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早起きしたので投稿しました。
本日も1話のみです。
自己紹介の前に威圧してきた初老の男性はこの冒険者ギルドコンテラクト王国王都支部の支部長、マスターをしている方です。
威圧の方法がおそらく赤眼様の魔眼と同じような瞳に魔力を込めるタイプのスキルだか技術だと思います。
赤眼様ほどの威圧感はなかったのですが、ここは少女らしく威圧されておくか、それともちゃんと抵抗しておくか悩みどころです。
ですが、ここはあえて目には目を、歯には歯をで行きたいと思います。
魔力操作スキルで瞳に魔力を全開きゅぃー!
「話しは聞かせっ!?」
うん、どうやら私の魔力と魔力操作レベルの方が上だったようですね、成功です。
「支部長?」
「ああ、いや、何でもない」
シャーリーさんがマスターさんの異変に気が付いたので威圧返しを解除しておきました。
あの見開いた目を見れただけで十分ですね。
どういうつもりで威圧してきたのか見当は付きますが、イニシアチブを取ろうとしてもさせませんよ。
異世界の詐欺師に鍛えられた私の交渉術を舐めては痛い目をみますよ、マスターさん。
あ、私の威圧返しを見てしまった光魔法使いと思われる女性は気絶しちゃったようですね、ちょっとやり過ぎたかもしれません。
まあ、そういう感じで商談が始まりました。
商談?と疑問に思われるかもしれませんが、私がやろうとしているのは取引きです。
なのでこの話し合いは交渉なのですよ。
さあ、始めましょうか!
「ごほん。まずはリックの病が治ったと聞いたのだが、本当か?」
「いきなり支部長とか勘弁してくれよ、バーガスさん。ちなみにリックの事は本当の事だぜ。今朝も元気に朝飯を食ってたな。たぶん2,3日で復帰出来るんじゃないかな。それまでは院にいるらしいぞ」
「そうか、それは良かった」
うーん、話しぶりからすると、マスターさんも弟さんの事を知っていそうですね、しかもかなり親しく。
その辺りも交渉に影響してきそうですから一応頭に入れておきましょう。
可能性としてはマスターは孤児院の卒業生、ないしはシスターさんと知古で現在も親しい、その関係でジュリアナさんや弟さんとも親しい、ですね。
「安心したところでそちらのエルフのお嬢さんなのだが、何者なのだ?」
やっぱりまずは私を抑えに来ましたね、予想通りです。
その為にイニシアチブを取りに来ていたのでしょう、返しておいて正解でした。
1階の私の話を聞いて少しは警戒していたようです。
後顧の憂いを断つ、そんな考えだったのでしょうね。
「今回の旅の途中で会った魔術師だ。エルフだけに中々な腕前だったな」
「ほう、それは見てみたいな」
「先ほどお見せしましたが、まだ足りませんか?」
「っ」
「ん? サクラ、何の事だ?」
「何故か私に威圧らしい事をしてきましたから仕返ししておきました」
「「なっ!?」」
「まあ、それなりだったのではないですか?」
「バーカスさんの威圧をそれなりって」
「し、信じられない」
いや、だって赤眼様を始めとした幻惑の森の猛者たちの眼光に比べたら全然でしたよ。
狼さんたちに囲まれたレベル?でしょうか。
日常茶飯事なので慣れました、嫌な話ですが。
「あ、その所為でそちらの女性が気絶しちゃってます。起してあげては?」
「何? おいレベッカ?」
「・・・はっ!?」
「えっと、サクラ。戦いに来たんじゃないんだから穏便にだな」
「何を言ってるんですか、ジュリアナさん。最初に仕掛けてきたのはあちらですよ? 防衛して何が悪いのですか?」
「あ、あなたは支部長を何だと思っているんですか! 本支部長ですよ、ギルドの大幹部の1人なんです! それを!」
「それが何か? 私は冒険者ではありませんから従う義務も敬う必要もありませんよね。ただ一個人としてジュリアナさんとここにいるだけですが?」
「ここはギルドです! ギルドの中では支部長が最も偉い、だから従うのは当然です!」
「仕掛けて来た時は名乗る前ですよ。まさか誰もがこの方を支部長と知っていると勘違いしていませんか? 常識のない方ですね」
「くっ、この!」
はい、シャーリーさんてば煽られ耐性が無さすぎです。
こうも簡単に冷静さを失ってしまうとは、この場にいる資格があるんですかね?
そういう意味を込めて肩を竦めてマスターさんを見つめました。
先ほどから私たちのやり取りを黙って見てましたしね、私の実力を測っていたのでしょう。
満足されましたか?
「落ち着けシャーリー」
「ですがっ」
「良いから大人しくしていろ。ここからは私が話す。それで良いだろう?」
「ジュリアナさんがよろしければ」
「え? ああ、私は構わないぞ」
あくまでもジュリアナさんの話がメインであって、私はあくまでサポートです。
その辺りもちゃんとばらしながらの交渉です。
本来ならその辺を誤魔化すべきなのでしょうが、後でそこを突かれるより先に開示しておいた方が被害は少なくて済みます。
「私の事などどうでもよいのでは? それよりも偽造鑑定書の事で支部長をしているあなたが態々来られたのでは?」
さあ、ちゃんとした交渉を始めましょうか。
このギルドのシステムを運営する責任者の実力を見せてもらいますよ。
「どうでも、な。まあ、確かに話は鑑定書についてだ。何故偽造と解った?」
「私の言動だけでは証明出来ないので光魔法を使える方を呼んでもらったのですが、そちらの女性がそうでしょか?」
「ああ、レベッカが光魔法を使える職員だ。一応レベル2だったはずだな?」
「えっと、はい。その通りです」
ふむ、鑑定では所持スキルは解りませんから自己申告になってしまうのですよね、職業が魔術師でレベル15ですから可能性は確かにありますが。
年齢が18歳でそこまでのレベルという事は、日常的に光魔法を使ってそうですね。
あ、私のレベルとかは考えないでください、当にならないでしょう、加護持ちですし。
「そうですか。でしたらコンセントレーションは使えますよね」
「ええ、使えます」
「まさか透かしでもするのか?」
「試してみてもいいですが、鑑定書は羊皮紙ですから難しいと思いますよ。ジュリアナさん、出してもらえます?」
「あ、ああ、いいぜ」
ジュリアナさんが偽造鑑定書を取り出してテーブルに置くと、皆の注目が集まりました。
「これが、か」
「許可なく触らないでもらえます?」
不用意にマスターさんが触りそうでしたので、止めました。
まだこの人が詐欺の仲間か判断できませんし。
ジュリアナさんや弟さんと親し気なのに疑うのはナンセンスとか言われそうですが、親しいからこそ騙し易い、それが詐欺の常套手段らしいですよ。
詐欺師って、まずは相手と仲良くするところから始めますからね、詐欺師というより商売の基本ですけど。
「いや、サクラ。そこまではきつく言わなくても」
「現在のところ、この鑑定書は金貨1枚の価値があるのですよ? それを無造作に所有者の許可なくとか非常識だと思いますが、それはエルフだけですか?」
「ぎ、偽造なのに金貨1枚?」
「ええ。だってジュリアナさんはこの鑑定書があるから金貨1枚もの大金を払ったのでしょう? だったらこの羊皮紙は金貨1枚です」
「あ、そう言う事か」
「そしておそらくギルドもこの鑑定書があったから、金貨1枚もの大金の借用を許可したのでは?」
「・・・確かにそうだ」
「じゃあ、この羊皮紙はギルド公認の金貨1枚の価値ある物ですね」
私の交渉に対してマスターさんは少し顔色を悪くし始めましたね。
先ほどまでは驚きはしたものの、まだ私の危険性についてちゃんと理解していなかったようです。
私の危険性とは、この鑑定書で大金を得ようとしている、というもの。
まさか私みたいな子供がそんな事を考えてこの場にいると思っていなかったのでしょうね。
残念ですが、私はそれを狙ってここにいるんですよ。
ジュリアナさんにも話していませんが。
前世では女子高生やってましたが、家の家事全般を預かる立場にいた私です。
正直ただの子供ではなかったと今なら思えます、オタク趣味も含めて色々な意味で!
「そんな金貨1枚ですが、偽造されてましてね。そのためにコンセントレーションを使える方に来てもらいました。光量調節ではなく、屈折率調整はできますか?」
「く、くっせつりつ? えっと、それは何でしょうか?」
「リモートビューイングを使う場合の距離補正や角度補正をしますよね、コンセントレーションで」
「はい、しますね・・・あ、そう言う事ですか」
「ええ。この羊皮紙を全員に良く見えるよう拡大してください」
「解りました。支部長、よろしいですか?」
「・・・ああ、やってくれ」
「それでは」
そういえば、人間が魔法を使うところを初めて見ますね、今回で。
そう思って注目しておりましたら、何やらごにょごにょしゃべっておりますね。
聞き耳を立てたら詠唱と思われる意味のある言葉を発してます。
どうやら人間たちは無詠唱方式ではなく詠唱方式が基本のようですね。
結構長ったらしい詠唱、大体15秒ほど唱えてコンセントレーションを発動、鑑定書が大きく見えるようになりました。
「あ、倍率をもう少し上げてください。あ、もう少し。はい、結構です。あとは維持し続けてください」
「え、ええ!?」
魔法の維持って結構きついですよね、慣れるまで。
元々効果時間の長い魔法だったらそうでもないですが、こういう補助魔法系は本来魔法の効果を補助するので一瞬です。
でもコンセントレーションやコントロールは単体でもこういう使い方が出来ますから、慣れておいたら便利ですよ。
「さて、良く見えるようになったと思いますが、この辺りに注目してください」
と、偽造の跡、巧妙に文字を削って慣らした跡を指差します。
指まで拡大されていますから、空間に対して魔法を掛けているようですね。
その方法は辛くないですか、羊皮紙の表面だけの方が楽ですよ?
「ん、んん? あ、削った跡がある! しかも文字になってるじゃないか!」
「こ、これは・・・」
「まさか、真実の瞳の鑑定書を偽造なんて、本当に・・・」
「はい、魔法は終了してもらって結構です」
「ふ、ふぅ、疲れました」
「お疲れさまです。コンセントレーションのような補助を主体とする魔法は可能性の宝庫です。色々創意工夫していけば使い勝手が格段に向上しますよ」
「はい、ありがとうございます」
うん、この女性は素直で良い人ですね、子供相手に丁寧に礼を言うなんて。
このまま成長し続ければ良い魔術師になれそうですが、たぶんそうはいかないのでしょうね、王都なんかにいたら出て打たれるか騙されるので。
その辺りは私の管轄外なので、ご本人に頑張ってもらいましょう。
「さて、これで偽造は証明されましたね」
「あ、ああ。信じられないがこの目で見たら信じるしかないな。ところで君はどうやってこの偽造を?」
「私がどうこうなんて些細な事と言いましたが? それよりもこの鑑定書、幾らで買われますか?」
「「「は?」」」
うん、ジュリアナさんを始め女性陣は何言ってるの?という顔をしていますが、マスターさんは表情を固めました。
さて、いよいよ最終局面です。
少しも気が抜けませんね、頑張りましょう。
「え? バーガスさんが買う? どうしてそうなるんだ、サクラ?」
ジュリアナさんの質問は当然ですね、そして予想通りです。
中々良いリアクションをしてくれる人です。
やっぱりあなたと出会ったのは私にとっても良きものとなってますよ。
この場にいる全員が理解する、その事がマスターさんを追い詰める事に繋がりますから。
「今回の詐欺ですが、太陽神の神官を名乗る人物が行っています。神官を証明するシンボルを付けた」
「ああ、そうだぞ」
「そして太陽神殿が発行する鑑定書を使っての詐欺です。さて、誰が悪いのでしょう?」
「そりゃあ、もちろんあいつだ! あの野郎!」
「まあ、その通りなのですが。その人は何という名前で、どこに所属してますか?」
「マルクという名前で太陽神殿の本神殿所属とか言っていたが・・・」
「それを証明するものは?」
「あ! 確かに証明は出来ない! シンボルを持っているから太陽神の神官なんだろうけど、名前や所属までは、くそ!」
「そう言う事です。そうなると、どこに問い合わせを掛けますか? そしてこの話を聞いたとき、誰が悪いと思いますか?」
「そりゃあ、太陽神殿に問い合わせるだろ? 誰がってやっぱりあの野郎じゃないか?」
「本当にそうですか?」
「あ! そう言う事ですか。私だったら太陽神殿の神官が悪いって思います」
「え? なんでだ?」
「だって私はその人見てませんから、マルクと名乗った神官というより、太陽神殿の神官と認識します」
「そういう事です。だから誰が悪い、となったら、王都中のほとんどの人がそう思うでしょう。そして今回の件はギルドが鑑定書を見てお金を動かしてます。そうなったら・・・」
「「「あああ!?」」」
そうなのです、この詐欺事件は単なる個人間で終わる問題ではなく、太陽神殿やギルドの問題でもあるのです。
その事を最初から解っていた私とマスターさんは、それを意識してこの場にいたのですよ。
だからこそのマスターさんからのあいさつもなしに威圧だったのです。
その威圧のお陰で、私もマスターさんが気付いてると認識したのですけどね。
「さて、もう一度お聞きしましょう。この鑑定書、幾らでお買い上げいただけますか?」
結局鑑定書はマスターさんが個人的に買い取り、その金額は金貨1枚以上、多くなる場合は孤児院に寄付する、という事になりました。
なぜそうなったかと言えば、マスターさんが個人的に太陽神殿と話を付けるからです。
そしてこの鑑定書の持ち主、及び被害者はジュリアナさんですから、彼女の意向が優先され、又、私は金銭の受け取りを一切拒否したからです。
あくまでも私はジュリアナさんのサポート、ただ付いてきただけの体を最後まで貫きました。
私の目的はジュリアナさんの借金返済であって、ギルドから大金を得ようとしていたのは目的達成の手段ですからね。
その辺りをしっかり明示しましたから、金額交渉の際に揉めなかったのです。
なお、ギルド側の買い取り条件である関係各所への被害届は出さない、はジュリアナさんの了承の元、了解しておきました。
そんな事をしたら事が大きくなり過ぎて話を付けるどころではなくなりますからね、こっちの意見だけ押し通すだけじゃなく相手側の意向も飲まないとね。
こういうのも商売上での交渉というものらしいですよ、アース世界のお父さんのお話しから抜粋してお送りしました。
お父さん、本当に毎日大変だったんだね。
お酒を飲んで愚痴も言いたくなるよね、こんな話し合いを毎日とか。
「ふぅ、まさか君のようなお嬢さんに交渉で惨敗するとはな」
「そもそもお互いの着地点は同じでも、目的は違いましたからね。その段階で情報を握っていた私の方が圧倒的に有利だっただけですよ」
「商人のような切り口で施政者のような判断の仕方だな。本当に何者だ、君は?」
「ただの旅のエルフですよ。ジュリアナさんと縁故がある、それが付加価値として付いてきただけです」
「ふっ、そうか。アナ、良い出会いをしたな」
「ああ、そうだな。サクラに出会ったのは私の最大の幸運だ」
う、そんなストレートに言われたら、流石に照れるじゃないですか。
「きゅ、きゅぃー」
「こんな可愛い鳴き方をする子だけどな」
「ふっ」
きゅぃー!?
さ、最後の最後でうっかりきゅぃーですって!?
この口癖は何時になったら治るんですかー!
もう、もう、もう!
あ、それは兎も角、ジュリアナさんの借金はちゃんと完済され、奴隷落ちの危機も脱しました。
おめでとう、ジュリアナさん!
お読みくださってありがとうございました。
次回の投稿は明日の予定です。




