火と光の2属性の魔法が使えるという事は、派生属性である聖魔法、アンデッドなどの瘴気に侵された魔物に絶大な威力を発揮するとても凄い魔法が使えるはずです。
もうここまで話しましたし、鑑定結果を交えてメンバー紹介を行いましょう。
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名前:アルミラージュ・エスカリア・スィーリル(女/16歳)
名称:-
種族:人種エルフ(LV24)
状態:普通
所属:エスカリアの森/冒険者ギルドリファール王国支部
職業:剣舞師LV1(経験職:妖精術師/踊り子/戦士/妖精戦士)
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アルミラージュさんは緊急依頼を経験して妖精戦士をマスターして戦闘系踊り子である剣舞師になりました。
完全に攻撃一辺倒の前衛です。
自前の妖精鉱の剣、名をレイバルトというそうですが、どうやら魔力を込めると切れ味が増す魔剣のようで、攻撃力という点では間違いなくこの国でもトップクラス。
更に私が貸している凄く丈夫な魔剣もありますから前に出てガンガン敵を倒してくれるでしょう。
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名前:ミゥ・ホルトバージ(女/18歳)
名称:-
種族:人種小人族(LV20)
状態:普通
所属:ホルトバージ平原/冒険者ギルドリファール王国支部
職業:探索者レベル5(経験職:遊牧民/狩猟民/グラスランナー/冒険者)
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ミゥさんは短剣を扱うようですが基本的には罠関連と索敵要員です。
中央地域で一番大きな平原出身で、若くして出自職業である遊牧民の最上位、草原を踏破する者という意味の職業グラスランナーもマスターしている凄い人でした。
このグラスランナーという職業は極めると風と大地の加護というクラススキルを覚え、風の流れが読み易く、そして土の上だと疲れ難くくなるそうです。
自然洞窟のようなこのダンジョンでも活躍してくれるでしょう。
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名前:クロード・ダールトン(男/25歳)
名称:-
種族:人種人間(LV24)
状態:普通
所属:リファール王国/リビングストン家/ビングス家
職業:マジックバトラーLV8(経験職:国民/魔術師/従僕/執事)
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クロードさんは魔法アタッカーであり、聞けばレベル3の火魔法が扱える冒険者であればランク5に相当する実力者です。
マジックバトラーとは戦闘系使用人、魔法戦闘系の執事の事であり、私のメイド長と同じランクの特殊職。
彼が身に着けた白い手袋には魔法の発動を助ける効果が付与された魔法道具で、まるでどこぞやの錬金術師さんみたいな事が出来るそうです。
リリーさん至上主義過ぎて戦闘でどう役立つのか一切読めない人なので、とても未知数だったり。
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名前:リルレッタ・ビングス(女/15歳)
名称:-
種族:人種人間(LV14)
状態:普通
所属:リファール王国/リビングストン家/リファール王国太陽神殿/ビングス家
職業:女神官LV18(経験職:国民/王女)
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リリーさんは年齢相応なレベルですが光魔法だけとはいえ回復魔法まで使える女神官で、完全な後衛職です。
神官という職業、特に光魔法を使える者は不浄なる気、瘴気を打ち払う効果を光魔法に乗せる事ができるそうで、彼女が使う光魔法ライトの光を浴びるとアンデッドがダメージを受けるとか。
後、回復魔法が魔法レベルが低くても使えるようになるそうで、光魔法レベルが1なのにヒーリングが使えるそうです。
マンガやゲームでも回復といえば神官というイメージでしたが、ファンタジア世界でもそれは当てはまるようですね。
性格はどう考えても大人しい町娘さんなので、戦闘では完全にお荷物ぽいですが。
ともあれ、一応彼女がこのメンバーのリーダーです。
以上、鑑定結果も踏まえたメンバー紹介でした。
あ、私ですが流石にあれだけアイアンアントを討伐しまくったし、女王蟻さんを撃退しましたからレベルが上がりました。
種族レベルは22に、騎士はマスターして現在の職業は魔法騎士です。
魔法騎士が最初に覚えるクラススキルは魔法剣威力上昇(小)という魔法剣を使った時の効果が上がるというものでした。
なので魔法剣を使っての攻撃の威力が上がりましたし、魔法剣技を使った時の魔法の効果が更にアップしました。
増々魔法職ではなく物理職ぽくなってきましたが、私はどこを目指しているのでしょう?
自分でも時々分からなくなります。
なお、私は剣術や体術に自信があり、水と風と光の3つの属性の魔法と妖精魔法が使える魔術師と自己紹介しておきました。
私の発言を聞いて皆さんはそれぞれ憮然、呆れ、傷心、笑顔の表情を浮かべましたが、どうって事ないですね。
さておき、メンバー紹介をしている間にダンジョンの入り口に辿り着きましたので、気を引き締めて頑張りましょうか!
お読みくださってありがとうございました。




