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自己紹介をしてくれないので仕方なく鑑定を使って名前を知った目の前で私を睨む青年騎士、ケベルさんはどうやら城塞都市を治める伯爵家の4男坊のようです。
何で出身領である城塞都市で騎士をやらずに王都の第一騎士団に所属しているか解りませんが、まあ、割とどうでも良い事ですね。
馬車を操っているのはシスターさんにも噛付いたやんちゃなお坊ちゃんであるザックさんで、こちらは外で寂しく御者やってます。
どうやら階級としてはケベルさんの方が上のようで、納得いかないが従っている感じです。
彼は王都の領地なし貴族、子爵家の次男坊で、こちらは家督を継げないから騎士をやってるんでしょうね。
そりゃあ性格も荒くなりますか。
さて、そんな傲慢貴族騎士なお二人ですが、私が馬車に乗り込む時にエスコートなんてしてくれませんでした。
現代の馬車と違って昔の馬車はステップが無かったり、あっても高い位置にあったりします。
なので女性の場合、足首、下手すると靴まで隠れる裾を引きずるようなスカートを穿いてますから誰かの手助けが必要なんです。
オタク知識によればこういう場合は男性が手を貸すものなんですが、そういうのは一切なかったです。
まあ、私のスカートは膝丈、その上から羽織るローブも膝丈で王都でも珍しい短さのものでしたから、難無く乗り込めましたが。
私の後ろにいて、乗り込むのを監視していたケベルさんは翻る裾が気になるのか視線を逸らしてましたが、そういう紳士さがあるなら手伝うぐらいして欲しかったですね、まったく。
そんな出発前から雰囲気の悪い馬車の中ですが、現在も一言もしゃべらず、窓も閉められていますから空気がすこぶる悪かったりします。
陽気に話し掛けられたりしたら逆に驚くので、沈黙でも良かったのですが。
ですが、やっぱりこの雰囲気に耐えれなかったのか、話し掛けてきました、敵意を抑えずに。
「おい、お前」
何を聞く気なのか知りませんが、せめて言葉使いぐらいは如何にかしましょうよ。
「何でしょうか?」
「何時までフードを被っているつもりだ。これから行くのは王城だぞ?」
「王城内ではフードなどの被り物が禁止されているのですか?」
「当たり前だろうが!」
「なるほど。守護者である近衛以外は被る物によって位を表している、などと言った理由でしょうか?」
「・・・よく解ったな」
「エルフですので人間たちの常識には疎いですが、階級制度やそれを表現する方法はエルフでも似たようなものがありますからね」
フードぐらいは外しましょうか、どうせエルフと知られてますし。
そう思ってフードを脱いだらケベルさんは目を見開いて、何故か敵意がなくなりました。
「これで良いですか?」
「あ、ああ」
反応もいまいち、といいますか、ちょっと擦れた声でしたし、相当驚いた感じです。
私がエルフと知っているのにこの反応は解せないです。
「お、お前のようにエルフとは皆そのような色なのか?」
「色ですか?」
「髪だ、髪」
ああ、なるほど、桜色の髪に驚いていたんですね。
確かにピンク系統の髪色をした人間って見た事ないですからね、王都に来てからも。
「どうでしょうか? 私の一族でも珍しいですし、他のエルフ族と交流がありませんので」
「そ、そうか。い、一族?」
「私はとある一族の出なのですよ。一族の掟により修行の旅路中、今回のような事になりました」
「も、もしやエルフの王族なのか?」
その質問に対しては沈黙の笑顔で答えておきました。
嘘ストーリーですけど、勝手に勘違いしてください、そっちの方が今後の役に立ちそうですし。
さて、私が王族かもしれないと思い始めたケベルさんですが、敵意を発する事もなくなり、言葉遣いも変わりました。
「それでサクラ殿は何故リザリア様の孤児院に居られたのですか?」
「聞いていないのですか?」
「私が受けた命令はあなたをお連れする事だけで、詳しい説明はありませんでした。ただ噂でレドリック卿が王女殿下にあなたの事を話していた、と」
「そうですか。レドリックさんが病で臥せっていた事はご存知ですよね?」
「ええ。騎士団を脱退する話まで出ておりましたから。それが先日治ったと復帰しましたから、噂になっております」
「どのような病気だったかは?」
「何でも身体が動かなくなる奇病だとか。魔法治療師でも治せない難病だったと聞いております」
「その病気を治す手立てを知っていたのが私だったのですよ」
「な、何と!」
「旅の途中で治療方法を探していたジュリアナさんと出会いまして。ああ、ジュリアナさんとは院であなたと口論になっていた女性です。その縁ありまして私が」
「そ、そうでしたか。それでは治療師なのでしょうか?」
「いえ。偶々知っていて、エルフだから治療の足掛かりを持っていた、それだけです」
ここまで話す必要はないんでしょうけどね、私って実は凄いんですよ、でもエルフだからってだけ、を演出しておきました。
何故こんな事を話しているかといえば、情報収集をしておきたかったからなんですよね。
円滑なコミュニケーションには、まず相手と仲良くなる、もしくはこちらの方が上であると認識してもらわないと。
どちらかといえば交渉術になっちゃいますけど。
「そうでしたか」
「疑問が解消されたようですね。ところで、そろそろお名前をお聞かせ頂いても?」
「ああ、これは失礼致しました。私は」
はい、ちゃんと自己紹介もしてもらい、質疑応答タイムの始まりです。
まず聞いたのは王城内での注意点です。
基本的に1人で出歩かずに付き添いの者と一緒に行動する事とみだりに物に手を触れない事。
近衛を含めた警備兵には必要ないが、貴族相手には最低でも会釈はする事。
付き添いの者以外には話し掛けない事などなど、結構細かい暗黙のルールがあるようです。
ただし、これは人間だけに当てはまるもので、他種族であるエルフには本来適用されないそうです。
騎士法や貴族法と呼ばれるものに上記に関する記述はあれど、それはこの国の国民や他国の人間に対するものであり、異種族については記述が無いそうです。
「ですからサクラ殿は本来する必要はないのですが、仕来りを気にする者が多いですから無用な争いを避ける意味で」
「従った方が良い、と」
「そういう事です。あと、王女殿下と謁見する場合などはその時の付き添いの者からお聞きください。謁見場所によって作法が違いますゆえ」
非常に面倒なルール盛り沢山ですが、中々有益な情報を得られました。
しかし、この話から行くと、私は別に召喚無視しても大丈夫だったのでは、法律上ですけど。
ただ、シスターさんが言っていたように王が捕縛命令とか出す可能性は高そうですし、無視するのは得策ではないですよね、やっぱり。
「そうですか。そういえば私を呼び出された王女殿下はどういった方なのでしょう? 私はまだこの国に入って1月も経っていませんから知らないのですよ」
「他国でも有名なのですが、エルフの間では噂になっていませんか。そうですね、お綺麗でお優しい方ですよ。私どものような一介の騎士にも分け隔てなくお声掛け頂けますし」
なるほど、美少女で性格は良さそうと。
でも、好奇心旺盛で王が我儘を許しちゃうから問題ありあり、という状況なのかな。
「殿下という事は王位継承者なのでしょうし、王太女にはなられていないのですか?」
「その辺りは私では。ただ、幼児期とはいえ王子殿下もいらっしゃいますし、まだ決められておられないかと」
「継承問題は国の問題、内乱の元と言いますし、早急に決めた方が良さそうですけどね」
「流石はエルフの王族でいらっしゃる。そのような事までお詳しいのですね」
「私が何時王族だと申しましたか?」
「い、いえ」
まあ、虐めは良くないですね、ほどほどにしておきましょう、最初の態度の悪さは忘れて。
うーん、ケベルさんのように階級が低そうな騎士でもこの反応、王位継承問題に関してですが、言葉を慎重に選んでいるあたり、やっぱり問題だらけっぽいですね。
そんな渦中に私が飛び込むって、夏の虫にならなきゃいいですけどね。
本当に面倒です。
そんな事を思いながら更に質問を続けるのでした。
王城に到着したのは結構時間が経ってからで、ケベルさんとの質疑応答タイムもそれなりに捗りました。
ケベルさん関連の話、といっても騎士についてですが、この国の騎士は9つの騎士団が存在していて、指揮官階級が就く役職のようですね。
騎士団には、上級騎士が務める団長、副団長、中隊長、騎士が務める小隊長、騎士の補佐を務める従騎士、そして一般兵という役職があるそうです。
中隊長は小隊を複数管理する中間管理職で、複数の中隊長を纏めるのが団長、副団長は団長の補佐、といった感じです。
騎士以上になると爵位、騎士爵が与えられるそうで、これらは全て王から授かるそうですよ。
そして王都には4つの騎士団が存在しており、王族を守る近衛騎士団、王城を守る第一騎士団、国全体を守り戦争では出撃する第二騎士団、王都を守るのは第三騎士団だそうです。
近衛騎士団は上位貴族だけで構成されており、これはやっぱり礼儀作法が求められるからであって、戦闘力は二の次のようですね。
第一騎士団は貴族でも武勲に優れた者だけが入れ、とか言ってますが、たぶん爵位の継げないお坊ちゃま集団なのでしょうね、だってケベルさん強そうじゃないし。
第二騎士団は弟さんが所属しているように爵位とか関係なしに完全実力主義の実戦部隊のようで、本当の意味でのこの国の剣であり盾のようですね。
第三騎士団は第一騎士団であぶれた者や第二騎士団の予備隊みたいな扱いで、中々の実力者集団のようです。
第一騎士団であぶれたというのは、爵位はあれど下位だから追いやられた根性だけはありますお坊ちゃんなのでしょう、だからそれなりにやれるのかと。
それで他の5つの騎士団は、それぞれの衛星都市、4侯爵1伯爵が抱える騎士団、という事みたいですね。
なので、実質の国軍と呼べるのは近衛騎士団と第一から第三までの騎士団だけのようです。
流石にそれぞれの規模は教えてもらえませんでしたが、騎士団の内訳を聞けたのは良い情報でした。
なお、ハイファンタジーラノベで良くある宮廷魔術師とかの魔法使い集団ですが、専門の部署はこの国では存在しておらず、それぞれの騎士団で1部隊として存在しているそうです。
ですから謁見の間で、王座に座る王と王族、その1段下に立つ宰相や将軍、宮廷魔術師っていう構図にはならないそうです。
そもそも将軍自体が戦時中にしか任命しない役職なので、現在は空職らしいですよ。
謁見中に激怒した将軍に斬りかかられたり、魔法の腕を試すと魔術を放ってくる宮廷魔術師とかは遭遇しないそうですから、安心しました。
ただ宰相は鑑定スキル持ちらしいですから、やっかいな事になりそうな予感がしまくりですけどね。
さて、情報の精査はこれぐらいにして、王城に到着した馬車は門から入り、そのまま城内を進み、ゆっくりと止まりました。
「ここからは一端登城審査を受けてもらい、その後付き添いの者が来ますので、その者の指示に従ってください」
「私の衣服や鞄を取られたりしませんか?」
「武装などが無いのであればそれはないかと」
ただ相手によっては寄越せとか言いそうですね、絶対に渡さないようにしましょう。
しかし、こんな事なら鞄を含め、全部王都で買った物と交換しておけばよかったですかね、もう遅いですが。
本日の装いは町娘風のワンピースとフード付きのローブに鞄と、全て妖精布製だったりします。
この様な恰好で王城内を歩くとか、ちょっと危険な気がしてきました、いろんな意味でね。
そうはいってももう着いちゃいましたし、行きましょうか。
等々王城内での戦いが始まろうとしているのですが、馬車を降りる時にケベルさんが乗る時と違ってエスコートしてくれました。
その姿を見てザックさんは口を開けて唖然としていたのは言うまでもないですよね?
そのままケベルさんのお案内で、城内へ入るための審査場所へ向かったのですが、やっぱり注目の的でした。
そんなにエルフが嫌いですか?
そんなに桜色の髪が珍しいですか?
そんなに服装が変ですか?
などと思いつつ、ケベルさんの後を付いていきました。
さあ、審査って何をするんでしょうね?
お読みくださってありがとうございました。




