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土曜の朝に投稿が定番になってきましたね。


いえ、そんな事もないですか。

美味しい料理と気風の良い女将が売りのネルルの安らぎ亭。


元冒険者の女将の方針もあり、駆け出し冒険者などのランクの低い者たちが泊まりやすい価格設定。


お陰で中々お金が稼げない駆け出し冒険者でも馬小屋ではなく宿に泊まれるとあって人気の宿屋となっています。


ただ、それでは経営が難しいので宿泊客以外にも食事を出す食堂を1階部分を改装して作り、お客さんの要望で出し始めたお酒がヒットして夜は酒場として稼働しているそうです。


何故このお店の料理やお酒がヒットしているかといえば、元冒険者であった女将さんが現役時代に手に入れた魔法道具で冷蔵と保温が可能だからです。


暖かい料理があまり待たずに食べられ、冷えた小麦の発泡酒エールと暖かいツマミのセット、他のお店にはないこの売りが十数年と繁盛を続けている要因だそうですよ。


そして此度ソーサリアン魔法国製の魔法コンロを導入するにあたって店内を一斉清掃する事になり、私が依頼を受けた、というのが今回の経緯です。


まさかコンロまで魔法道具でとはやっぱり興味がありますね、ソーサリアン。


剣と魔法の世界で、魔物とか溢れているなら生活関連よりも武具関連の魔法道具が優先されていそうですけど、どうやらちゃんと先を見れる人がいるようです。


確かに技術の発展には戦闘行為が一番切っ掛けになりやすし、実地試験がやり易いと思います。


だから短期的な目線で見ると武具関連、要するに兵器開発の方が重要視されますが、長期的な目線で見ると生活関連で開発して国力を上げた方が良いですからね。


アース世界でも近代ではそうでしたし。


もしかしたら私以外の転生者が絡んでいるのかも知れません。


何だかこのお店の事から外れちゃいましたが、もう少し詳しく解説しておくと、ここは2階建の本館と中庭を挟んで従業員用の別棟があるそれなりの敷地面積を持つ宿屋です。


本館は1階が酒場、2階が宿屋になっており、宿泊は2人用が1部屋、4人用が2部屋、雑魚寝の大部屋が1部屋という部屋割りです。


料金は2人用で食事1回付いて銅貨7枚、4人用で食事1回付いて銅貨12枚、大部屋は食事なしで1人に付き銅貨1枚という価格設定。


酒場の方は料理を1つ頼むのに銅貨1枚で、魚料理か肉料理を選べて固いパンが2個とスープが付いてきます。


お酒はエールかミードのみで1杯銭貨2枚でツマミが一品、2杯目からは銭貨1枚で追加が頼めるというシステムです。


私は酒場に初めて足を踏み入れましたから他のお店の値段設定が解りませんが、女将さんの話ではかなり安いそうです。


値段だけで見れば変わらないのですが、お酒に関しては冷えたものを飲もうと思うと銭貨3枚はするらしいですからね。


料理に関してもオーダーしてから作るので時間が掛かったり、窯の火を落としていたらそもそも料理が頼めないのが当たり前だそうです。


そう考えるとこの店の凄さが解りますし、女将さんの駆け出し冒険者優遇の意気込みが伝わってきます。


ある意味変なお店に泊まる事になったなぁ、と思いつつ考察しているのですが、現在私は酒場のカウンターで食事を取っている所です。


「おーい、女将。酒はまだかー」


「もうちょい待ってくれよ。ミラ、まだ魔力は持つかい?」


「もうそろそろ尽きそうです」


「そうか。だったらミラは接客だけに集中してこっちは私がやるよ」


「解りました」


今名前のでたミラさんとは猫系の獣人さんで、このお店のウエイトレスさんです。


獣毛に覆われた獣人さんが料理とかを出すお店で働いているのにはびっくりしましたが、この街ではそういった事は気にならないみたいですね。


まあ、ミラさんの場合は愛想も良いですし、猫の着ぐるみが接客してくれると思うと私も嬉しいです。


お客さんの中にも獣人さんが混じってますし、どうやら人気があるようですね。


先ほどから仕切りに口説かれているようですから。


お触りは禁止のようで、誰も手を出していないのは元冒険者である女将さんが怖いからだそうです。


こそっとミラさんが教えてくれました。


「あー、もう。オーダーが解らなくなってきたよ」


先ほどからどんどんお酒のオーダーが入ってきて、訳が分からなくなってきているようですね。


ファンタジア世界では製紙が発達していないのでオーダー表とかが無いようですし、完全に店員の記憶力任せのようです。


「女将さん」


「何だい、サクラ? 今ちょっと手が離せないんだが」


「表でやれば良くないですか?」


「ん? どういう事だ?」


「お酒はエールかミードだけですよね? だったら今日はツマミなしに限定してしまって客席の真ん中でお酒を用意してはどうでしょう?」


「・・・なるほど。それはいいね!」


どうせ料理の注文がなく、お酒を飲むだけのお客さんなのですから早く渡せるようにした方が良いですからね。


どんどん飲んでお金を落としてもらう意味で。


「あと、持ち込み可能にして外の屋台で買った物を食べてもらえば良いんですよ。それの方がお酒が進むはずです」


「ああ、料理やツマミをお客さんが勝手に用意するっていう事か。まあ、今日はそうするか。いや、今後もありか」


私の提案を気に入ったのか女将さんは厨房から出て来てお客さんたちに大きな声で説明し始めました。


お酒はいつも通り出すからツマミは外で買って来い、この提案にお客さんたちは最初唖然としていましたが、それはそれでありか、と勢いよく外に出ていきました。


「ミラ、そう言う事だからこっちに機材を運ぶよ」


「はい」


私は忙しそうに機材を運ぶ2人を尻目に、最後のパンを頬張るのでした。




その後客席中央に出来たサーバーが稼働し始め、どんどんツマミを購入してきたお客さんが戻ってきて酒場が盛り上がっていきました。


気が付くと立ちながら飲んでいるお客さんもちらほら増え始めて、本来70名ほどしか席の無いはずが、おそらく90人ぐらいのお客さんがいます。


これはもう席に座って飲んでられない、その場所が無いと、椅子を全て壁際に寄せ、立ち飲み屋状態になってしまいました。


そうなると大変なのがオーダーされたお酒を冷やし続ける女将さんと、お酒を運んでコップを回収するミラさんです。


お酒は大量に用意してあったので大丈夫なのですが、それを処理する人手が足りないし、コップの数も有限です。


そのうちいちいち洗ってから提供するとか出来なくなり、同じ人が同じお酒を頼むならそのまま使うとかし始めました。


うん、元日本人な私にはとても信じられない光景です。


「そういや嬢ちゃんはこの宿に泊まってるのか?」


「はい」


「じゃあ、冒険者なのか。まあ、この店は駆け出しには優しいからな。良い店を引き当てたもんだ」


「ほんとにそうだよな。あと女将さんは元冒険者だから色々相談に乗ってもらえるぞ」


「そうですか、それはありがたいですね」


なお私はローブを被っており、桜色の髪を完全に隠しております。


酔っ払いに絡まれたりしたら嫌ですからね。


「ええい、あんたら頼み過ぎだ! いくら何でも魔力が持たねーよ!」


「女将が魔力切れとか、魔王でも出ない限りあり得ないって」


「あんだと? おい、お前が魔力を注いで自分でやるか?」


「え、いえ、すいやせん」


うん、流石に100近い人数のオーダーだとMPがどんどん消費されて足りなくなりますよね。


先ほどから見ているのですが、どんどん女将さんの魔力が小さくなってますし、疲労が溜まってきているようですね。


流石にこの状況は黙って見ている訳にもいかず、私が言い出した事での忙しさなのですから手伝った方がよさそうです。


私は話し掛けて来ていた男性2人に会釈すると女将さんのところへ移動しました。


「お手伝いしましょうか?」


「サクラか。いや、流石にそれはな」


「私、これでも魔術師ですから魔力は豊富ですよ。扱いも慣れてますし」


「そうか、じゃあ頼むよ。やり方は解るかい?」


「ええ、先ほどから見てましたし」


さて、それでは冷やす魔法道具を扱ってみましょうか。


その魔法道具なのですが、依然私がコンテラクト王国で鑑定した魔法道具と規格が同じ物のようで、扱いは比較的簡単な物でした。


「これで良いですか?」


「ああ、ばっちりだ。って、なんかコップが綺麗になってないか?」


「序に魔法で綺麗にしておきました」


「そんな事まで出来るのか。じゃあ、それもお願いしてよいかい?」


「ええ」


さーて、それではメイド妖精サクラの華麗なる家事スキルを見せちゃいますよ!




それからの私は女将さんとミラさんが受けて来たオーダー通りにコップを洗ってお酒を冷やすマシーンと化しました。


途中から魔法道具を使うよりも直接水魔法クールを使う方が早い事に気付き、1台しか魔法道具が無いのに1度に3杯分冷やせるようになりました。


本当はもっと多く出来るのですが、これ以上やると処理が早過ぎて疑問に思われるでしょうし、オーダーよりも多く用意するようになりますからね。


そうやって落ち着いてくると今度は私にもお酒を運んで欲しいという意見がお客さんから出始め、配膳の方も手伝うようになりました。


ツマミの用意をしなくて良くなってもゴミの片づけとかはこっちがやりますからやっぱり人手が足りないのですよね。


「えっと、流石にお客さんを覚えていませんし、どこに運んで良いか解りません」


「あー、そうだよな」


「そうですね。でしたら奥のテーブルから番号を振り分けましょう」


「お、なるほど。じゃあ、奥から1でいくか。おーい、ミラ。テーブルで1番奥が番号1、あとはそれに続いての番号付けだ」


「解りました、女将さん。じゃあ、3番さんミード2つです。サクラちゃん指名ですよー」


「早速だな。じゃあ、頼むよ」


「はい」


まあ、そこからは私と女将さんが交互に魔法道具を使い、コップの洗浄は私が纏めてする事になり、営業時間が終わるまで働きました。


前世でもアルバイトとかやった事が無かったので接客というものを初めて体験しましたが、結構楽しかったです。


人付き合いが苦手だった私ですが、ファンタジア世界に転生して色々な人と出会って変わったからそう思えただけかも知れませんが。


最後のお客さんが退店して入口を閉め、女将さんはにこにこ顔で振り向いて上機嫌で褒めてくれました。


「いやぁ、サクラのお陰で今日は儲かったよ」


「本当ですね。これだけのお客さんが来たのは初めてですよね」


「客単価は低そうですけどね」


「良くそんな考え方を知ってるもんだな。まあ、確かに酒だけしか出してないから売り上げはいつもと変わらないかもな。でも実は酒が一番儲かるんだ」


何でも料理に関してはほとんど利益が無いらしく、魔法道具を使った作り置きでなんとかマイナスにならない程度だそうです。


確かにメイン料理にパン2個で銅貨1枚が相場ですからね、そこにスープが付くならそうなりますか。


「だから長期的に考えて薪代を浮かすために魔法コンロを導入するんだけどな」


確かにこの街の近くには森がないので、薪は高そうです。


私の場合、妖精魔法で薪なんて幾らでも作り出せるので、それを商売に出来そうですね、もしくは依頼を受けるとか。


その辺りもちょっと覚えておきましょう。


「そういえば魔法コンロの燃料はどんなものですか? やっぱりその都度魔力を込めるのでしょうか?」


「それも出来るけど、魔石で代用可能だな。いや、魔石の方がメインだ」


「魔石、ですか?」


「え? 魔石を知らないの、サクラちゃん?」


おっと、魔石とやらの存在は常識だったようですね、うっかりきゅぃー。


さて、その魔石という物ですがこれも良くあるテンプレ素材でして、何でも遺跡系のダンジョンで良く取れる物だそうです。


魔力が結晶化したアメジストによく似た鉱石だそうで、ソーサリアン魔法国製の魔法道具はこの魔石を燃料に動くものがほとんどだとか。


この街の地下迷宮ダンジョンだと、倒した魔物は死ぬと光の粉となって消えて魔石を残すという、ゲームみたいなところだからいっぱい取れちゃうそうです。


なのでこの街の主要輸出品はダンジョン産の魔石らしいですよ。


ミラさんによるありがたい解説でした。


「ダンジョンで出る一番弱い魔物の魔石、通称屑魔石でも着火棒なら10回は使えるからな、確か銭貨5枚とゴブリンを狩る分と同じ報酬だったはずだ、ギルドでな」


「この街の冒険者はダンジョンに潜って魔石を集めるのが主な仕事なのよ。でも実力がないと入れないから子供や駆け出しの人は大変なの。仕事がないんだって」


「そう思って清掃の依頼を出したんだけどなぁ、サクラ以外誰も来なかったよ」


「だから言ったじゃないですか、宿代じゃなくってお金にするべきだって」


「いやぁ、そのお金がな。だってコンロの値段が」


なるほど、やっぱり誰かかしら意見は言ってましたか。


それにしてもランク8まで入れないこの街だと、どうやってみんなはランクを上げているんでしょうか?


という私の疑問はミラさんが答えてくれました。


「ほとんどはの人は他の国に行ってランクを上げて帰ってくるわよ。そうもいかない子供の冒険者はこの街で清掃や倉庫整理なんかの雑用系、あとは街の外で採取系かな」


「え? でもここの宿は駆け出し冒険者をターゲットにしてるのですよね?」


この私の質問には女将さんが目を逸らしました、どうして?


「えっと、そうなんだけどね。宿泊客はほとんどいないのよ。いてもサクラちゃんみたいにこの街の冒険者事情を知らない人だけなの」


おおう、そういう事ですか。


だから今日の宿泊客が私だけという状況で、2人用の客室に泊まれたのですね。


「まあ、でもあと1週間もすれば増えると思うわよ」


「何故でしょう?」


「王位選抜の時期だからよ」




何だか面倒な時期に来てしまった感がありますが、私には関係ない事ですから気にせずランクを上げてダンジョンを目指す事にしましょう。


ダンジョンで新しい区画を発見してソーサリアンへ、それが私の目的ですからね。


ソーサリアンが作る魔法道具は有用だと解りましたし、是非魔法ポットを手に入れてみせますよー!


なお、この街の魔法道具屋で探してみましたが、門前払いをくらいました。


他国と同じように魔法道具を取り扱っている店は基本的に貴族か豪商でないと入店が出来ない。


冒険者の街なのにそれってどうなの?と思わなくもないですが、売っている魔法道具が生活に関する物だけだから冒険者は関係ないですね。


魔法道具の武具などは武具屋に置いてましたが。


ともあれ冒険者としてがんばりますきゅぃー。

お読みくださってありがとうございました。


何だか書いてて調子が良いので今日明日中にもう1話アップできそうです。

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