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8-4

「アルミラージュさん、戦闘準備してください」


「え? いきなりどうしましたの?」


「何か高速で近寄ってきますよ」


迫ってくる敵意ある存在があるのに気が付いていないアルミラージュさんに注意喚起し、私はリモートセンスで相手を観察しております。


黒い甲殻に覆われた大きな存在で、獣が全力疾走するぐらいの速度でこちらに向かってきてますが、どうやって私たちを見つけたのでしょう?


確かにここは風上ですから匂いで気が付いたのかも知れませんが、それにしてもかなり距離が離れていたはずです。


じゃあ、視力が良くて目視発見されたのか、これも違うはずです。


大きいといっても元となる存在の生態からいって視力は良くないはず。


まあ、何にしろ敵意がある存在ですし、排除しない選択肢はありませんからやるだけなのですけどね。


「一体何が来てますの?」


木剣を準備し終えたアルミラージュさんがきょろきょろしてますが、私が答えるまでもなく見えてくる。


「もうそこまで来てますよ」


かさかさかさ、などと音が聞こえてきて草原といっても脛まで届く草が生えた地に8つの道が出来上がり、そいつは姿を見せました。


「ま、まさかアイアンアントですの!?」


「「「「「「「「キチキチキチ」」」」」」」」


「ウィンド」


襲ってきた存在の正体はアイアンアントと呼ばれる蟻の魔獣で、子犬ほどの大きさの魔物。


鑑定によれば何でも食べる雑食の魔獣で、ゴブリン以上の脅威とされています。


個体としての強さは一番小さい働き蟻であるワークアイアンアントでゴブリンと同程度とされており、小さいし地を這うので攻撃が当てづらく、そして硬いのが特徴。


硬いといっても石程度、十分硬い訳ですが、そんなのが高速で突っ込んできて、しかも強力な顎で噛みついてきますから大変危険な魔獣です。


ゴブリンと同程度とされているのは硬いのは甲殻だけですから薄いし軽いのでこん棒などで滅多打ちにすれば倒せるため、普通の人でも対処は可能です。


ただし、個体としてみた場合に限り、魔獣といっても蟻ですから当然の如く群れでやってくるので普通の人では対処不能だと思われます。


ここまでが鑑定結果による解説を参考にした考察なのですが、アルミラージュさんの驚いた表情からすると間違ってはないかと。


などと私は暢気に解説しているほど余裕があるのですが、それは近寄ってきても風魔法ウィンドで吹き飛ばして近寄らせないからで、先ほどからアルミラージュさんは木剣を振り回してがんばってます。


彼女の作る木剣はかなり硬いはずですが、それでも一撃で倒せるほどでもなく、近寄るアイアンアントを打ち払うだけになってます。


1匹だけなら振り下ろして倒せそうですが、複数相手だとそんな隙を見せるような行為はできないので大変そうです。


さて観察も終わりましたのでそろそろ私もやりますか。


でも、一度アルミラージュさんに余裕を持ってもらいましょう、きゅぃー。


「あなたは余裕そうですわね」


風魔法ウィンドである程度吹き飛ばしてから彼女と合流しました。


「剣は使わないのですか? それと魔法剣も」


「魔法剣を使う余裕がなかっただけですわ、魔法剣!」


「なるほど、まだそこまで使いこなせていないと」


「手足に魔法剣ですって!?」


手袋と靴に風魔法ウィンドの魔法剣を使用して攻撃力アップです。


この行為が驚かれちゃいましたが、格闘家は手足が武器なので出来てもおかしくないはずですよ?


近寄ってきた蟻たちにこちらからも近寄り、はしたないですけど蹴りを食らわし頭部を破壊。


飛び散る体液は魔法剣で風を纏ってますから掛からずにまずは1匹。


左側から来た相手には風魔法ウィンドで打ち上げて、左の裏拳で胸部を打ち抜き2匹目。


その隙にと迫ってきていた3匹目は振り上げていた右足で踏み付けて倒しました。


私が3匹倒す間にアルミラージュさんも1匹倒したので後4匹だけですし、相手の強さも解りましたから魔法で倒しちゃいましょう、きゅぃー。


1匹辺り2発の魔力弾を放ち、迫って来ていたアイアンアントを全て片づけました。


戦ってみた結果、私だとゴブリンとそう変わらない相手という印象ですが、アルミラージュさんが戦い辛そうにしてましたので、脅威度はゴブリンよりも上のようですね。


「うーん、こんなものですか」


「こ、こんなものって。アイアンアントの群れを一瞬で倒しておいて」


アルミラージュさんは驚いてますが、所詮蟻なのですからこんなものだと思う私は異常なのでしょうか?


確かに群れで襲ってくる集団は脅威ですが幻惑の森で何度も経験してますし、あそこの魔獣さんたちに比べたら大した事ない相手ですからね。


あ、ラストダンジョンと比べるのが間違いでした、きゅぃー。




その後納得いかなさそうな感じでぶつぶつ言うアルミラージュさんを無視しつつ、討伐証明部位になるか分かりませんが触覚を採取して街に戻りました。


薬草や魔力草は妖精魔法で作れば良いので時間潰しをすれば良いだけでしたし、アイアンアントに襲われたのはある意味ラッキーでした。


ただちょっと気になるのがアルミラージュさんの呟きの内容でして、アレが出たら一族総出で、とか、一族存続の危機、とか危険なワードが含まれていた事です。


私に何か言ってくる訳でもないので聞きませんでしたが、まあ、後で聞く事にしましょう。


とか考えてましたが、私が思っている異常にアイアンアントという存在は良くない事だったようです。




冒険者ギルドに戻ってきた私たちは、まだ昼前という事もあり閑散としたギルド内部を進み、受付へとすぐに辿り着きました。


この街の冒険者の大半はダンジョンに潜っており、魔石提出以外ではほとんどギルドにやってきません。


なのでダンジョン帰りである夕方や前日分を提出にくる朝方しか混まないのです。


その時間帯にやってきた事がない私はいつも空いているイメージしかないですが、混雑時は大変だそうですよ。


「あら、サクラちゃんとアルミラージュさん、もう帰ってきたの?」


「はい。魔力草が思ったよりも早く見つかりましたので」


「まあ! やっぱり群生地でもあったのかな? そろそろ教えてくれない?」


無いものは教えられませんので何時もの如くスルーです。


「今回は薬草が20束と魔力草が12束です。確認してくださいね」


「もう、教えてくれても良いのに」


カウンターに作っておいた薬草と魔力草を提出し、二ムさんが鑑定してすぐに報酬とポイントをゲットです。


アルミラージュさんはまだぶつぶつ言っていて私の後ろに居ますが、彼女は当然見つけていないので提出はなしですよ。


「ポイントは半々で良いのかな?」


「ええ、それで良いですよ。アルミラージュさん、タグを出して下さい。アルミラージュさん?」


「え? でも、私」


「気にせずどうぞ」


アルミラージュさんは何もしてませんが、蟻退治で実験、いえ、参考になりましたからおすそ分けです。


でも、報酬は渡しませんからね、勘違いしちゃだめですよ。


取り敢えずギルド証であるタグを提出してポイントを換算してもらい、報酬を受け取りましたので今日の用事は終了です。


この後ネルルの安らぎ亭に戻っても昼はウエイトレスの仕事は休みですから暇になってしまいましたね。


さてどうしましょうか。


「二ムと言いましたわね?」


「ええ、アルミラージュさん。何か御用ですか?」


「この街ではアイアンアントはどういう扱いですの?」


「アイアンアントですか。勿論危険度の高い魔物として取り扱っていますよ。もし発見でもされたら緊急依頼が発生しますね」


「え?」


「やはりそうですのね。実は街の外で襲われて撃退しましたわ」


「アイアンアントが出たのですか!?」


二ムさんは驚愕のあまりなのか、とても大きな声で叫んだものですから暇そうにしていたギルドの職員さんや暇つぶしに来ていた冒険者たちもこちらに注目しました。


「ほ、本当にアイアンアントだったのですか?」


「あ、一応触覚だけ持ってきましたよ。これです」


「これは!? 緊急! 緊急です! 全職員は災害級依頼発生に対処してください!」


それはもう蜂の巣を突いたような大騒ぎになってしまいまして、ギルド職員さん全員が大慌てで動き出しました。


私はというと良く解っていないのでその場で立って見ているだけでしたが、他の冒険者さんたちは慌ててカウンターに駆け寄り、受付嬢さんたちに質問してました。


「えっと、大事件発生、といった所ですか」


「あなた、本当に余裕がありまわすわね。アイアンアントの脅威を理解してますの?」


「いえ、まったく。倒すだけなら簡単でしたし。ただ、普通の蟻と同じ生態なら厄介だな、と」


「ただの蟻と魔獣であるアイアンアントを同列にして考えないでくださいな。アレだけ大きくて、でも、倒しにくい魔獣が数百数千と襲ってきますのよ? 小さな集落だったら一溜りもありませんわ」


あ、たしかにそうかも。


蟻は何でも食べる雑食ですし、私たちを襲った感じからすると人種を脅威と思っていないでしょうし、確実に人里に襲い掛かりますね。


そうなったら金属や鉱物以外は何でも食べるでしょうし、村レベルの集落なら一瞬で壊滅しそうです。


巣の大きさにもよりますが、数千から数万、巣の集合体だったら数十万の大きな蟻が攻めてきたら都市国家であるリファール王国でも危険です。


高い城壁に囲まれた街ですけど、蟻ですから気にせず登って来るでしょうし、対処を間違えたら確実にこの国は滅びますね。


「なるほど、理解しました。大きな蟻の群れは確かに災害ですね」


「ええ、そうですわ。私の森も一度襲われた事があったそうですが、その時は一族総出で対処しましたのよ」


森の中での戦いに慣れたエルフでも、森の中という蟻にとっては活動しやすい場所での戦闘は熾烈だったでしょうね。


森だけに火を使えないから余計に大変だったかも。


さて、そんな感じで災害級魔獣であるアイアンアントの危険さを理解した私たちですが、この後どうしたらよいのでしょうか?


私たちの前のカウンターには誰もいなくなりましたし、緊急依頼という事は冒険者全員で対処となりそうですし、離れる訳に行かないでしょう。


うーん、と考えていましたら二ムさんが走り寄ってきて腕を掴まれました。


「サクラちゃん、一緒に来てくれる?」




私とアルミラージュさんが連れていかれたのは2階にある会議室で、二ムさん以外の職員さんと老マスターさんが既にスタンバイしてました。


こんなところに連れてこられましたが、私たちに一体何の用事なのでしょうか?


「良く来たな、サクラ。それでアイアンアントを倒したそうじゃな。詳しく聞かせてくれ」


アイアンアントについて聞きたかっただけのようですが、それだったらあの場でも良かったと思います。


まあ、話しますけど。


話すといっても、どの辺りで遭遇したのか、数はどれぐらいだったか、他に見なかったかだけだったので、全て話しました。


「8匹だけか。おそらく斥候役のワークアイアンアントじゃろうな」


「斥候役ですか。アイアンアントは普通の蟻と同じ生態系を持った魔獣なのですね」


「そうじゃ」


蟻というのは女王蟻を頂点とした階級社会を持つ集団で、大半を占める最下層の働き蟻には様々な役割があります。


周辺を捜索する斥候役、獲物を襲う狩り役、狩り中に周囲を警戒する見張り役、狩った獲物を運ぶ運搬役、これら4職存在します。


働き蟻意外の蟻は雄蟻だけで、働き蟻の十倍近い大きさの蟻も存在し、彼らは狩り役も兼ねた女王蟻の守り手でもあります。


女王蟻は統率者ではなく、母という役割を持っていますが、何故か蟻というのは女王蟻が居ない場合、共食いを始めるなど集団内の協力関係を無くしてしまう性質を持ってます。


そして巣は地中や樹に作り、種類によって人里や辺境に居を構えているのが、蟻という昆虫たちです。


アイアンアントはというと地中に大帝国を築く種類の蟻と同じであり、名が示す通り硬い甲殻で覆われた魔獣。


ワークアイアンアントは鉄ほどではなく、石程度の硬さですが、雄蟻であるアイアンアントナイトは鉄の硬さを持つ甲殻で、しかも甲殻も分厚いので腕の立つ冒険者でなければ太刀打ちできない。


女王蟻に至ってはどれだけ成長しているかにもよるが、女王蟻として君臨し始めでも鉄よりも固く、今まで確認された中でも最大級まで育ったものはミスリル並みに硬い個体も居たそうです。


大きさはワークアイアンアントで子犬程度、アイアンアントナイトで3m近く、女王蟻は10mを超える巨体です。


「しかも女王蟻は巣の中にいるから退治するには巣に突入する必要があるんじゃ。一体どれだけの犠牲を払う事になるかもわからんの」


「緊急依頼という事ですが、どういった内容になりますか?」


「ランク9以上の冒険者は全員参加じゃ。もちろん国も動くがどちらかといえば防衛に回るじゃろうな」


「普段ダンジョンに潜っているランク8以上だったら巣に突入も解りますが、ランク9の冒険者は何をするのですか?」


「後方支援じゃな。倒した蟻たちが邪魔じゃからのう。とはいえ、サクラたちのように倒せるなら討伐部隊に入ってもらうがの」


「なるほど。ああ、緊急依頼の場合の報酬やポイントはどうなります?」


「役割によって違うの。まあ、それはそうと、サクラたちには巣を発見してもらう捜索隊に入ってもらいたいのじゃが」


「ちょっと待ちなさい、ドワーフ! なぜ私たちがそのような一番危険な任務に!」


「エルフの小娘は煩いのう。何、探すのに適した者はこちらで用意する。隠密行動が得意なエルフが最適と思っただけじゃわい」


「ぐっ」


えっと、何だか話がどんどん進んでますが、私としては別に蟻の巣探しをしても問題ないと思ってますよ。


そしてエルフって森の住人ですから隠れるのが得意と思われてるのですね。


いえ、老マスターさんとアルミラージュさんの感じからすると嫌味を言っただけのようにも聞こえますね。


ドワーフという種族はアース世界の物語などでは洞窟に住んでる頑固者って感じですけど、ファンタジア世界だと人里に住んでますからね。


エルフはイメージ通りに森の中で引き籠ってますけど。


兎も角、私たちは蟻の巣探しに参加する事になりました。


あ、報酬は銅貨20枚と高額なので、やっぱりかなり危険なお仕事のようですよ、きゅぃー。

お読みくださってありがとうございました。

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