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蟻という生物は穴掘り名人という事を忘れてましたが、まさか水攻め中に地表まで出て来るとは思いませんでした。
予想外の出来事に唖然としてしまいましたが現れたものは仕方がない。
と、いう訳でクィーンの名を関した魔獣の討伐作戦です。
作戦も何も200人近い兵士さんたちが既に戦ってますし、そこに乱入するだけなのですが。
「は、はは。まさか地上で戦う事になるとはな。お前ら、行くぞ!」
「「「「「「「「「「おう!」」」」」」」」」」
ベテランさんたちは声を掛け合って基地に向けて走り出し、残された私たちはその光景を声援と共に送り出しました。
是非頑張って倒していただきたいですね。
「何を暢気にしてますの、行きますわよ!」
「ええ? だってアレだけ居たら倒せるのでは? 確か金貨1枚クラスの魔物討伐でも凄腕が5、6人も居たら大丈夫と」
「サクラちゃん、それランク3以上の人たちの事だよ。あの人たちだったら100人は必要じゃないかな」
「それにアイアンアントクィーンは鋼よりも硬い甲殻に覆われていて、甲殻もかなり厚いから攻撃がほとんど効きませんわよ」
「でも関節を狙えば大丈夫じゃないですか?」
「アレだけ巨大で動いている相手に関節だけを狙うなんて普通できないよ」
ふーむ、どうやら現状戦力では倒せない相手のようですね、女王蟻って。
それだと蟻の巣に突入しても意味がなかったのでは?という疑問が出てきましたが、それに付いては答えがすぐにでました。
もうすぐダンジョンに潜っていた冒険者たちも戻ってきてこちらに来るだろうから追加戦力がある、と。
しかも魔術師も多いから戦い易くなるはず、との事でした。
だったらそれまで待てば、なんて思ってましたがそうも言ってられないようですね。
「あの人たちが蹴散らされてるぞ」
「うわぁ、人が飛んでるのなんて始めて見た」
「おい、何かあいつこっちに来てないか?」
「まさか」
「「「「「「「「「「どんどんこっちに来てる!?」」」」」」」」」」
ベテラン冒険者さんたちも合流して戦いが激化、はせずに女王蟻は群がる虫を払うが如く鎧袖一触で人を薙ぎ払ってます。
基地の設備、といっても天幕だとか簡易柵だとかを粗方破壊した後、女王蟻はこちらに顔を向け、のっそり、でも巨大ゆえにそれなりのスピードでこちらに駆けてきました。
行かせないとばかりに攻撃を加えてますが全く足止めとならずにどんどんこちらに。
このままだと私たちも襲われそうですね。
「戦えるのは私たちだけですわよ」
アルミラージュさんは自身の剣を鞘から抜き、地に突き立てていた私が貸した魔剣を手に取り駆け出しました。
「サクラちゃんは行かないのー?」
ミゥさん、とても他人事のように言ってますがあなたは行かないのですね。
「はぁ。これ倒しちゃったらちゃんと特別報酬とか出るのでしょうか?」
「はは、凄い自身だね。多分出ると思うよ。あ、女王蟻は武具の素材になるからあまり原型を残さないのは怒られちゃうよ」
そういう問題なのかな?と思いつつも私は久しぶりにヴァルキリーレイピアを取り出して歩き出しました。
「ギシャー!?」
女王蟻はアルミラージュさんが振るった魔剣の効果を受けてびっくりしたのか叫び声を上げた。
体長約12m体高約4mもある巨体ゆえに足にしか届かなかったので足に剣を振ったようですが、切れ味はほとんどない頑丈なだけの剣ですから弾かれてアルミラージュさんはバランスを崩す。
ぶつけた剣の勢いよりも相手の質量の方が大きかったからそうなったのでしょうが、アルミラージュさんは予想していなかったのでしょうね。
このままだと踏まれるか薙ぎ払われそうですから風魔法ブロウを足にぶつけて女王蟻へ牽制。
アイアンアントナイトの甲殻すら大幅にへこました私の魔法も女王蟻にはあまり効果がないようで、わずかに甲殻がへこんだだけでした。
でも衝撃は感じた様でアルミラージュさんへの追撃よりも私へ警戒を優先したようです。
所謂ヘイト管理と呼ばれる行為で私に意識を向けさせました。
アルミラージュさんは妖精鉱製の剣がありますから攻撃面は任せられますが、カウンターを食らうと一撃でアウトっぽい。
一緒に戦うなら私が牽制も兼ねて動かないとまずそうですね。
「アルミラージュさん、相手は硬いですから私の魔剣は添える程度で!」
「解りましたわ!」
さて、アルミラージュさんもこれで戦えるでしょうし、ちょっとやってみましょうか。
私がこれクラスの魔物とちゃんと戦えるかどうかを。
まずは相手がどれほどかと鑑定を使ってみましたが、どういう訳か鑑定できず、魔物なのに隠蔽スキルでも持っているという事なのでしょうか?
ちょっと疑問に思いますが今は戦いの途中ですし実戦の中で相手を見極めましょう。
先ほど私の得意魔法であるブロウですらほぼ効果なし。
だったら人里に出てから最も使っている攻撃魔法である、一撃で相手を戦闘不能にする必殺技を試してみましょう!
「ノイズ!」
「くっ、硬い! レイバルトでも傷を付けるのが精いっぱいだなんて」
風魔法ノイズでダイレクトアタックしてみましたが、蟻の魔獣といってもクィーンを関する相手だから精神も高いのか一瞬動きを止めただけでほぼ効果なしです。
そして止まった隙を見逃さなかったアルミラージュさんは妖精鉱製の剣、名をレイバルトと言うそうですが斬り付けましたが表面に傷を付けただけ。
インパクトの瞬間に火花が散ってましたし、鋼鉄並みに硬いと聞いてましたがそれ以上の硬さなのかも。
まだ魔法剣を使っていないようですし全力の攻撃ではないですが、これはちょっと誤算です。
「ならば、魔法剣で、って、そんな、傷が治ってますわ!」
「回復速度も早いのですか、厄介です」
とても硬い上におそらくHP回復速度上昇スキルを高レベルで所持してるのか、折角傷を付けてもすぐに回復です。
攻撃力も高く、硬い上にタフ。
まるで赤毛さんを相手に戦っている気になってきました。
まあ、赤毛さんの場合は火魔法まで使ってきますから本気になられたら絶対に勝てませんけど。
「アルミラージュさん! 後ろに回って腹部を狙ってください。蟻の甲殻は頭部と胴部に集中してます!」
「解りましたわ!」
「では、私の相手をしてもらいますよ」
「キシャー!」
まるで邪魔よ、と言っているような叫び声を上げて私に噛付いてきましたが動き自体はそれほど早くないので簡単に躱す。
避けた序に私も剣で突いてみましたが、かなり抵抗を感じながらも突き立てる事ができました。
そして剣を振って離脱。
「ギシャー!?」
痛い、と言っているかのような叫び声を上げ、女王蟻は少し下がった。
ん?
言っているかのような?
あれ?
「もしかして、私の言葉解ってます?」
「何を今更! 何故こんな所にハイフェアリーが居るのよ!」
耳にはキシャーと聞こえるのに、頭の中ではちゃんと言葉になってます。
あ、私ってギフトの全言語解読持ちだから誰とでも会話可能でした、うっかりきゅぃー!
私は魔獣たちの楽園である幻惑の森で魔獣さんたちと仲良くしています。
蟻とはいえ魔獣な女王蟻さんとも会話可能と分かってからは、適度に攻撃するフリをしながら話し合いをしてました。
勿論、他の人には聞こえないように風魔法ボイスを使ってお互いにしか聞こえないようにしてからですけど。
ですから周りにはキシャーとかえーいとか掛け声を掛け合っているように見えているはずです。
アルミラージュさんや追い付いてきたベテランさんたちも攻撃してますからギシャーと悲鳴も上がってますので、さり気なく水魔法リザレクションを掛けて回復も忘れずにです。
「何よ何よ。私が大人しく地下で寝ていたのに水なんか流してきて! 殺す気なの!」
「いやぁ、アイアンアントって人の間ではとても危険で災害級扱いですからね。みんなでやっちゃえーとなってました」
「あなた、妖精でしょう? 何故人間なんかの味方してるのよ?」
「人里に出たりしてますし。あ、女王蟻さんが人里を襲わなければ私も攻撃しませんよ」
すっかり忘れていましたが、別に私は人の味方という訳ではない。
生まれが幻惑の森でしたし、どちらかといえば魔獣側になるかな。
まあ、迷惑になる魔獣だったら戦いますけど。
「私も本当は戦いたくないわよ。でも人が私たちを襲ってきて親も殺されたのよ。私の子たちも一杯。だから戦うわ」
「あー、2年前に有ったアイアンアント討伐の生き残りなのですね。うーん、どうしましょうか」
ファンタジア世界の魔獣、いえ、魔物の立ち位置は人種の敵です。
何故なら人種の生活圏を脅かす存在であり、魔物によっては率先して人を襲います。
アイアンアントという魔獣も人里の近くで発生した場合、餌場を求めて人里に襲い掛かり、何でも食料へと変えちゃいます。
昆虫の蟻と同じく雑食ですが、主に肉食なので人里があれば襲い掛かるようです。
人里でなければ動物や他の魔物を狙うらしく、ここに巣を作ってからは人は襲っていなかったとの事。
何せ周りに人里がなかったので、動物や偶に現れる魔物を餌にしていたそうですね。
「だから餌も少なくて中々子を増やせなかったのよ。折角ここまで増えたのに、全部殺されちゃったわ」
水攻めをしてみましたが、実はほとんどのアイアンアントは討伐済みで、餌が少ないから卵も最近生んでなかったらしい。
なので女王蟻の一族は彼女だけになってしまったようです。
「えーっと、それは、ごめんなさい。でも、このままだと女王蟻さんも倒さないと」
「ぐっ、そうよね。本当ならあなたたちを倒して餌にするのだけど、あなたには敵いそうにないわ」
「そうですか? あまり攻撃が効いてなかったようですが」
「あなたの魔力だともっと強い攻撃とか出来るでしょ?」
まあ、確かに最大威力の攻撃魔法である氷魔法や雷魔法を使ってませんし、ヴァルキリーレイピアに魔法剣とか使ってませんからね、全力ではないです。
なのでここまでの戦いが女王蟻さんの全力だとしたら私が確実に勝っちゃいますね。
あ、でも蟻には酸を吐くものもいますから、それを見ないとはっきりしませんけど。
それよりもここまで会話した感じ、悪い人ではなさそうですから倒す気がなくなっているんですよね。
「うーん。女王蟻さんが逃げたいならお手伝いしますよ?」
「え? 見逃してくれるの?」
「逃げた先で人里を襲わないならですけど」
「う・・・でも、それだとどこに行けば」
「ああ、それでしたら良い場所がありますよ」
さて、それでは女王蟻さんを逃がすため、奇術でもお見せしましょうか!
「くそっ、硬いし回復するわでどうしようもねぇ!」
「良いから黙って攻撃しろ! あっちでエルフの嬢ちゃんが一人で囮になってくれてるんだぞ!」
「何か動きが良くなったような」
「おい、回転するぞ! まさか、アシッドブレスか!?」
「皆、下がれーーーー!」
女王蟻さんは本気を出したのか動きが突然早くなり、急旋回して後ろから腹部を滅多打ちにしていた冒険者さんたちや兵士さんに向き直り、大きく口を開けた。
そして口から大量の水、いや、鉄をも溶かす強力な酸を吹きかけた。
「ぎゃー!? 足が、足が!」
「ジョン!? くそ、ジョンが避けそこなった!」
彼らは蟻酸の吹きかけを避ける為に大幅に下がったので、女王蟻を囲む陣形に隙が出来、それを彼女は見逃さなかった。
「なっ!? に、逃げるぞ!」
「追え! 逃がしたら別の場所に巣を作るぞ!」
その逃走速度は人種では出せないスピードで、追い駆けてもどんどん離されていく。
しかも最悪な事に女王蟻はまだ隠されたスキルを持っていたようだ。
「分裂だと!?」
「聞いた事ないぞ、アイアンアントが分裂なんて! 最悪だ!」
突然女王蟻は2体に増え、それぞれ別々の方向に走り出した。
「と、飛ぶだと!?」
更に空を駆けるように飛行しだしたのだ。
女王蟻は巨大な魔獣。
でもその体は黒く、夜となった草原ではその姿は溶け込みやすい。
二手に分かれ、飛ばれてしまったがゆえにどうしたらよいか分からず混乱した追撃者たちは足を止め、等々女王蟻の姿を見失った。
「くそっ、女王蟻討伐は失敗かよ」
誰かが呟いた言葉がむなしく夜の草原に響いた。
そんな光景を最前列で見ている妖精少女サクラです、こんばんは。
女王蟻さんの逃亡を手助けすべく私は彼女に風魔法ゲイルムーブと水魔法タフネスを掛けてサポートしました。
そうして素早く動けるようになった女王蟻さんが旋回した時に、緊急回避とばかりに草原に倒れ込んで闇魔法ハイドシャドウを使って隠れて誰にも気付かれないように。
メイドスキルの隠密もありますからよっぽどの相手でない限り私を発見できませんし、そこからは擬態を解いて久しぶりに羽を生やして飛行モード。
その後は女王蟻さんに引っ付いて動き、ある程度離れたらエルフに擬態して地面を走り、初公開の光魔法イリュージョンで女王蟻さんの分身を作り、更に風魔法エアウォーカーも。
そこからはまるで女王蟻さんが分裂してそれぞれ別方向に飛んで行く演出を見届けて、光魔法リモートビューイングを使っても見えなくなるまで見届けました。
あ、途中からは皆さんと合流して唖然としている風を装ってましたから怪しむ人は誰も居なかったですよ。
こうして私とアルミラージュさんが見つけて発生した緊急依頼、アイアンアントの巣討伐は終了となりました。
女王蟻の逃亡というあまり良くない結果ですけど巣を壊滅させる事には成功しましたので、取り敢えずは緊急事態宣言は解除です。
勿論巣の中を調べていませんから完全に終わっては居ませんが、それは後日別の形で依頼が出されるとの事。
ランク9である私に出される依頼ではないので、今日の所は帰って良いそうです。
報酬については後日冒険者ギルドに訪れた時に貰えるらしいので、その時までのお楽しみですね。
「いやぁ、思ったより早く終わった良かったよー。サクラちゃんのお蔭だね」
「いえいえ。ちょっと便利な魔法道具を持っていただけですから」
「ちょっとではないと思いますわよ」
もう水は流し込まなくて良さそうと判断されましたし魔法の水樽も全て回収済みです。
「それにしてもアイアンアント討伐で犠牲者が二桁ってのは奇跡的な数字だね。まあ、女王蟻は逃がしちゃったけど」
そうなのです。
今回の討伐作戦での犠牲者、死者の数は32名で重軽傷者は60名ほどなので、参加者全体の5分の1程度で済みました。
過去のアイアンアントの巣討伐の場合、生き残りは戦闘に参加した者だけを限定すれば1割を切るそうですからかなり少ないという判断です。
でも、あのまま女王蟻さんと戦闘を続けていたら犠牲者はもっと増えていたでしょうし、今回はある意味当然の結果なのです。
「それにしてもサクラちゃんは間違いなく表彰ものだよね。アレだけの活躍をしたんだし」
「そうですわね。同じエルフとしても鼻が高いですわ」
女王蟻さんを逃がしたのは私ですし、称賛されても素直に喜べませんけどね。
でも女王蟻さんはもう二度と悪さはしないでしょうからある意味で討伐完了と思っておきましょう。
そうじゃないと罪悪感が半端ないですし、それにそんな事よりも私はお腹が空いたのです。
「ちゃんと女将さんは食事の用意をしてくれてますでしょうか?」
「はは、食い気が優先なの、サクラちゃん? でも確かにお腹空いたね。さあ、早く帰ろっか」
「はい」
「英雄級の活躍ですのに食事の方が重要なのですの? 信じられませんわ」
「サクラちゃんが英雄って何だか変だよねー」
変ってなんですか、と思いつつ、私は今日の晩御飯の事を考えながら帰路に着くのでした。
色気がないと思った人、後で裏に来るですきゅぃー!
お読みくださってありがとうございます。
蟻編はこれで終了で、次はやっとダンジョンに関わります。
引っ張り過ぎって言われそうで怖きゅぃー。




