6-2
ここ数日忙しすぎてアップせずに寝てしまいました。
取り敢えず1話のみですが、どうぞ。
それは突然やって来たのですが、私は買い物当番の子供たちと市場へ出掛けた帰り、院の前に立派な馬車が止まっているのを見掛けました。
王都に来るまで乗っていたような幌馬車じゃなく、ちゃんと箱型でニスか何かを塗っているのでしょう、光沢ある黒い木製の馬車。
それを引く馬も大きめで毛並みもよさそうなので高級馬車、というイメージを私に与えました。
一緒にいた子供たちは中々見掛けない馬車に瞳を輝かしている、かと思いきや怯えているようで、どうも貴族が乗るような馬車だったようですね。
御者は居ないようで、完全に無人の馬車。
よくぞ盗まれないものだなぁ、と感心しましたが、誰が好き好んで貴族の持ち物を盗むのか、と思えば無人で放置していても問題ないかな。
人様の家の前に放置とか迷惑以外の何物でもないですけどね。
「だから出掛けてて居ねーって言ってるだろ!」
院内から誰か、いえ、これはジュリアナさんの声ですね、機嫌が悪そうな大声が聞こえてきました。
あー、なんか揉めてるなぁ、とため息を吐きつつ、怯える子供たちを宥めて孤児院の中に入りました。
当番の子供たちは裏口から食糧庫へ向かわせ、私は表玄関から入り、2人の豪華な衣服を着た男性の後ろ姿を見つけました。
腰には立派な意匠が施された鞘の剣を帯びており、王都内を巡回する警備兵ではなく、騎士、という言葉を連想させる井出達の2人です。
こっそり鑑定しましたら、やっぱりこの国の騎士で、第一騎士団所属とありました。
弟さんとは別の所属のようですね。
まあ、そんな2人に対してジュリアナさんは噛付いているようです、大丈夫なんでしょうか?
「だからここにエルフの娘が居るのは解っている。隠し立てするとタダでは済まんぞ?」
「誰から聞いたか知らねーが、サクラに何の用事だ?」
あら、私に用事があったようですね。
それにしても私がエルフと知っているのは一部ですし、その人たちには私がエルフである事を漏らさないようにお願いしてあったのですが。
「エルフの娘には召喚命令が出ている。無視するようならこちらも手荒な手立てに出る事になるぞ?」
何で召喚されなくちゃいけないのか、よりもそれぐらいで手荒ってどこのヤの付く自由業さんですか。
いや、あの方たちは表向きちゃんとした職業に就いてますし、手荒な真似を公言しませんよね。
するのはチの付く副業さんでした、自由業さん、貶めるような発言申し訳ございませんでした。
なお、私は隠密効果で舌戦中のジュリアナさんと騎士2人から気付かれておりません。
もし手を出そうものなら背後からびりびりっとしてあげようと思います。
偉そうにしてますが、この騎士たちは種族レベル15で騎士レベルも5と大した事ないですからね、おそらく一撃じゃないでしょうか。
レベル15って、巡回している警備兵さんの方が強いじゃないですか。
うーん、もしかしてこの騎士たちは貴族のお坊ちゃんなのかも知れませんね。
「ちっ、何で俺たちがあんな平民騎士の言う事を」
「一応レドリック卿は俺たちより階級が上だぞ。発言には気を付けないと問題になる。事実だとしてもな」
「なっ!? リックが言い出した、だって?」
あー、なるほど、そういう事ですか。
「ああ、そうだ。ここにエルフが居て魔法の腕や知識が豊富だそうじゃないか。自慢げに話しておったそうだぞ?」
「あ、あのバカが!」
うん、騎士のくせに約束もちゃんと守れないのは馬鹿ですよね、まあ、命令されたら話すとは思ってましたが。
まあ、これ以上はジュリアナさんや孤児院に迷惑掛けそうですね、顔を出しましょうか。
「そうですか、それで何故私を呼び出しているか理由を聞いても?」
「「何者だ!?」」
「サ、サクラ!」
「ただいま戻りました、ジュリアナさん。私宛のお客さんのようですが、この方たちは?」
「あ、ああ。こいつらは」
「お前がエルフの娘か? フードなぞ深く被りおって怪しいやつめ」
私とジュリアナさんが話しているのに遮るとか躾がなってませんね、多分貴族のお坊ちゃんで騎士なのに。
私もこの格好は怪しいと思っていますが。
「私がエルフだったら何か? フードについてはエルフというだけで絡んでくる程度の低い方が多いと聞いてますので」
「な、何だと!」
「あなたとは言っておりませんが? それでご用件は?」
「くっ、まあいい。お前に召喚命令が出ている。すぐに出るから大人しく付いてこい」
「どなたからの命令ですか?」
「何故そのような事を言わなくてはならん! エルフごときが調子に乗るな!」
あー、うん。
やっぱり貴族のお坊ちゃまぽいですね。
先ほどから怒鳴っているのは片方ですが、もう1人も私に敵意を向けて来てますし、2人からの気配で危険感知が反応してますよ。
さて、どうしたものか、と思っていましたら院の奥からきこきこという音と共に車椅子がやってきました。
「騒々しいですね、先ほどから。どうかされましたか?」
「シスター、こいつらがサクラを」
年長の子供が押す車椅子に乗ったシスターさんです。
シスターさんは温和な笑みを浮かべておりまして、こんな険悪な雰囲気でもいつも通りでした。
流石です、シスターさん。
「おい、老婆」
って、そんなシスターさんにも噛付きますか、このお坊ちゃんは。
何やら凄いコネを持ってる方ですよー、相手を見てやらないと大変な事になりますよー。
という私の思念が届いたのか、もう1人の騎士が慌てて止めました。
「止めて置け、ザック。この方には手出し無用だ」
「なっ!? ただの老婆にか?」
「同僚が失礼したシスター、非礼を詫びる」
「いえ、気にしておりませんよ、元気が良いのは若者の特権ですから」
「ありがたい」
えっと、本当に何者なんですかね、シスターさん。
そして器が大きいです。
「それで、当院に滞在しているサクラさんが召喚されているとの事でしたが、どなたからの命令ですか?」
「王女殿下です」
「はぁっ!? 王女殿下が何でサクラを」
「詳しくは俺たちも知らん。だが、本日王女殿下より命が下ったのだ。これは王族よりの召喚である。拒否は出来ぬぞ」
王女殿下ですか。
そういえばこの国の王家がどういう物とか全然聞いてなかったですね、興味なかったですし。
「そう、王女が。ごめんなさい、サクラさん。王家からの召喚はこの国にいる限り拒否出来ないの」
「えーっと、それはこの国に所属していない者でも適用されるのですか?」
「ええ、拒否すれば手配が回ってしまうわ。あまり関心しない慣例だと思いますけどね」
ふむ、王族の命を拒否したら犯罪者ぽい扱いですか。
二度とこの国に来ないのならどうでも良いですが、偶にはここに遊びに来たいですからね、受けておきますか。
「解りました、そういう事なら。召喚命令に従って同行します。ただし少しばかりお時間もらえますか?」
「大人しく同行するなら少しだけ待とう。表に馬車が止まっているからそこまで来たまえ」
騎士たちはシスターさんに会釈してから出ていきました、噛付いていた方は、乱暴な会釈でしたけどね。
さて、荷物を纏めていきますかね、すっごく面倒ですけど。
その後、ジュリアナさんの部屋に置いてあった物、この国で買った衣服や設置してあったハンモックを回収し、鞄に入れるふりをして空魔法ストレージに収めました。
その作業を黙って見ていたジュリアナさんですが、表情は暗い。
まあ、弟分である弟さんがばらしてこんな事になったのですから、思うところがありますよね。
「ジュリアナさん」
「サクラ、本当にすまない。リックの所為で」
「いえ、ジュリアナさんの所為ではないですし、いいですよ」
「でも」
「正直言いますと、あの人には失望しました」
「・・・それは、しょうがない。命の恩人の願いを破ったんだからな」
「ですが、仕方ないとも思ってますよ。あの人はこの国の騎士なのでしょう? だったら上からの命令は無視出来ないと思います。その上が王族だったら尚更かと」
「だけどよ、そうだとしてもよ」
「それにあの人、女性に弱そうですからね。王女さんが美人なのか知りませんが、言い寄られて思わずうっかり、かもしれませんよ?」
「うっ、こんな時まで弄るなよ。いや、まあ、あいつは女関係はだらしないというか、八方美人だからな」
「まあ、だから気にしないでください、とは言いません。ジュリアナさんの所為ではない、あの人が悪い、と思ってください」
「・・・ああ、解った。まあ、その、また来るよな?」
「ええ、もちろん。また遊びにきますよ。その時も泊めてくださいね」
「もちろんだ!」
さて、ジュリアナさんの気分も回復しましたし、そろそろ行きましょうか。
あ、でもその前に王家についての情報ぐらい聞いておきましょうか。
ジュリアナさんに確認したところ、この国はコンテラクト家という家系が100年前から王を輩出しているそうです。
元々の都市国家だった頃は、別の王家がこの国を治めていたそうで、魔王が大陸中央地域で暴れまわった時にその王家は断絶したそうです。
ただし、他家に降嫁していた女性だけが生き残っており、勇者クリスの魔王討伐後にその女性が新たな家系コンテラクトを作って女王となり、国を引き継いだそうです。
コンテラクトと名付けたのは勇者との契約によって引き継がれた王家だからで、そして国名もコンテラクト王国と改名したそうです。
昔の国名はどうでもよいとして、その女王さんがなんと勇者クリスが幻惑の森に来る事になった原因である病に罹った姫様だったのです。
なるほど、そりゃあ、この国が妖精女王に多大なる恩、魔王から救っただけではなく、崇拝レベルで好かれている要因だった訳ですね。
そんなコンテラクト王家ですが、現在はレンドルフ王が王位を継いでおり、中々世継ぎの男児が生まれず、生まれてもすぐに死んでしまったとか、ちょっと呪われてそうな家系です。
その呪われてそうなコンテラクト王家ですが、現在の王位継承第一位は16歳の王女様で、その下が5歳の王子様との事です。
そして今回私を呼び出したのが、第一位継承者であるクルルーシュ王女殿下だった、という訳です。
「まあ、クルル姫は王から溺愛されているからな、我儘を言っても採用されちまうんじゃないか?」
「クルル? 略称がまかり通ってるのですか?」
「ああ。王が言いふらしてな、他国でもクルル姫として通っているはずだぜ」
「うわぁ。それにしても面倒ですね、この国の王家」
「何でだ?」
「次代の王としての継承指名は済んでいないのでしょう? ただ第一位というだけで」
「んー、一応そう聞いてるな」
「だとしたら5歳の王子が絡んで王宮内はドロドロじゃないですかね」
「・・・ありそうだな」
王宮内はとんでもない魔窟と化していそうな予想が立ちました、すごく行きたくありません。
ですが行くと言ってしまいましたから、行きますけどね。
しかしこれは事前に情報をもっと集めていないと本当に危険ですね。
「クルル姫について何かあります?」
「んー、お披露目とか一切されてないからなぁ、酒場のうわさ程度だぞ?」
「それでも教えてください」
「何でも好奇心旺盛な姫さんらしくてな、幼少の頃から色々と侍女や文官を困らせていたそうだぞ」
お転婆姫だったのですかね?
「例えばこの国の象徴でもあるトウカの実を全部取っちまって1本枯らしたとか」
「・・・エルフとしては許せませんね」
「東方地域由来の特別衣服が見てみたい、と交流があまりない東方地域に使者を派遣した、とか」
「あ、それはちょっと私も興味あります」
「派遣は失敗したらしいけどよ。まあ、そんな感じで我儘姫っていうのが私たち王都民の認識だな」
「め、面倒そうな姫さんですね。もしかして私が呼ばれたのもエルフが珍しいとかですかね」
「かも知れねえな」
はぁ、もっと情報収集しておきたいですが、これ以上聞きたくなくなりました。
ま、まあ、情報不足ではありますが、出たとこ勝負でいきますか。
何かあったら逃げればよいですし、孤児院に遊びに来るのも隠密性を最大限に利用して密入国すれば済みますしね。
城壁なんか羽妖精である私の前では壁にはならないですし。
そういう事で、私はジュリアナさんを始め、シスターさんや子供たちと別れのあいさつを済ませ、王城へと行く事になりました。
王城というか、王族からの呼び出しですから王宮へ行く、が正しいですね。
さて、どんな面倒ごとが待っているんですかね?
私は厳しい目付き、危険感知が反応する視線を浴びながら、揺れの少ない馬車で運ばれるのでした。
どなどなー。
お読みくださってありがとうございました。




