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気が付いたらブクマ100超えてました記念で1話だけ投稿です。
弟さんが居る部屋は孤児院でも一番奥まった場所にあり、倉庫として使っていた部屋を改修したそうです。
そりゃあ院を卒業した人の部屋が特別に用意されている訳ですから、そういう事情も分からなくはありません。
ですが窓もない部屋を病室に使うって日本人の記憶を持つ私には信じられない光景でした。
あ、隔離病棟とかを考えたらそうなのかな?
でも看病は院の子供たちがやっているそうですし、数日に1回はシスターが魔法を使っているそうですから隔離はされていないのでした。
さて、そんな部屋に入ってまず思った事は。
「うっ、カビ臭いし、嫌な空気が溜まってます」
「そりゃ病人がいる部屋だからな」
「換気ぐらいしましょうよ」
うん、病人にとってはあまり良くない環境でした。
ただ、この状況は当たり前らしく、各神殿が経営する治療院でも似たような病室らしいですよ。
やっぱりスキルや魔法がある世界だから病気に対する考え方も違うようです。
そしてその病人たる弟さんですが、部屋の奥に寝かされており、茶色の髪と少し頬がこけた顔だちがしゅっとした好青年って感じの人でした。
正直近寄りたくないですが、まずは診ると約束してますから近寄りましょう、口元に布を巻いてからですが。
「そこまでするか?」
「逆にしないのが不思議です。弟さんの病気が他者に感染するかどうかは別として、この部屋の空気を吸っているだけでおそらく別の病気になりますよ」
「え、マジで?」
「ええ」
まあ、あとで綺麗にしてあげましょう、本気を出して。
ともあれ、近寄って診てみれば、弟さんは眠っているようで、呼吸のリズムはかなりゆっくりですが規則正しいものでした。
一見すると疲れて寝ているだけに見えるのですが、ちょっと肌に違和感を感じます。
これは触るのも躊躇いますね。
もう鑑定しちゃいましょう、えい。
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名前:レドリック(男/20歳) 名称:― 種族:人間種成体(LV27) 状態:衰弱(空腹)/化石病(重度)
所属:コンテラクト王国/リザリアの孤児院/コンテラクト王国第二騎士団 職業:上級騎士LV2(経験職:ストリートチルドレン/王都民/戦士/騎士)
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うん、病気が何なのか解りました。
化石病とは体がどんどん化石のように固まっていく病気で、血の流れなども悪くなるために活動できなくなる病気のようです。
初期症状は虚脱感から始まって、睡眠時間が増え、皮膚が固くなり、体が動かしにくくなり、やがて寝たきり、一日中睡眠と病状が悪化していくようです。
睡眠まで行くと食事すらまともに取れなくなってしまうので衰弱死してしまうし、しなくともやがて心臓などの重要な臓器が固まって死ぬようです。
まだ重度の状態なので、睡眠時間がかなり長い、ほぼ一日で済んでいますが、あと少ししたら末期まで行きそうですね。
そしてこの病気は回復魔法では治せないもののようです。
まあ、私なら治せるようですが。
「どうだ? 治せそうか?」
此処で治せると答えるのは簡単なのですが、ジュリアナさんは付き合ってみると面白い人だから信用してもよいのですが、うっかりですからね、念を押しておきましょう。
「どのような病気か解りました」
「おお!? ほ、本当か! 何という病気だ、教えてくれ!」
「お教えする前にもう一度お約束、いえ、契約と言い換えましょうか。私と契約してください」
「えっと、幻惑の森の事やサクラの事を他人に言わない、だったよな。もちろん誓うぞ」
「他人とはもちろんシスターさんやこの弟さんも含まれます。当然、冒険者ギルドや国にもです。それとどうやって治したとかも含まれますからね」
「ああ、言わない」
「もし破るような事があったなら、全力を持ってあなたを排除しますよ。例えば騙して奴隷にしてしまうとか」
「うっ」
「それでも契約を交わしますか?」
さあ、もしこれで約束できないようなら私は何もせずに立ち去りますよ。
そして森に帰って侵入者対策を全力で取る、すなわち人間たちと戦争してでも森を守ります。
どうしますか、ジュリアナさん?
「解った。確かに私は色々と至らない、いや、正直サクラの足元にも及ばないさ。でも、これでも私には矜持ってものがあるさ。私が信仰する嵐神スサノオ様に誓って約束は守る」
「解りました、契約成立です」
すごく真剣で、神の名を出して宣誓し、私が受けた瞬間、ジュリアナさんの体を魔力が包みました。
もしかして、これ、契約魔法とかそういうものなんですかね?
鑑定で見てもその辺りが出てきませんから解りませんけど、信じてよさそうです。
「病名は化石病。体内の精霊力バランスが地精霊に大きく傾く事で発病する死に至る病で、回復魔法では治療不可能です」
「化石病? 聞いた事がない病名だが、そうか、だからシスターでも治せなかったのか」
「治療法は2つ。1つは神秘の霊薬と呼ばれるエリクサー、主様の果実が素材のポーションです」
「ああ、やっぱりそれだと治せるのか。だが今は無理なんだろう?」
「ええ、時期が悪かったとしか言えませんね。そしてもう1つですが、それは私です」
「へ?」
「良かったですね、ジュリアナさん。あなたは付いてましたよ、本当に」
「な、治せるのか!?」
「では、お見せしましょう。これは妖精やエルフにしかできない、私の一族に伝わる秘儀です。もちろん、これも秘密ですよ?」
私は人差し指を口の前に持っていき、ウインクをしておきました。
演出って大事だと思います。
さあ、見せて差し上げましょう、妖精さんの華麗で可憐な歌声と舞を!
「病魔さん、病魔さん。
そろそろお仕事終わりに、しませんか?
こっちに美味しいお水を用意、してますよ?
おまけに美味しい空気も、い、か、が?
今ならもれなくあったか~い陽光さんまで付いてきますよ~。
さあ、出番ですよ、水の精霊さん。
あなたの力で癒してあげて。
さあ、出番ですよ、風の精霊さん。
あなたの力で整えてあげて。
さあ、出番ですよ、光の精霊さん。
あなたの力で綺麗にしてあげて。
病魔さん、病魔さん。
あなたのお仕事終わったよ!
さあ、あなたも元の場所に戻りましょうね。
あなたの居場所は母なる大地!
あなたは優しい地の精霊さん。
これでもう、みんな、みんなー幸せだ~」
どうでしたか、私の可憐で素敵な歌舞魔法は!
くるくる回りながら水や風、光のエフェクトをまき散らし、歌声を弟さんに届けた私の姿といったら、もう、流石妖精さん!でした。
私の歌舞魔法があまりに素晴らしかったのか、感動したジュリアナさんは口をぽかんと開けて停止してます。
素晴らしい芸術を見たとき、人はこうなってしまうのですね。
「私の才能が恐ろしきゅぃー」
「はっ!? いやいやいや、なんだ、今のは!? 病人の前で歌って踊るとかふざけてるのかーーーー!」
あれー?
「・・・おおお、体が柔らかくなって肌も戻ってる。本当に治ったのか」
「そうですよ。ああ、でもしばらくは日中日向に出して風に当たらせてくださいね」
「まるで干物みたいな扱いだな」
「逆ですよ、逆。地精霊の活動を抑えてバランスを取りましたが、まだまだ不完全です。後は自然治癒に任せないと完全には治りません。まあ、運動不足でリハビリも兼てと考えてください」
何故か怒ってしまったジュリアナさんでしたが、弟さんの様子を確認したら病気の治療が成功した事に気が付いたようですね。
そしてジュリアナさんに言ったように、私の歌舞魔法だけでは完全に治った訳ではないので、あと数日は掛かります。
一応鑑定で確認したら状態異常も衰弱だけになっており、正直に言うとこの衰弱を治すためのものなんですよね。
こうでも言わないと変な事しそうですし。
「それにしてもあれは何だったんだ? あ、無理に教えてくれなくていいし、ちゃんと約束は守るけど」
「ああ、あれは歌舞魔法と呼ばれる儀式魔法の一種ですね。おそらくシスターさんも違う形での歌舞魔法を使えると思いますよ」
「シスターが歌って踊ってる姿は想像出来ないんだが」
私も想像できませんね、かわいく歌って踊る老淑女とか。
「普通に魔法やスキルを使うよりも効果が高いですからね、今回のような難しい処置にはぴったりなんです」
まあ、嘘ですけど。
時間を掛けて良いなら魔力譲渡(精霊)で、地精霊の反属性である風精霊を少しずつ活性化していけば治っていたはずです。
ただ、その場合だと体が持つか解りませんし、面ど、げふん、大変だったんですよ、ええ。
なので今回はあえて歌舞魔法に頼りました。
別に部屋や弟さんを同時に綺麗にしてしまおう、って事じゃないですよ?
ふぅ、空気が美味しいです。
「これで一安心だな」
「そうですね。まあ、まだ一応病人ですし、うるさくしては良くないですから部屋を出ましょう」
「そうだな。シスターや子供たちに教えてやりたい」
これでクエストクリアですね!
あ、でも、ジュリアナさんの借金をどうにかしないと奴隷落ちして無理やり吐かされる可能性があるんでした。
こっちの方が大変そうだなぁ、などと考えながら弟さんの部屋から出るのでした。
「そう、治ったのね。ありがとうサクラさん。私の子供を助けてくれて」
「いえいえ。私が治療方法を知っている病でよかったです」
「何という病気だったの?」
早速シスターさんに報告しに来たのですが、すごく喜んでくれました。
こういう笑顔を見ると、苦労してここまで来てやった甲斐があったというものです。
そしてやっぱり気になりますよね、病名。
巫女なんてやっていたシスターさんが治せない病気なんですから、しかも私が知っている人間で最大レベルの45なんて人ですし。
ジュリアナさんをチラ見してみたら非常に困った顔をしてますね、約束してますし。
まあ、病名ぐらいだったら言いましょうか。
「化石病と呼ばれる病気ですが、ご存知ですか?」
「確か北方地域でわずかに事例がある風土病だったかしら。原因は精霊の体内バランスの崩壊だったと記憶しているわ」
「流石に博識ですね。その通り、体内の精霊バランス、特に地精霊が活性化し過ぎることで起きる病気です」
「精霊に関する病気だと水魔法でも光魔法でも治せないのも当然だわ。魔法で治せるとしたら癒魔法の奥義で作れる生命の霊薬ぐらいかしらね」
おや、情報開示したら、中々に有力な情報をもらえましたね。
私も使える癒魔法ですが、最高位の魔法は生命の霊薬と言うらしいです。
「ここ数百年誰も習得していない魔法だから難しかったでしょうね。流石はエルフね、そのような難病を対処できるなんて」
「エルフは妖精を祖とする種族ですから、精霊との親和性も高いですしね、何とかなっただけですよ」
「能力だけではなく、病気を特定した知識もよ。本当にありがとう、サクラさん。これも月冥神様のお導きかしら?」
そこのところはどうでしょうか?
私は鑑定スキルを持っていたから解っただけですし、神様はこの世界ではなく異世界アースにいる方ですしね。
まあ、そんな事まで話す訳にはいきませんし、黙って頷いておきました。
「ところでサクラさん」
「はい、何でしょう?」
「リックの治療は終わったのでしょう? だったら滞在は中止かしら?」
「退去を望まれるならそうしますが、実は完全治癒していませんし、自然治癒で治す状態です。ですから経過観察を兼て滞在したいのですが」
あと、ジュリアナさんの借金対策とか。
「ええ、滞在はいつまでいてくれても構わないわ。でも、良いの?」
その良いの、はどういう意味何でしょうか。
何となくですが、エルフが人里、しかも歓迎されていないコンテラクト王国の王都に滞在してて困らないか、って事だと思います。
目の前の老淑女が心の中では追い出したいとか考えてるように思えませんしね。
「こうしてジュリアナさんと出会った縁もありますので、しばらくは、と思っています。それで不利益を被るようなら立ち去るだけですよ」
「そう。アナ、良い出会いをしましたね」
「ああ、シスター。私もそう思うよ。サクラ、改めて礼をさせてほしい。本当にありがとう、リックを救ってくれて」
うっかりを発動させないジュリアナさんに違和感を感じますが、そんな意地悪な思考は蹴とばして、素直に礼を受け取っておきましょう。
「どういたしまして」
と。
お読みくださってありがとうございました。
前書きにも書きましたがブクマが100を超えました。
それだけ読んでくれているという証でもありますし、とっても嬉しいです。
感謝ですきゅぃー!
あ、すみません、興奮して噛みました。




