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4年に1度、次代の王を決める為に行う王位継承選抜戦、通称王選。
この王位決定制度が導入されたのは90年ほど前で、当時王であった者が提唱したものである。
王は100年前の魔王討伐に参加した英雄の1人であり、彼はその戦いに冒険者の街の王、冒険者の代表として参加した傑物だ。
彼はその戦いで大怪我を負い、二度と戦えない体となり果てた。
それほどの激戦であった魔王討伐で冒険者王は決めたのだ。
「リファールは冒険者の国だ。ゆえに国王は冒険者、すなわち強くならなくてはならない。世襲ではその強さは磨かれない。よって王位は冒険者らしく競い合うものとする」
こうして始まったのが王位継承選抜戦で、魔王出現による世界の疲弊を受けダンジョン攻略が停滞していた現状も憂い、ダンジョン攻略によって王位を決める事になった。
第1回目の王選のルールは全冒険者が参加可能で、当時攻略されていた最深部へ一番最初に到達した者が王となる、というものだった。
そのルールゆえにリファール王国のみならず、他国からも冒険者が集まり、数千もの者たちがダンジョンへ潜り、最深部を目指した。
ダンジョン内部に徘徊する魔物に殺される者、罠に掛かって命を落す者、冒険者同士の殺し合いで死亡した者。
多数の死者を出し、現役続行不能な怪我を負った者もかなりの数に上り、王は決定した。
新たな王となった男は王となるとすぐさま王選を含めたダンジョンのルールを改定、そしてこの国の治政の在り方まで決めた。
後世の者たちは第1回王位継承選抜戦勝利者が王に成らなければリファール王国は滅亡していただろう、そう言われるほど彼の定めたルールは正しかった。
彼が定めたルールとは、まずダンジョンへ入る者を制限し、ある一定以上の実力を持つ者しかダンジョンへ潜る事が出来ないとした。
政治制度、リファール王国を運営する者を選出し、彼らがこの国を動かしていく官僚制度を取り入れた。
貴族制度、王侯貴族は国家の顔であり、又国家の運営の方向性を決める決定権を有するとした。
貴族位は王を頂点とし、王を止めた者は公爵位を得て継承権はなく生涯に1名だけ子爵位を授ける事が出来るとした。
伯爵位は冒険者ランク3以上の者が冒険者を止めてリファール王国に定住する場合のみ与えられるとし、継承権は存在しない。
子爵位は公爵から授けられるか、男爵位を持つ者が王選メンバーとして参加し勝利に貢献した場合にのみ与えられ、継承権は存在する。
男爵位は王選メンバーとして参加し勝利した場合にのみ与えられ、継承権は存在しない。
王位継承選抜戦、子爵位を持つ者が5名までの冒険者と共に参加し、その王位継承選抜戦で勝利条件をいち早く達成した者を王とする。
王位継承選抜戦に参加可能な冒険者、ランク8以上の冒険者であれば誰でも参加可能である。
このルールを変更するには王及び国内全ての貴族位を持つ者が全員賛成した場合にのみ改定可能とする。
この様に定められた王位継承選抜戦のルールは80年経った今でも変わらずに続けられており、政治形態や王侯貴族制度も変わらずだ。
等と語り部調に長々と説明していたのは私にも関係がある事だからで、無関係、いえ、王選に参加するなんてこれぽっちも思ってなかったのですが、参加する事になったからです。
私って誰だ、ですか?
この度、とある条件を満たす為にダンジョンに潜る事になった妖精少女サクラです、どうも。
アイアンアントの巣討伐を終えて3日後、冒険者ギルドから緊急依頼の報酬を受け取る事が出来ました。
巣探索分で銅貨20枚、緊急依頼参加分で銅貨10枚、巣攻略に多大な貢献をした分で金貨1枚、合計金貨1枚と銅貨30枚を頂きました。
更に冒険者ランクを8までアップしてもらい、今回の緊急依頼で一番の貢献者として老マスターさんから感謝されました。
国からの報奨については王選間近という事もあり、王選終了後になるそうです。
なお、アルミラージュさんもかなりの報酬、全部で銅貨50枚を貰い、冒険者ランクは私と同じ8となって大喜びしてます。
さておき、国の報奨は別にどうでも良いのですが、お金が沢山得られた事は嬉しいです。
何せこれだけあれば私が欲している、厳密にいえばエフェメラルさんが欲している魔法ポットが買えそうだからです。
そう思ってネルルの安らぎ亭の店主である女将さんに魔法道具屋を紹介してもらおうとお願いしたのですが、そこでとある条件を出されました。
「あー、紹介は構わないよ。魔法ポット、水を沸騰させるだけの単純なやつなら金貨1枚もあれば買えるし。でも、紹介する代わりにお願いを聞いてくれるかい?」
「内容次第ですが」
「何、ちょっとダンジョンに潜って欲しくてさ」
「ランク8になりましたから可能ですけど、私は未成年ですから同行者が必要ですよ?」
「ミゥと泊り客のアルミラージュが同行するから大丈夫だよ。あと1人2人増えるけど」
「はぁ、まあ、ダンジョンに入るだけなら。目的は何でしょう?」
「ああ、ちょっと階層主を倒して来て欲しい、それだけだよ」
「え?」
はい、要するにですね、今年開催される王位継承選抜戦、通称王選の勝利条件が現在の最深部に居座る階層主、ボスを一番最初に倒して踏破区画を広げる事。
王選メンバーとして参加して王選参加者を勝利に導いて来い、そういう交換条件でした。
無茶な条件だと私は即座に断ったのですが、一応参加して勝利できなくても紹介はしてくれるそうで、勝利したら無料で魔法ポットがもらえるように言いくるめられました。
確かに金貨1枚が報酬って破格ですけど、それって災害級魔獣を討伐するレベルのお仕事って事ですよね?
そんな危険な依頼を受けたくないのが心情ですし、王選参加やダンジョンに興味がないので断りたかったです。
「いや、本当に頼むよ、サクラ。ちょっとさ、知り合いから頼まれて。その知り合いってのがどうも断れない相手でね」
「女将さんが参加すればよいのでは? ミゥさんに聞きましたら元ランク3冒険者で現在伯爵位を持ってるんですよね?」
「元冒険者だから参加できないんだよ、王選参加ルールで決まってるし」
「はぁ。えっと、私でないとダメなんですか?」
「サクラの見立てでミゥとアルミラージュはサイクロプスクラスの魔物を倒せると思うかい?」
「やっぱり災害級の相手ですか、階層主とやらは」
「いや、下手するとそれ以上だね。私が現役の頃に倒した1つ上の階の階層主がサイクロプスだったし」
なんと女将さんはサイクロプスを単独撃破した経験があるそうです。
今は衰えてて現役ほどではないそうですが、当時の実力だったら幻惑の森でも良い所まで行けそうですね、女将さんてば。
さておき、確かにサイクロプスなどの災害級以上の魔物相手だと厳しそうですね。
他のメンバーに優秀な魔術師が居れば分かりませんが、少人数で撃破は絶望的だと思います。
そうなってくると私という事になりますか。
「えっと、私の実力だと可能と判断してるのですか?」
「私は鑑定スキルは持ってないけど強者感知っていうスキルを持っててね。自分と同等以上の実力者は分かっちまうんだよ。勿論、相手が戦う意志を見せないと判別できないけどね」
ぐっ、なんという戦闘民族向きのスキルなんですか。
偶に朝の鍛錬で組手とかしてましたが、そんなスキルを持っていたならお断りしておけばよかったです。
初めて組手した時に女将さんが獰猛な笑みを浮かべたのはこのスキルの所為だったとは!
「むぅ。わ、分かりましたよ。それで一緒にダンジョンに入る王選メンバーとは何時会えば良いですか?」
「それなんだが今日の夜に会う手筈にしようかと」
「相手は貴族ですよね、王選に出て王になろうとしてるぐらいですから。今日とか大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫さ。何せ知り合いってのが」
ここでまたまた驚愕の事実を聞かされました。
女将さんの知り合いというのは現リファール国王で、元クランメンバーだった方だそうです。
しかもその国王さん、ここの常連、酒場に良く飲みに来る私も知っている初老のおじさんでした。
「ええー!?」
王様が身分を隠して城下町で遊び人を装うって、テンプレ過ぎですきゅぃー!?
衝撃の事実を知った日の夜、何時もより早くに営業を終了し、今回の関係者が集まりました。
紹介者である女将さんは勿論、私やアルミラージュさんにミゥさん、何度も接客した事のある初老の男性、執事服を着た青年、太陽神のシンボルを身に着けた神官服の少女です。
どこかの商人が着ているような仕立てが良さそうな平民服姿の初老の男性がこの国の王であるビットさんで、正式な名はデイビッド・リビングストン・リファールと言うそうです。
このお酒大好きなおじさんって雰囲気を出して毎日のようにやってくる人が実は国王とか、誰が予想していたでしょう。
数日前にこの国に来たばかりのアルミラージュさんは勿論、2年以上働いているミゥさんも知らなかったようで自己紹介された時は唖然としておりました。
その二人を見て何故か不機嫌そうにしていた女将さんもちょっと笑みを見せましたが、悪戯が成功したとか思ってるのかな?
そういう問題じゃない気もしますが、置いておきましょう。
それよりもリファール王が連れて来たお二人です。
おそらく15歳前後と思われる美少女、可愛い系というかそわそわしているので突くとビクッとしそうな雰囲気を醸し出している彼女は神官服を着ているので女神官なのでしょう。
そして少女の斜め後ろで控えるように、酒場で執事服とかとても目立つはずなのに、気配が薄くて意識していないと見失いそうな青年も整った顔立ちで無表情なのが逆に印象的です。
「ちょ、女将さん、本当なんですか?」
「ああ、この爺さん」
「誰が爺さんだ!」
「自称ビットと名乗る常連は確かにこのリファールの王だよ。まあ、私の元クランメンバーでもあるけどね」
「自称は酷いなネルル。俺は昔からビットという名だ。貴族になった時にそれらしい名に改名しただけだぞ」
「こんなビットだが王になっても街での暮らしが忘れられなくて、ほぼ毎日飲みに来るただの酒好きだよ」
「一応ここの大家なんだから構わないだろ」
「え? どういう事ですか?」
女将さんとリファール王のやり取りに入り込めなくて私たちは唖然としておりましたが、ちょっと気になるワードが出てきました。
なので聞いてみたのですが、このネルルの安らぎ亭は元々リファール王の両親が経営していた宿屋だったらしく、両親の死後ネルルさんが引き継いだそうです。
引き継いだ理由は女将さんが駆け出し冒険者だった頃に当時の宿屋で世話になったから。
で、クランメンバーだったリファール王が王となる時に冒険者を止めて伯爵位と女将さんの希望でこの宿を貰った、との事。
先ほどの大家発言ですが、土地や建屋の持ち主は女将さんなのですが、名義上はリファール王も持ち主で何かあった場合の最終権利はリファール王にあるというのが正しい情報でした。
なるほど、これだと女将さんは知古の仲というだけじゃなく、自分の店を抑えられているようなものですね。
「さておくが、今回君たちにお願いしたいのは俺の娘の護衛だ。俺は今回の王選に参加せずに王位を退き、公爵となってリリーに子爵位を授けて王選に参加させたから、その王選中の護衛だ」
「あ、そっちのお嬢ちゃんがリリー、リルレッタだよ。で、後ろのいけ好かないのがクロードっていうリリーの従者だね」
「リ、リリーです」
「クロードと申します。アーデラ伯、私は姫の従者ではなく執事です」
「まあ、こんな感じでいけ好かないのさ」
「えっと、女将さん。私たちって直接話して大丈夫なの?」
「酒場で王もくそもあるもんかい。そういうのを望むなら城に召喚するだろ」
「そうだぞ、ミゥちゃん。何時もみたいにビットさんと呼んでくれ」
「は、はは」
ミゥさんが引き攣った笑みを浮かべるのは仕方ない展開ですよね、これ。
ともあれ、リファール王の依頼、いえ、お願いという事で王選メンバーとして参加を要請されました。
護衛という表現を使ったのにも意味があるようで、王選に参加した場合はライバルである他の参加者から妨害があるからだそうです。
「自分で言うのもなんだが長年王として君臨してきた俺が出ない王選だ、是が非でも勝利したいと直接間接的に実力行使に出て来るやもしれん」
「それほど危険な状況ならば今回は見合わせればどうですか? リリー姫はどう思います?」
「こ、怖いから本当は出たくありません。でも、出ないと」
「俺の息子も王選に出る。しかもこの街一番の冒険者たちをメンバーにしてな。そして王となったら王選ルールを改定すると豪語しているのだ」
兄妹で争うとか、ちょっと状況は違いますが王位継承の内戦ですね。
話に出た王子というのは冒険者としても活動している方で、今まで父親であるリファール王と共に王選に参加して現在は子爵位を得ているそうです。
リファール王の前では王に従う好青年を演じて来たが、裏では相当あくどい事をしていたのが発覚。
しかも王選のルールを変更して開催時期の延長、貴族制度の変更、権利の増加など他の参加者たちに確約しており賛同を得てしまっているとか。
このままだとリファール王国が混乱してしまうので正妻ではなく妾の子であるリリー姫に子爵位を与えて参加させる事になったそうですよ。
「引退を撤回は出来ないのですか?」
「既に全ての貴族たちが了承していて不可能だ。あいつの甘言に乗ったのが失敗だった」
どうも引退は王子から提案、ずっと同じ王では国が発展しないと言われ決めた事のようです。
うーん、リファール王が考え無しだっただけな気がしてきました。
そもそも冒険者、基本的に将来性を考えない夢見がちな性格や脳筋が多いし、そういう人が施政者をしちゃダメだと思います。
ある意味この国の王位継承の在り方は変更した方が良さそうっていうのは同意です。
「それで女将さん、約束は守ってくれるますよね?」
「それは勿論だよ。まあ、あれだ。ビットは気に入らないがリリーは良い子だから守ってやって欲しいね」
「ちょっと条件を詰めたいのですが、了解しました。あ、ミゥさんとアルミラージュさんはどうします?」
「えーっと、王様、いや元王様の公爵様だよね。貴族様のお願いなんて強制じゃない。やらないという事は国から逃亡すると同意だし、やるしかないよねー。あと女将さんが」
「あたしが何だい?」
「な、何でもないよ、女将さん!」
「私はダンジョンに入れるならどうでも良いですわ。ただ、護衛と言われても私は守りませんわよ? 一緒に入るだけと考えて下さるかしら?」
「それはまあ、そうだね。ビット、構わないよな?」
「結果的に護衛する事になるなら構わん。危険を事前に排除してくれるならそもそも護衛は要らんからな」
「お二人も了承と。ああ、私からの条件の変更の提案ですが、今日からとしませんか?」
「む? 何故だ?」
「だって既に爵位を与えられて王選参加を表明しているのですよね? だったら今のこの時も命を狙われてもおかしくないはずです」
「ええ!?」
王子がどういう性格なのか分かりませんが、邪魔をするなら殺害した方が早いですし、やるなら何時やっても同じですからね。
流石に王が居るこの場でやるとは思いませんが、帰った後に暗殺とかあり得そうですもの。
「確かにあり得るだろうが、あやつがそこまでするか?」
「隠れて色々していた王子でしょう? それに周りの貴族たちが勝手に動くかも知れませんし。あ、女将さん、今日の所は別棟でいけます?」
「そうだね、その方が良いか。リリー、泊っていきな」
「きゅ、急に言われても」
「姫、アーデラ伯の言う通りに致しましょう。ここには近隣一の実力者が居りますから安全です」
「クロードがそう言うなら」
「あ、クロードさんはどうするのですか?」
「ふっ、私は姫と共にありますので勿論」
「あんたは中庭だね。テントでも出してやるから夜営で見張りでもしてな」
こうして何だか危険な気配漂う王選に参加する事になりました。
正直やる気はありませんが、お世話になった女将さんの頼みでもありますし、やるだけやってみましょうか。
「ふむ。それでは頼むぞ。しかし、サクラちゃんが実は凄腕だとは思わなかったな。ちっちゃいのにやるじゃないか」
ちっちゃいは余計ですきゅぃー!
お読みくださってありがとうございました。
9-1~9-8までは1話辺りの文字数が何時もより多目になります。




