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本日の投稿は1話のみです。
私が初めてこの森を出る事になった朝、赤眼様を始めとする妖精の花園の仲間たちやハヤテさん、序にゴリラさんにもしばらく離れる報告を済ませ、中層部の別荘へとやってきました。
皆から温かい言葉や励まし、じゃあいっちょやっとくか、的なプレゼントを貰い、ツリーハウスの入口前に立ったのですが、何やら中からごそごそと音がしてます。
おや、まさか泥棒?
そう思ってリモートセンスで扉の隙間から覗いてみれば、ジュリアナさんが台所で何かをしておりました。
「んー、これどうやって取るんだ? って、これ一体化してるじゃねーか。もしかしてこの水場自体が魔法具なのか!?」
泥棒の正体見たり、あなたは勇者か何かですか、ジュリアナさん。
「くそっ、流石にこんなでかいのは持ち運べないぞ。照明だけで我慢するか。これだけでも結構な」
「ちょっと待って!」
「よう、サクラ。朝早くからどこ行ってたんだ?」
「あいさつよりも何をしてるのですか、あなたは」
「ん? ああ、冒険者の性、お宝確保だな」
「きゅぃー!? 泥棒の間違いでしょう!?」
「きゅぃー? なんだそれは? いや待った、泥棒って。ここは冒険者ギルドでも有数の高難易度ダンジョン指定された場所だぞ。そこで見つけた物は発見者に所有権が」
「あなたが持ち出そうとしてるのは私物です!」
うん、やっぱりこの世界の冒険者ギルドとやらもゲームやアニメなんかと同じような設定ぽいですね、迷惑な!
その後私の剣幕に引いたのか、大人しくなったジュリアナさんにこのツリーハウスにある物は妖精女王ゆかりの品々で、所有権はエフェメラルさんにある、と伝えました。
まあ、勿論その場で考えた嘘ストーリーなのですが、私の作った物とは言えないですからね。
「な、なるほど。でも、妖精とはいえ危険生物認定されている薔薇姫の持ち物なら冒険者の権利は」
「何なら連れてきましょうか、その薔薇姫さんを」
「ひっ!? い、いや、うん、確かに泥棒だよな。妖精からでも盗っちゃまずい」
「解っていただけたら結構です。では照明魔法道具も返してくださいね」
「もう外しちゃったんだけど、いえ、返します」
はぁ、この人の問題を解決してあげる気がどんどんなくなってきました。
ですが赤眼様からのクエストですから気を抜かずに頑張りましょう。
「さて、朝から疲れましたが、ジュリアナさんの今後の予定を聞きたいのですが。あ、主様を目指すなら止めた方が良いですよ。何せ魔獣たちが警戒度を強めてますから」
「ぐっ、そうか。ただの猿にしか見えねぇ魔獣でもかなりな強さだったしな、私だけじゃまず無理だし。いや、でも騎士団に頼めば」
「90年前の悪夢を再現させるつもりですか?」
「あ」
昨夜赤眼様から聞いた話を引き合いに出しましたが、まあ、かなりの数の人間をぴちゅんしちゃったようですしね、伝わっているはずです、アンタッチャブルとして。
「確かに私はエフェメラルさんを始めとした森の方々と交流がありますので、人間よりもこの森側です。でも、だからと人間たちが無駄な血を流して良いとも思ってませんよ」
「サクラなら果実を取ってこれるんじゃ」
「私の一族のしきたりで無理ですよ。私も主様の試練を超えなければ得られません」
ジュリアナさんが昨日食べた果実の一部が桃(仮)とは一生の秘密と言う事で。
「・・・そうか。ならもうこの森に居ても仕方ないな。別の方法を探さないと」
「まあ、ですので私に一度その弟さんを診させてもらえませんか?」
「しかし、他に当てなんて・・・え、今なんて?」
「私はそれなりに魔法も使えますし、エルフですから魔力の扱いにも自信があります。人里に伝わっていない病気への対処方法などもあるかもしれませんし」
「お、おおお! そうか、エルフならば、か! ぜひお願いしたいのが報酬はどうしたものかな」
「私は聞きはしているのですが、人里へ出た事がありません。ですから常識なども知らない事が多いので、それを教授していただく、ではどうでしょう?」
「そ、そんな事でよいのか?」
「ええ」
まあ、人里出たけど常識知らずで酷い目とかに遭いたくないですしね。
ジュリアナさんがそれをしないとも限りませんが、危険感知に反応は出てませんからおそらく大丈夫でしょう。
泥棒行為にも反応しなかった事から若干の不安はありますが。
「ありがとう、サクラ。早速出発したいのだが、準備は」
「あ、もう出来てますよ」
「え? そのような恰好でか? 一番近い村まで森から徒歩2日。そこから馬に乗れても王都までは幾つかの町を挟んで最低5日は掛かるのだが」
「あ、このバックに色々入ってますから大丈夫です」
「え? ま、まさかそのバック! 魔法鞄なのか!?」
あ、うん、空魔法ストレージを誤魔化すために色々入る二次元ではよくあるなんちゃらポケットぽいバックとしておいたのですが、ファンタジア世界ではレア物だったみたいですね。
それはもう、このツリーハウスにある魔法道具どころではない血走った目で見てきましたが、一族代々の伝来の品って事で誤魔化しました。
それでも譲ってくれとしつこかったので、盗難防止用に所有者認定ぽい機能があると話しておきました。
まあ、ただの妖精布製の肩掛け鞄ですから何でも入らないから、所有者以外が使えないとかいう設定も嘘ストーリーなんですけどね。
実際に持たせてみて機能が使えないと実体験させましたから、それ以降は言ってこなかったですが。
でも一応これからは注意しておきましょう、よからぬ事をしようとする者が寄ってこないように。
「さて、それでは行きましょうか」
出発までに余計な時間を費やしましたが、これから私の人里デビューの旅が始まるのです!
さて、近隣の村まで徒歩で二日との事でしたが、この世界の人たちの移動速度やそれに伴う時間感覚は相当ゆるやかだという事に気付かされました。
確かに危険地帯ですからゆっくり警戒しながら移動するのは納得出来るのですけど、このままだと森を出るだけで夕方になりそうです。
そんなの時間が掛かって仕方がありませんから、ここは強引にでも時短する事にしました。
まあ、スキルや魔法を使っちゃうだけなのですが。
「私は探索や危険感知スキルを持っていますから先頭に立ちますよ」
「なっ!? 探索者の私でもまだ持ってない危険感知を・・・えっと、それじゃあ任せるぞ、サクラ」
「あ、序に歩く速度が速くなる魔法も掛けておきますね」
「おお!?」
ゲイルムーブじゃなくてレベル4になって新たに覚えた水魔法タフネスなんですけどね、使うのは。
この魔法、SP消費率が大幅に下がり、SP回復速度も上がりますから疲れにくくなるのですよ。
実際に使ってみた感じだと、一日何かの作業をしていても疲れない、全力でも数時間持つ、という結果が。
増々危険な兵士計画が実行可能になってきました。
し、しないですよ?
さてさて、魔法を使いましたのでぐーんと移動速度も上がり、リモートセンスを使って進行方向にいる魔獣たちには退去勧告をお願いし、一度も止まる事無く外縁部までやってきました。
この辺りになると木々の間隔も広く、背も高くないので明るくてすごく歩きやすくなります。
そして魔獣の気配はほとんどないですから、今まで出会った事のない動物たちもちらほら見かけるようになりました。
私はこの層に入るのは初めてで知らなかったのですよね、生態系を。
探索スキルで様子は覗っていましたが、実際に足を踏み入れるのは初めてですから。
そんな素振りは一切出さないように気を付けていましたよ、ジュリアナさんの手前。
そうやって進む事十数分、等々森の外が見えてきました。
森の外は木々が疎らにしか生えていない草原のようで、かなり遠くまで見渡せます。
はるか遠くに山が見えたり、雄大な自然、そんな言葉がぴったりな光景でした。
まあ、主様の上層部から見た事がありましたからあまり感動はしなかったですが。
「うーん、やっと森の外か。いや、かなり早いよな。あの小屋の場所は結構外目に在ったのか?」
「そうですね、外縁に近い場所ですよ。ちなみに次行こうとしても辿り着けないと思いますよ」
「え? どうして・・・あ、そういやこの森は幻惑されるんだわ」
「そういう事です」
「でもサクラが居れば」
「しつこいですね、ジュリアナさんも。今度招待するとしたらエフェメラルさんも同席してもらいますよ?」
「ひぃ!? け、結構だよ」
どれだけ恐れられてるんですか、エフェメラルさんは。
名を出せばすぐに引くぐらいすごいって事にしておきましょう。
森を抜けましたがまだまだ朝という時間帯ですし、疲れを知らない体になってますからタフネスだけ更新してどんどん進みました。
ここからは道を知らないのでジュリアナさんが先頭を歩く事になり、視界が開けた場所ですから何かに襲われる心配もありません。
一応魔法込みの探索を使ってみても魔獣はおろか危険である大型の動物すら存在しません。
いたとしても小動物や草食動物程度で、どうやら森の外はかなり安全な場所のようです。
そんな場所に何故人や肉食動物が集まって来ないかですが、それはジュリアナさんが答えてくれました。
「何時魔獣どもが出てくるか解らない場所に住めないって。一番近い村もほとんどが犯罪者や奴隷とかが開拓した村だぞ。住人もその子孫だな」
との事ですが、何と奴隷制度があるみたいです。
常識を得るという事で、田舎育ちのエルフを装って、いえ、本当に田舎者ですけど、奴隷制度について聞いておきました。
奴隷制度はよくあるテンプレな感じで、犯罪奴隷、借金奴隷、戦争奴隷という大きな括りがあり、魔法による契約で縛っているそうです。
この3種の奴隷のうち戦争奴隷は他国を侵略した時にぐらいしか出てこない奴隷で、100年以上国家間戦争は発生していませんから過去の制度のような扱いのようです。
現在最も多いのは犯罪奴隷で、これは殺人などの重犯罪者に適用する永久奴隷と、軽犯罪者に適用する年数奴隷が存在します。
そしてここ最近この国で増えているのは借金奴隷であり、借金の金額を返済するまで奴隷という制度となります。
どの奴隷になっても基本的な人権がなくなり、人ではなく物と同じ扱いになるそうなので、奴隷には絶対になりたくないですね。
そしてなんとジュリアナさんは借金奴隷になりそうなほど借金をしている状態らしいです。
騎士団に所属している弟分が奇病に罹ったため、その治療に関する事で奔走した結果、蓄えも全て掃き出し、冒険者ギルドに借金をしてなんとか、というのが今。
だから魔法道具や森の情報に対してしつこかったようですね。
照明魔法具1つでも借金はかなり軽減される、となれば解らなくもないですが、だからと言ってそれはそれ、これはこれです。
一応金策については考えも無いわけではありませんが、まずは弟さんから解決しませんとね。
「あ、奴隷になるなら私が買ってあげましょうか?」
「おいおいおい、そこはお金を貸しましょうか、とか、払ってあげましょうか、じゃないのかよ!」
それについては沈黙の笑顔で答えておきました。
だってよく考えたら奴隷になって、私が主になった方が色々都合が良いんですもの。
まあ、奴隷なんて欲しくもないですから、何とかする方向で考えていますけどね。
そのような会話を続け、途中で休憩などを挟んで歩き続ける事数時間、そろそろ夕焼けが空を染めそうだなぁ、という時間帯になったころ、遠くに煙が見えてきました。
「あれって火事なんでしょうか?」
「煙でも見えたのか? だったら誰かが夜営の準備でも・・・あれ? そろそろ村に着きそうな場所じゃねーか!?」
どうやら少し離れた位置にある大木は目指す村が近い事を知らしめる目印だったようですね。
説明セリフぽいですしすごく態とらしいですが、ジュリアナさんは大木を指さしながらそんな事を言いました。
どこの舞台女優だ、あなたは!
その後移動速度を速めた私たちは無事村に到着し、人里というものが体験できました。
そこは絵に描いたような中世のド田舎村って感じの場所であり、夕方だからか人の姿が見当たりません。
そしてそんな村だけに宿なし酒場なし、と余所者には居心地の悪い場所でもあったりします。
うん、折角の初人里なのに、現地人との交流とかそういうほのぼのとしたものは得られないんだろうなぁ、と村を眺めつつ、頬が引き吊るのを抑えられない私でした。
なお、その日の宿泊は村長さん宅の馬小屋でした。
そりゃあ、私はお金とか持ってないから家の中に泊めてくれ、とは頼めませんでしたから仕方ないとは思います。
思いますが、森の中の生活の方が人間らしかったなんて。
ありえなきゅぃー!
あ、結局ジュリアナさんも馬を買うにはお金が足りなかったので、次の目的地である町にも徒歩で行く事になりました。
本当にありえなきゅぃー!
お読みくださってありがとうございました。




