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「そんな形してるからどっかの貴族のメイドか何かと思ったよ」
「これは私服です」
「私服でエプロンしてるのかい、あんた? 変わってるねぇ」
現在お茶を頂いてのんびりしている妖精少女サクラです、どうも。
私が依頼を受けた冒険者だと知ったネルルさん、自己紹介で女将と呼んどくれと言われたので女将さんと呼びますが、彼女からお茶を勧められてまったり中です。
冷えた紅茶だったのですが、どうやらこの店では魔法道具を使って調理しているらしく、飲み物も暖めたり冷やしたりが可能なようです。
いきなり私が欲しかった魔法道具の登場に思わず食い付きそうになりましたが、ここはぐっと堪えてカウンター席で大人しくしております。
「まあ、確かに子供か10ランクの子が来るだろうとは思っていたけどさ、金に困ってそうに見えないじゃないかお前さんは」
確かに私の姿を見たらそう思いますよね。
綺麗好きゆえに髪も肌艶も衣服も綺麗にしてますし、何せ見ただけでそれなりの値段はしそうだと解る服ですからね。
なお、現在ローブは脱いで妖精鞄に仕舞っております。
「ダンジョンに潜るためにはランクアップが必要ですし、それに掃除は得意ですから」
「へぇ、ハウスメイドに就いてたりするのかい?」
惜しい、私はその上のメイドをマスターしていて、現在はメイド長です。
「その上のメイドですよ。これでも家事全般は得意としております」
「え? その歳でかい? まだ12、3だろ? よっぽど才能があったんだろうね」
前世を含めて家事関連を数年やっているだけです、はい。
「まあ、あれだ。それだったら戦力になりそうだね」
「お任せください。ところで店内の清掃とお伺いしましたが、どこまででしょうか?」
「今日は床とテーブルだけと考えてたんだが、予定してた子が風邪ひいちまってね。私とお前さんだけでやる事になっちまった。だから」
「そうですか。ちなみに何日掛けて全部やろうとしてたのですか?」
この酒場は1フロアだけのようですが、客席スペースだけでも結構な広さです。
カウンター席が10脚分、テーブルは10台ありますから1テーブルに6名まで座れるとして70席分の広さがあります。
狭いスペースを上手く利用したアース世界の日本のファミレスと違い、丸テーブルでちゃんと動線が確保された作りですから相当な広さがありますよ。
これをモップ掛けして空拭きしてとか床だけでも相当な重労働になりそうです、何せ酒場ですから床の汚れもしつこいでしょうし。
「そうだね。床だけで2日は掛かると見てるから、厨房まで居れて10日間は見てるよ。だから毎日受けてくれると助かる」
10日間無料で宿泊の上、毎日1食無料で付くと。
これは駆け出し、しかもこの街に来たばっかりの冒険者にはありがたい依頼でしょうね。
自宅がある冒険者の場合はどうするつもりだったのでしょう?
あ、そうか、だから他に受けた人がいないのか。
「いやぁ、正直に言っちゃうと10日間昼の営業が出来ないし費用も嵩むからさ、報酬も出せないんだわ」
1銭貨も発生しないのはそう言う事ですか。
食事の原価率がどうなっているかは知りませんが、1食銅貨1枚だとしたら銭貨5枚ぐらいかな?
そう考えたら1日銅貨1枚ぐらいで依頼すれば良かったような気もするのですが、その辺りは経営者じゃないと解らない感覚なのですかね。
「なるほど。それではものは相談ですが、私が全部引き受けた場合、どれぐらいの報酬を頂けますか?」
「え?」
うふふふふ。
私はエルフに擬態していますが本来は妖精さんです。
しかも綺麗好きでメイドな妖精さんですから、これぐらいの掃除なんてぱぱっと出来ちゃいます。
もちろん、どうやるかは秘密ですよ?
「私は、私は、妖精さん。
綺麗~好きで~、メイドな妖精さん。
どんな汚れも、きれいきれいにしちゃう~、妖精さん。
水の精霊さん、こんにちは。
あなたの力でしつこい汚れも綺麗にして頂戴。
風の精霊さん、こんにちは。
あなたの力で溜まった汚れを吹き飛ばして頂戴。
光の精霊さん、こんにちは。
あなたの力で汚い元もさっぱり輝くものにして頂戴。
さあ~、見せて~あげましょう~。
私~たちは~綺麗~好きな~掃除屋さん。
どんな汚れも、どんな埃も、どんな場所でもきれいきれい。
あっと言う間に綺麗なお店の出来上がり!」
はい、秘密も何も歌って踊る歌舞魔法で一瞬にして店内全て、それこそ厨房まで一気にお掃除完了です。
「え、ど、どうなってるんだい?」
その光景を間近で見ていた、といいますか、その範囲に入って洗浄された女将さんは唖然として固まっていましたが、私がくるっと最後のターンを決めて止まると我に返りました。
「私はエルフですから妖精魔法でこの通りです」
「いやいやいや。俄に信じられないけど、何だいこれは。もうまるで新築の店みたいじゃないか。私が知る限りここまで綺麗な状態は見た事が無いよ」
「エルフですから」
「エルフだからってここまで出来るものなのかい? いやあり得ないだろ」
「私はお掃除が得意だと言ったじゃないですか。あ、天井や壁、厨房もやっておきましたから」
「え? 嘘だよね?」
流石にエルフだからでは信じられないようで、先ほどから混乱状態に陥っている女将さんですが、私の厨房まで発言で慌てて確認に行きました。
「うわっ、本当に綺麗になってる! 油汚れも無くなってるじゃないか! 凄い!」
そうでしょうそうでしょう、私の歌舞魔法による室内洗浄、お掃除魔法は凄いのです。
一頻厨房で騒いでいた女将さんは私のところまで慌てて戻ってきて、いきなり私の両手を握りました。
「凄い、凄いよお前さん! これで明日の昼、いや今日の夜も問題なく営業出来る。助かったよ」
「いえいえ。あ、でも1つお願いがありまして」
「何だい? 1つどころかもっと聞くよ?」
「この私の魔法は口外しないでくださいね」
「何でだい? この魔法があったら城でだって働けるだろうに」
「そういうの興味ないですから」
「欲が無いねぇ」
「それに、私は綺麗好きな妖精さんですからね。秘密にしておきたいのです」
「はは、妖精ね。その形だったらそう言われても納得しちゃうな。まあ、変わったエルフだという事は解ったよ」
「あ、そういえば、私の事はサクラとお呼びください」
「了解だよ、サクラ。それで秘密にするのも了解だ」
こうして私は10日分の宿を確保し、初めての依頼を完了させるのでした。
冒険者だろうと何だろうと誰かからの依頼で仕事をした場合は、その結果を依頼主に報告する必要があります。
勿論大元の依頼主である女将さんには目の前で完了報告を済ませてます。
でも私はギルドで依頼を受けたのですから、ちゃんとギルドへの完了報告が必要なのです。
ですので、今回の依頼の変更点や報酬について女将さんと相談し、私たちは揃って冒険者ギルドへやって来ています。
そして依頼者専用窓口に並んでいたのですが、冒険者資格入手で担当してくれたニムさんがこちらに近づいてきました。
「こんにちは、ネルルさん。どうかなさいまし、あれ? サクラちゃん? も、もしかして何か問題でも?」
来てくれるのは良いのですが、そんな大きな声で慌てられると注目の的じゃないですか。
折角母と子みたいな二人組だから目立ってなかったのに。
女将さんは身長が180cm近い高身長だから本当に親と子にしか見えません、むぅ。
「えっと、ニムだったか? ギルドの中で騒ぐんじゃないよ。みんな見てるじゃないか」
「す、すみません」
流石経営者で元冒険者、こういう時の声や雰囲気に迫力がありますね。
なお、女将さんの職業経歴は戦闘職のオンパレードで、レベルも相当高いからかなりのやり手だったと思われます。
流石に今は現役を引退しているのでちょっとぽっちゃり体系、でも美人になっちゃってますけどね。
肝っ玉母ちゃん、というワードが頭に浮かびましたが、決して口にはでしてはいけない危険な香りがする想像でした。
「あー、そうだね。会議室とか使えないかい? 出していた依頼の変更をお願いしたいんだ。あとサクラはちゃんと依頼を終わらせてくれたよ」
「そ、そうですか。では、どうぞこちらに」
どうやらこの国の冒険者ギルドでも会議室に案内されるようで、私は大人しく付いて行きました。
だってこのまま残っていたら変な人、私たちを注目して胡散臭そうな目で見ていた冒険者たちに絡まれそうですもの。
そんな周りからの視線に居た堪れない気持ちになりながら会議室へと移動し、依頼者である女将さんがいるからお茶が出されました。
ギルドの質としてはコンテラクト王国よりもリファール王国の方が良さそうですね、お茶の味から判断しました。
「ネルルさん、申し訳ありませんでした」
「あたしゃ別に良いんだけど、新人でしかも子供であるサクラが迷惑しちゃうだろ。その辺を考えて行動しな」
「は、はい」
うん、上司と部下っていう雰囲気ですね、あまりあの立場になりたくありません。
「ところでさ、清掃依頼なんだけど内容を変更したいんだ。サクラ以外受けていないかい?」
「は、はい。サクラちゃん以外は誰も」
「まあ、そうだろうねぇ。あの報酬じゃあこの街だと受けないか。でも丁度良かった、明日以降の分は撤回しておくれ」
「ど、どう言う事でしょう?」
「サクラに全部頼む事にしたんだ、だから募集は掛けなくていいよ。それで今日の分は完了したから処理してやっておくれよ」
「え? まだ1時間ほどしか経ってませんが」
「もう終わっちまったんだよ。いやぁ、良い子を紹介してくれたよ」
「そ、そうですか。あ、サクラちゃん、タグを渡してくれる?」
「はい」
さて、これで1回分の依頼完了です。
これを後9日分ですから、都合10回分の依頼が完了と言ってもよいでしょう。
今日薬草の納品も20束しましたから、あれで4回分になるとの事なので、14回は達成確実です。
ランク9になるためには雑用系か採取系を100回クリアしないといけませんからまだまだ先は長いですね。
「しかし、良かったのかい? 報酬の変更がなくって?」
「あ、良いですよ。どこかで宿を取るつもりでしたし、あのお茶からすると料理は相当期待できますからね」
「ああ、期待しておくれ。と言っても今日から3日間は料理人を休みにしちまってるから私が作るんだけどね」
「そうなのですか?」
「ああ。それに夜の営業だって酒とツマミしか出さない予定で告知してたからなぁ。さて、どうすっかな」
何だか思ったよりも報酬が低く感じますが、宿を無料で確保出来ただけでも良しとしておきましょう。
その後、私の依頼達成が登録され、タグを受け取って女将さんの店へと戻るのでした。
「サクラ、1番テーブルにこれを頼むよ!」
「はーい」
そして現在、私はウエイトレスとして酒場の中を忙しく動き回っております。
何故こうなった、と思わなくもないですが、結構楽しんでおりますよ、きゅぃー!
お読みくださってありがとうございました。




