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「なるほど、それで私の所に来たと」
「そうじゃ」
目の前でドワーフの老人と眼鏡を掛けた狐獣人さんが笑みを浮かべて睨み合ってます。
犬猿の仲とかそういうものではなく、お互いに似たところがある同族嫌悪みたいなものですね。
笑みの浮かべ方が一緒ですもの。
私は現在、女将さんと老マスターさんと共にこの街の商業ギルド本部に居ます。
何故そのような場所に居るかといえば、老マスターさんから同行を頼まれたからです。
訪問理由はフードコート計画、と私は言ってますがその話をしに来ました。
ちゃんと話しておかないと色々面倒な事、食材を買えなくなるとかが発生しますから必須事項です。
私を同行させているのは説明させるつもりなんでしょうが、正直女将さんのお店に迷惑が掛からないなら冒険者ギルドの事はどうでも良いのですけどね。
そっちの方が上手くいきそうだから、という理由で老マスターさんへは提案してみましたがすごいやる気になっているようです。
2日間やってみた感じだと細かい修正は必要でしょうが、概ね問題なさそうでしたし。
なので商業ギルドへやって来たのですがギルドの顔役の1人と会う事になりました。
いくらこの街では有力者の1人である老マスターさんでもアポイントなしに相手方のトップとは会えないようですね。
もしくはその顔役の人が実質的なトップなのかも知れませんが。
そして応接室で待っていると現れたのが狐ぽい尻尾を生やした青年で、眼鏡が異様に似合う切れ者ぽい雰囲気の獣人さんでした。
「お待たせしました。ドラン老、本日はどういったご用件でしょうか?」
「何故ベントが来ないんじゃ?」
「ベント殿は現在外出中ですよ」
「それなら受付でそう言わんかい」
「行き違いだったのでしょう、お詫びします。トップの在席確認は今後の課題ですね」
「ふん、見え透いた嘘を言いよって」
この時狐獣人さん、鑑定結果ではフェリクスさんとおっしゃる31歳の方は笑みを浮かべました。
この顔役さんもそういう系統の人かぁ、と思わず老マスターさんを見てしまいました。
顔役さんは私の動きにも注目しているようで、なんだかやり難い人だなというのが第一印象です。
なお、女将さんは顔役さんが嫌いなのかあまり良い顔をしていません。
「まあ、良いわい。話と言うのはな」
さて、老マスターさんから訪問理由を説明し、顔役さんは口を挟んだりせずに聞くだけに徹してます。
ただ所々で目が動く、といっても注視してなければ気付かない程度ですが、興味のある内容だと思います。
そりゃあ上手くすれば大儲けできますからね、商業ギルドが総取りとかも狙えますし。
そして今回の提案を聞き終えた顔役さんは笑みを浮かべました。
「宜しいのではないでしょうか。色々と詰めていかなければいけない所もあるようですが。そのあたりはこちらで対処しますよ」
「おいおい、何を言っておるんじゃ。これはこちらが主導でやるからそっちは知っておくだけで良いのじゃぞ?」
「失礼ですが冒険者ギルドの管轄外なのでは? こういう話は私どもの分野です」
「それはそうじゃな。だがワシらがやっても問題あるまい」
「確かに問題はありませんよ、法的には。ところでこの話はどなたの発案ですか? 内容をお聞きする限りネルルの安らぎ亭からと推測しますが」
「それがどうしたのじゃ?」
「でしたら私どもは店主であるネルルさんとお話するだけですね」
「ぐっ」
あー、やっぱりそう来ますよね。
私が冒険者ギルドで最初に話をした時も、一番のアドバンテージは女将さんの存在でしたし。
何せ女将さんのお店でやる事なのですから。
さて、この状況をどうやって覆すつもりなのでしょうか?
私は完全に第三者の立場で聞いているだけでした。
あ、このお茶美味しいです。
「ネルルさんはどう思われます?」
「私かい? 私はどっちでも良いねぇ。確かに冒険者が関わってくればやり易くなるのはこの2日間で分かったし」
「そうですね、お聞きしている限りでは良いアイデアだと思います。冒険者の価値をしっかり利用、失礼、この街の特色を活かした素晴らしいものです」
「だったらやっぱり冒険者ギルドがじゃな」
「ですが、あくまでもアイデアであって冒険者である必要はありませんし、冒険者の方々にお願いするとしても色々方法はありますよ。例えば直接依頼するとか」
「なっ!? ギルドを通さないつもりか!」
「冒険者ギルドに収める手数料分も専属契約料に入れれば了承してくれる方は多そうですが?」
「そ、それは」
「別に今までもそのようにしてきてますが」
なるほど、専属契約ですか。
冒険者はギルドで発生した依頼以外でも直接依頼主と交渉する権利ぐらいありますよね。
そうでなければギルドの支店や出張所がない辺境の村で急な依頼とか受けれませんものね。
冒険者ギルドもそのあたりを考えて、事後承諾の形での依頼制度とか作れば良いのに。
多分、商業ギルドや貴族あたりから妨害されて実行できそうにないですが。
しかし、専属契約するような冒険者ってランクが上がらないから若くて質の良い人は集まりそうにありません。
どちらかと言えば先日の悪漢たちのような人たちや、引退を考えている人が契約しそうなイメージがあります。
後者だったら問題ないんですけどね。
「では、お話は分かりました。ネルルさん、後日お話を詰めましょうか」
「ま、待て、フェリクス」
「何でしょう?」
「発案者はこのサクラじゃ。冒険者であるサクラが出したアイデアじゃ。だからこの娘と話すのが筋じゃろう?」
あ、もうギブアップですか、頼りないお爺ちゃんですね。
お金儲けの嗅覚は鋭いのにそれを活かせない人のようですし、仕方ないですかね?
「ほう、そうですか」
折角メイドスキルの隠密によって気配を殺してましたから私の事を忘れかけていたのに、顔役さんは私に注目しちゃいました。
えっと、面倒ですし帰ってもよいでしょうか?
「失礼、お嬢さん。お名前をお伺いしても?」
「フェリクス、まずは自己紹介からしな。順序が逆だろ」
「そうでしたね、これは失礼しました。私はリファール王国商業ギルドに所属しているフェリクスと申します」
「ご丁寧にどうも。私は冒険者のサクラです」
「相当な実力者とお見受けしますが冒険者ランクはどれぐらいですか?」
「先日冒険者になったばかりです」
「おや、そうでしたか。それにしても」
はい、それは不思議に思うでしょうね、鑑定が防がれたのですから。
この顔役さんが掛けている眼鏡は魔法道具のようで簡単な鑑定、レベル4以下の効果があるようですからね。
私の隠蔽スキルで弾かれてちょっと驚いた顔をしてましたし、相当焦っていると思いますよ。
名前を聞きながら鑑定を仕掛けるとか中々面白い事をする人です。
あ、笑えないって意味ですよ?
しかしそんな魔法道具を持っているから31歳の若さで顔役なんてやれてるんですね。
家名もあるようですし、どこかの豪商か貴族の子息さんなのかも。
これは面倒な人に目を付けられちゃったかな?
「おい、フェリクス。話がないならあたしらは帰るぞ」
「ああ、いえ、失礼しました」
いや、そのまま帰らせてくださいよ、老マスターさんは困るでしょうけど私と女将さんは特に困りませんから。
「ごほん。サクラ嬢が発案者だというのは本当ですか?」
「ああ、確かにサクラが考えたけどもう冒険者ギルドが絡むように進めてるぞ私の店は」
「別に冒険者である必要はないのでは?」
「なんだ? 商業ギルドのお抱えが手を貸すのかい?」
「それも一つの手ですね」
「それだと割りに合わんじゃろ」
「それはネルルさんのような場所提供店舗に負担していただければ」
「それでやる馬鹿はいないんじゃないかい?」
「そうでしょうか?」
「私は少なくともしないし、それを聞いた他もしないだろうね」
「私どもがその場合どういう手を使うとお思いです?」
まあ、そうなったら商業ギルドは流通を操って店舗に卸さなくなりますよね。
なんだかイラっとしてきましたね、この顔役さんに。
女将さんに対する表情が勝ち誇ったものなのが特に気に入りません。
老マスターさんはどうでもよいですけど、ここは口を挟みましょうか。
「そんな事をしたら困るのは商業ギルドでは?」
「どうしてですか?」
「この街の商売人たちから見限られますよ。私ならそうしますけど」
「ふふ、お嬢さん。この街で商売をする限り商業ギルドを通さないとやっていけませんよ?」
「そうでしょうね、短期間だけなら」
「何ですって?」
「簡単な話ですよ。商業ギルドがやっている事を別の組織が変わりにやれば良いんです。何なら貴族とか」
「なっ!? そんな事になったらこの街の流通がストップして国が」
「ああ、でしたら国王さんに話を振れば良いかもしれませんね。国策として献上しても面白いかも知れません」
「そ、そんな事をどうやって」
「この国の王は元冒険者なのでしょう? だったらギルドマスターであるドランさんが伝手ぐらいあるかと」
「うむ、そうじゃ。ワシなら話が通せるな」
「商業ギルドの存在意義をなくすというのですか! そんな事許されると」
「商売人たちが攻撃を仕掛けられたらですよ。誰だって自衛ぐらいすると思います」
「ぐっ」
脅しを掛けるのはよいですけど、それって自分に手がないと言ってるようなものじゃないですか。
こうやってカウンターを食らった場合のダメージが大きいのですから、そういうエース札は取っておかないと。
うーん、商売人の元締めである商業ギルドですから凄い人が相手かと思ったらそうでもなかったですね。
もしかしたら鑑定眼鏡で今まで何とかしてきたのかな?
商売する人にとって鑑定スキルって神スキルでしょうしね。
「あ、そうそう。私はアイデアを冒険者ギルドに販売しましたから私と話しても仕方がありませんよ」
「おい、サクラ!」
「あとは冒険者ギルドと商業ギルドで話し合ってください。女将さん帰りましょうか」
「そうだな。じゃあ、ドラン爺、明日以降の依頼も出しておくからよろしく頼むよ」
「む、むぅ」
さて、目の前にやり込められた狐さんと捨て置かれたお爺ちゃんが居る訳ですが、そんなの知った事ではありませんとばかりに私たちは帰る事にしました。
だって夜の準備もありますからね。
「いやぁ、あの2人の顔ときたら笑ったなぁ、特にフェリクスのやつの悔しそうな顔が。いい気味だよ」
女将さんは帰り道でも終始ご機嫌で、よっぽど顔役さんが嫌いなんですね。
理由を聞いてみると丁寧な口調なのに上から目線な感じが前から嫌いだったようです。
エリートぽい感じの人って敵を作りやすいからそんなところなのかな?
私も好きではないですし、できれば関わりたくない人です。
まあ、後は老マスターさんが頑張れば良い事ですから私はもう関係ありません。
それよりも私っていつまでこの件に関われば良いのかなーと思う次第です。
もしかしてまだまだ関わらないとダメなのでしょうか?
あ、今日はきゅぃーって一切言ってなきゅぃー。
ぐっ、最後の最後で噛みました、悔しいです。
お読みくださってありがとうございます。




