表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/80

7-7

「昼間は楽なのに忙しい、なんて不思議な体験だったなぁ」


「ホントホント。でも、あれだったら新人でも出来そうよね」


「最初に水を持って行って、後は片付けと追加注文の飲み物を対処するだけだものね。追加はそれほど多くないし」


「私が新人だった頃にこれがったらミラ先輩に怒られずに済んでたのにー」


「ミゥは多分怒られてたわよ」


「えー、酷い」


「あんたらいつまでくっちゃべってるんだい? お客さんが呼んでるだろ」


「「はーい」」


女将さんのお店、ネルルの安らぎ亭の夜間営業は本日も料理なし、お酒のみで持ち込み可でやっております。


昨日の夜と同じスタイルなのですが、今日は女将さんと2人の合計3人で回してます。


1人は人間のケイトさんで、この人は住み込みのミラさんと違って通いで働いている少女です。


落ち着いた雰囲気を醸し出す少女で、あまり目立たない、でも微笑まれたらドキッとする隠れた美少女といった感じの人。


手が出さない高値の花ではなく、近所に居る可愛い娘さん、そんな感じです。


ちなみに計算がとても得意でネルルの安らぎ亭で一番商売人のような感覚を持った人でもあります。


そして昼も働いていたミゥさんという小人の少女です。


冒険者のミミさんも小人でしたが、この種族の正式名は人種小人となりまして、成長が幼児期で止まって成体でも人間の幼児期程度の身長しかありません。


なので私の方がお姉さんに見える素晴らしい種族なのですきゅぃー!


すみません、嬉し過ぎて噛みました。


この小人さんたちですが、元々は草原などで遊牧民として生きていた種族で、小さい体躯を活かした敏捷性と視力の良さ、楽天的という特徴があります。


そんな人たちですから長い間同じ場所で生活する事を嫌い、旅人になる事が多いそうです。


今目の前でちょろちょろという表現がぴったりな動きを見せるミゥさんも2年ほど前にこの街へやってきて、冒険者になったそうです。


ただし冒険者になったのは良いけれど、リファールではまったくの新人には優しくない依頼がほとんどなのでこの酒場でウエイトレスとして働いてます。


住まいは住み込みではなく馬小屋生活をしているらしく、そちらの方が性に合ってるんですって。


私には信じられない事ですが、元遊牧民だけに馬と一緒に寝た方が安心するそうですよ。


冒険者なのに冒険しない、という点では私も一緒ですけどね!


「今日は嬢ちゃん働かないのかい?」


「はい。今日はお二人がいますので」


「そっかー」


そして私は現在カウンターに1つだけ用意された椅子に座って食事中です。


そんな私の周りにお酒だけ飲むのも詰まらないと思ったのか、1人でやってきたお客さんが集まってたりします。


確かにカウンター席はお一人様専用ですからね、可笑しくはないんですが。


「昨日も思ったけどなんでフードを被ったままなんだ?」


「そういやそうだな」


「流石に暑いだろ」


「えーっと、私の髪色が珍しいので」


「おお、そうなのか。ちょっと見せてくれよ」


メイドスキルの隠密が仕事をしてくれない件について考えていましたら、酔っぱらったおじさんが私のフードに手を伸ばしてきました。


その手を弾くのは簡単ですが、ここで暴れたら女将さんに迷惑が掛かるなぁ、と思い躊躇していたらケイトさんが助けに入ってくれました。


「もう、その子はうちの宿のお客さんなんですよ。駄目じゃないですか」


「いやぁ、でもさケイトちゃん。気になるじゃないか」


「気になるからとおじさんは服を脱がされて平気なんですか?」


「う、それを言われるとよ」


「別に見せるぐらい良いじゃんか」


「「「そーだ、そーだ」」」


「そういう問題ではありません!」


などとケイトさん対酔っ払い集団という構図になり始めた時、お店の扉が乱暴に開かれました。


「おい、なんだ今日は? なんで椅子がないんだよ」


「へい、アニキ。今日は何でも臨時でお酒のみだそうで」


入ってきたのは強面で背の高い猿系の獣人さんで、お供に腰の低い犬ぽい獣人さんが付いてました。


猿というかゴリラぽい感じですからゴリラさんにちょっと似てますね。


あの人は紳士的に振る舞いますから受ける印象は全然違いますけど。


「酒だけかよ。ちっ、しゃあねえな。だったら女でも付けてもらわないと割りに合わねえな」


ゴリラなのに厭らしい笑みを浮かべて突然のお客さんに虚を突かれて固まっていたケイトさんに近寄りました。


おお、これはもしかして酒場にやってきたチの付く自由業さんイベントでしょうか。


などと思う余裕のある私ですが、それはこのお店にはこわーいお姉さんが居るからだったりします。


「あんた何うちの子に手を出そうとしてるんだ?」


「なっ!? は、放せ!」


ゴリラが伸ばす手を掴んだ女将さんはマンガだったら怒りマークが浮かぶほどの怒気をまき散らしてました。




「お、覚えてやがれ!」


「ア、アニキ、早く治療院に行かないと」


「一昨日きやがれ!」


はい、その後は女将さんの握力によって右手を潰されたチの付く自由業さんは、テンプレなセリフを吐いて撤退です。


見事な流れだなぁ、と感心して私は見ていたのですが、私の周りに群がっていた酔っ払い集団は酔いが醒めたのか大人しくなりました。


あのまま騒いでいたら同じような目に遭ってたかもしれないと思ったらそうなりましよね。


何事もほどほどが良いって事です。


「ありがとうございます、女将さん」


「気にするんじゃないよ、ケイト。それにしてもあいつら何だったんだろうな?」


「そうですね、初めて見ました」


首を傾げた女将さんたちは仕事に戻っていきましたが、あの人たちはどうやら一見さんだったみたいですね。


こういう酒場の従業員って常連さんの顔を忘れないと言いますし、間違いないでしょう。


そしてそんな私の考えに補足してくれたのは、大人しくなった常連さんたちでした。


その内容にちょっと興味があるので私も混ざる事にしました。


「ありゃあこの街に来たばっかりの冒険者だろうな」


「ああ、王選が近いからな」


「つーことはここもしばらく来ない方が良いかもなぁ」


「えっと、王選が始まるとこのお店が出入り禁止になるのですか?」


「ああ、違うよ嬢ちゃん」


「ここは安いから普段は俺たちみたいなやつらが集まるんだ」


「でも王選となるとこの街にやってくる冒険者たちが増えるんだよ。そうなると冒険者御用達な酒場の数が足りなくなってな」


「それでここにも来ると」


「そうそう。後宿の方にも泊まるからなぁ。さっきみたいなバカが増えるんだよ」


なるほど、なんとなく分かってしまいました。


このお店は値段が安いから冒険者が来ても駆け出しぐらいですし、普段の客層が一般の人になっている。


でも王選が始まる前から一攫千金や貴族になろうと野望燃える冒険者がこの街に集まるから、ここにもそんな冒険者が流れてきて荒くれ者が増えちゃうんですね。


基本的に冒険者になろうとする人たちは荒くれた人が多いですからね、何かを倒してお金を得ようとするわけですし。


私のように別の目的があって冒険者になる人やミゥさんのように旅に便利だからとなる人は稀だそうですよ。


そして普段はこのお店には女将さんが居るので荒くれ冒険者たちは来ないけど、女将さんの事を知らない外から来た荒くれ冒険者がやってくる、という事らしいです。


なので王選が始めると一般の人たちは集まらなくなるそうです。


「うーん、迷惑な人たちですね」


「そうだぜ、まったく。冒険者ってのは」


「おい、やめとけよ冒険者の悪口は」


「おっと、そうだった」


「え? なぜ言っちゃダメなんですか?」


「そりゃあこの国の王は元冒険者だし、冒険者あっての街だからな」


「それに女将さんも元冒険者だし、冒険者の悪口を言ってると追い出されるんだよ」


「そうですか。私も気を付けますね」


「そうしろそうしろ。って、嬢ちゃんも冒険者じゃないのか?」


「あ、そうでしたね」


私のうっかりきゅぃーに常連さんたちにも笑顔が戻ったので結果オーライですね。




などと楽しい酒場の一風景みたいな感じで終われば良かったのですが、そうが問屋が卸せないとばかりなテンプレがやってきました。


だからテンプレは、と小一時間言いたくなりましたが始まってしまったものは仕方がありません。


と、言いましてもこのお店ではなく、広場の方なんですけどね。


私も食事を終え、そろそろ部屋に戻ろうと動きだしたあたりで外が騒がしくなっているのに気が付きました。


部屋に戻る序にちょっと見てみようと外に出てみたら、なんと広場にいる人たちが慌てて逃げ惑う光景が。


悲鳴や怒号なんかも聞こえますし、どうやら喧嘩でも起きているようですね。


光魔法リモートビューイングを使って確認してみたら、屋台の幾つかが壊されており、暴れているのは先ほどの冒険者ぽい人たちと強面のおじさんたちです。


んー、これって地元のチの付く自由業さんたちと意気投合して屋台の店主さんたちに難癖でも付けたのでしょうか。


「ん? 誰かが暴れてるのか?」


「あ、女将さん。広場で何人か暴れてて屋台を壊してるみたいですね。警備兵とかは来ないのですか?」


「裏の奴らが絡んでたら来るのが遅くなりそうだな。ちっ、バカな事しやがる」


女将さんは腕まくりをして出ていきましたので私も付いて行く事にしました。


もう外は暗いのでそれほど人が居る訳はないので逃げ惑う人たちが居ても移動の邪魔になりません。


現場近くまですんなりいけたのですが、その付近に誰も近寄れないようにする為か強面おじさんたちが立ちふさがりました。


「おい、ここからは通行止めだ」


「ここは公共の場だから邪魔される言われはないね、退きな」


「うるせぇ。ばばぁはげぶらっ!?」


「何しやげぶっ!?」


「ふん、大した事ないねぇ」


「いきなり暴力奮って大丈夫なのですか?」


「あ・・・まあ、こいつらが悪いから」


女将さんの前では壁にもなりませんでしたね。


どんどん現場に近寄っていくと、屋台の店主さんたちが倒れてまして数人のチの付く自由業、もう悪漢でいいですよね、悪漢が屋台を斧やハンマーなんかで壊してました。


それを眺めて嫌な笑みを浮かべているスキンヘッドな悪漢が色々指示を出し、酒場に来た腰の低い犬獣人がへこへこしてます。


その犬獣人がアニキと言っていたゴリラぽい獣人さんは屋台を壊すのに混じっているようですね。


「あ、私は店主さんたちを見てきますね」


「ああ、頼むよ」


闇魔法ハイドシャドウを使って誰にも気付かれる事なく倒れた店主さんたちの所へ移動し、診察開始です。


顔が腫れたり衣服が血で汚れたりしてますからかなり酷い目に遭ったようですね。


呻き声が聞こえますから死んではいないでしょうし、水魔法で回復しておきましょう、えい。


鑑定結果でも状態異常が見られませんし取り敢えず問題なし。


でも血糊や泥で汚れてますから洗浄魔法でキレイキレイにしておきましょうか、サービスです、えい。


うんうん、これでただの眠っている人です。


さて、他にも倒れて動けない人が居るので治療行為を続けていましたが、現場では女将さんが大活躍してました。


屋台を壊してヒャッハーしている悪漢たちに無造作に近寄り、背後から蹴りを食らわして吹き飛ばし、襲い掛かってきた相手に鉄拳のカウンター。


メキョ、グギャ、ドゴッ、とかBGMが流れてますが気にしてはいけないでしょう、人が飛んでたりするのもね。


「くそっ、お前何者なんだ!」


「あ、アニキ、あの女ですよ! 例の酒場の!」


「ああ? そうかお前がそうか!」


「何なんだいあんたらは?」


「良くもまあ俺のクランのメンバーをやってくれやがって。お前の店がどうなっても知らないぞ?」


「へぇ、冒険者なのかい。まあ、だからと屋台を壊すほど暴れていい理由にはならないね」


「こいつらは俺たちに売れないって言ったんだぞ?」


「売る側の権利ってものを知らないのかい? よっぽど」


などとやり取りしているようですが、私は関係ありませんとばかりに治療行為を続けてます。


演劇とかだったら黒子さんみたいな感じですね。


あ、でもハイドシャドウも他の魔法を使うと切れますよね、これって隠密を超えて動いてればそのうちばれちゃう?


「あ、お前あの店で居たやつだな」


などと暢気に構えていたらやっぱりばれました、あのゴリラぽい猿獣人に。


この人は女将さんが暴れだした途端に隠れていたのですが、私を見つけて出てきました。


「おい、お前。大人しくし」


「あ、ゴリラ」


「誰がゴリラだあああああああ! もう容赦しねぇ!」


容赦された覚えなんてないですし、セリフとしては下手に出てればが付くと思います。


どっちにしろこの手の人たちには何を言っても無駄なんでしょうけどね。


私を乱暴に捕まえようとして襲い掛かってきましたからやっちゃいましょうか。


図体は大きいですけど隙だらけで動きも遅いですし、軽く捻っておきましょう、えい。


「なっ、すばやっぐえ!?」


声だけでは分からないと思いますのでやった事を解説しておきます。


突っ込んできた相手を躱して風魔法ウィンドを2つ同時に発動。


相手の足元と背中に向けて同時ですからくるんっと気持ち良いぐらいに綺麗に回って背から落ちました。


ほら、柔術家が触らずに相手を倒すアレですよ、アレ。


アレを再現したくてやってみたのですが意外と上手くいきました。


立ったままだとそれっぽくないので腕も動かし、今は投げ終わった姿勢で止めてます。


うん、決まりました!


私は実験が成功した喜びに浸っていたのですが、気が付くと周りが静かになってました。


あれ、何だか私を注目してますね。


どうしたんでしょう?


「お、おい、サクラ。今何をしたんだ?」


「え? 投げただけですけど」


「投げただけって、触ったように見えなかったんだが」


「ああ、私、魔法だけじゃなく体術も得意ですから」


この後、誰かが呼んだ警備兵たちが集まってきて悪漢たちは逮捕され、彼らは屋台を弁償する事になり、冒険者資格を剥奪されました。


後日彼らみたいな質の悪い冒険者が集まる理由を聞けたのですが、この街では冒険者は貴族や王並みに偉いと勘違いしてやってくる者が多いそうです。


成功した冒険者はそういう扱いみたいですし間違ってはいませんが、全冒険者がそういう訳ではないんですけどね。


まあ、馬鹿だから馬鹿な事をするという事で。

お読みくださってありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ